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始まりのストーリー

「・・・はぁ、はぁ・・・」


気が付くとそこは真っ白な世界だった。

吹雪で視界はほとんど見えず、ここがどこかもまったく把握できない。

ただ一つ言えることは、このままだといずれ俺は死んでしまうということだけだった。


「寒い・・・」


 厚着をしていないため、猛烈な冷気が俺の体から機能を奪っていく。

 このままでは凍死してしまう。とりあえずどこかに避難しなければ・・・。

 でもどこへ?前も見えないのに勝手に動いたら危ないのではないか?

 しかし、だからといってここでずっと待っていたところで助けが来る保証はどこにもない。それならば進んでいくほかない。

 そうして一歩を踏み出そうとした瞬間、左手に猛烈な痛みを感じた。


「血?」


 見ると左手からひどい出血をしていた。まだ少し温かい。

 なんでこんな大怪我を・・・。

 応急処置をしたかったが、手が震えて思うようにいかないため、俺は血がいきにくいように心臓より高く左手を上げながら歩くことにした。

 少し歩いてみてわかったことは、このあたりはどうやら森らしいということだった。人が通っている気配は当然ない。

 

「ダメだなこりゃ・・・完全に詰みだ」


 吹雪で体に雪が当たるのを感じながら俺はそう結論づけた。

 俺は再び左手を見ると、震えは止まっていた。

 べっとりとこびれついていた血は既に凍りついている。 段々力もなくなってきた。


「ふぅ」


 最後の力を振り絞り、近くにあった切り株を背もたれにして腰掛ける。同時に猛烈な眠気に襲われた。

 どうやらここまでのようだ。俺はよく状況もわからず、ここがどこかもわからないまま死んでいくというのか。

 

「ふ、ふふ・・・くくく」


 こんな状況なのに俺は何故か笑いがこみ上げてきた。どうやら死を目前にして俺は頭がおかしくなったみたいだ。

 肉体的にも、精神的にも限界が近づいていたその時。

 馬の鳴き声が聞こえてきたかと思うと、何かががこちらに近づいてきた。

 それは、俺に気づかずに目の前を通り過ぎたかと思うと数メートル離れたところで突然止まった。

 

「お嬢様?こんなところで降りられては危険です」

「大丈夫よ、少しだけだから」

                 

 お嬢様と呼ばれてる人は貴族だろうか。視界が霞んでよく見えなかったが、馬車にでも乗っていたのだろう。

 やがて一人の少女が姿を現し、こちらに近づいてくる気配がした。

 この吹雪の中、しかも俺の体は既に雪が積もっていたのに見つけられるなんてすごい視力だな・・・とかどうでもいいことを思っていると、目の前にその少女は現れた。

 少女は俺の体から雪を払うと、血だらけの俺を見て驚いた。


「ひどい怪我・・・。まさかもう死んでる・・・?」

「・・・いや、死んでない」

「きゃぁ!」


 俺の発した声に少女は驚いたのか、少し後ずさった。


「お嬢様!どうかしましたか!?」


 その声にもう一人誰かがこちらにこようとするが、少女が制止した。

 少女は再び俺と向き直る。


「ごめんなさい驚いてしまって。とりあえず、立てる?こんなところにいつまでもいたら凍死するわ」

「悪い・・・。ちょっともう立つ元気もないんだ。というか体が動かなくてさ」

「それは大変ね・・・。ソフィア!」

「なんでしょうかお嬢様。・・・これは」


 ソフィアと呼ばれた護衛の人は、俺を見てすぐ状況を察した。


「ひどい怪我をしているの。屋敷に戻って彼を手当するから運ぶのを手伝って」


 そういうと、少女は自身に巻いていたマフラーとコートを俺にかぶせてくれた。人肌で温められていたその服は、とてもいい匂いがした。


「大丈夫よ。悪いようにはしないわ。だから貴方はこのまま眠りなさい・・・」


 少女にそう言われると安心したのか、間もなく睡魔が襲ってきて俺はそのまま意識がとぎれた。




 













 目が覚めると俺はベッドの上に寝かされていた。一瞬天国かと思ったが、どうやら触覚も痛覚もあるし、傷もまだ痛むことからここは天国などではなく、現実であることが伺えた。

 傷口に手を当てると、包帯が巻かれていた。どうやら手当をしてくれたらしい。

 そこで俺は、倒れてしまった時の光景を思い出す。

 そうか、俺あそこで死を覚悟して・・・そしたら一人の少女とその護衛がきて・・・。


「あ、目が覚めたのね」


 その声に振り返ると、さっきの少女がいた。手には高そうなティーカップを持っている。

 さっきは視界が霞んでよく見えていなかったが、とても可愛らしい少女だった。年は15、6といったところだろうか。銀色の長い髪は彼女の可愛らしさを際立てていた。

 少女は、俺の方にやってくると、首に手を当てた。

 少女の手は温かった。 


「うん。だいぶ脈も安定してきたみたいね。安心したわ」

「・・・」

「あ、そういえばここがどこか言ってなかったわね。ここは私の屋敷よ。

 そしてこの部屋はお客様が寝るときの部屋ね」


 なるほど。俺はこの子の屋敷で看病してもらっていたんだ。

 そうだ、お礼を言わないと。


「助けてくれてありがとう。えーと、君は・・・」

「レミリー=オルコットよ。レミリーと呼んで構わないわ。そっちは?」

「ユウト=ヴィルヘルムだ。

 レミリー、助けてくれて本当にありがとう。あのままだったら確実に死んでいた」


 俺はレミリーに深く頭を下げる。


「気にしないで。当然のことをしたまでだから」


 なんて優しい人なんだろうか。見ず知らずの不審者とも思われてもおかしくない俺を、嫌な顔をひとつもせずに、助けてくれるなんて。


「レミリーに助けてもらったお礼をしないと。って言っても俺にはお金も記憶も何もないし、あると言ってもこの体ぐらいしか」

「お礼なんて気にしなくていいわ。私は見返りを求めて貴方を助けたわけじゃないから」

「でもそれじゃ俺の気がすまない。何かお礼をさせてほしい」

「うーん・・・そこまでいうならそうね・・・」


 レミリーが悩んでいると、ドアが開かれた。中から現れたのはさっきの護衛の人だった。確かソフィアさんだったか。


「目が覚めましたか」

「はい。これは貴方が?」


 包帯に巻かれた手を上げると、ソフィアさんは何故か少し嫌な顔をした。が、すぐに表情を戻すと頷いた。

 

「応急手当程度ですが。とりあえず止血を最優先しました」

「そうですか。ありがとうございます」

「いえ」


 表情を変えるわけでもなく淡々と一礼するソフィアさん。

 

「とりあえず、無事でなによりだわ。でも貴方、このあと行くあてはあるの?」

「ないな」

「そう・・・。そういえば記憶がないって言っていたわね。なら」

 

 レミリーが言葉を続けようとしたとき、突如彼女は胸を抑え始めた。


「うっ・・く・・・!!」

「お嬢様!?」


 さっきまで淡々としていたソフィアさんがあからさまに動揺した。


「大丈、夫よ・・・。ただちょっと気分が悪いから少し休むわ・・・。

 ユウト、傷が完治するまでは屋敷にいていいから・・・」


 そういうとレミリーはソフィアさんと共に部屋から出ていった。

 突然のことでどう反応していいかわからなかった。

 具合が悪かったのか。でも胸を抑えていたよな・・・。心臓病でも患っていたのか?

 レミリーのことも心配だが、俺は人のことを心配している場合ではない。自分のことを早く解決しないと。

  

「とりあえず、どうしようか」


 このまま寝続けていても問題が解決するわけではない。俺は早いとこなんであんなとこにいたのかとかあんなにひどい怪我をしていたのだとかいう原因を知らなくてはならないからな。

 方針を決めると、俺はベッドから降りて立ち上がった。背伸びをする。

 部屋から出てみるとそこはとても広い廊下だった。左を見ても右を見ても長い廊下が続いている。上を見上げればたくさんのシャンデリア。そして壁にかけられた幾つもの肖像画。床は全て絨毯(ジュウタン)で、とても綺麗だった。まさに大富豪の屋敷だ。

 

「おっ」

「ん?」

 

 誰かの声が聞こえて振り向くと一人の男騎士が俺を興味深そうに全身を見ていた。年はまだ若く、俺と同じぐらいといったところか。パッと見すごく真面目そうな青年に見えるが・・・


「ほうほう・・・。これは・・・」


 男騎士にじろじろと値踏みされるかのように見られ少し居心地が悪かったが、やがて大きく頷くと、こういった。


「そりゃお嬢様も拾いたくなるか。

 ・・・この屋敷で働いているジェームス=サンダーランドだ。宜しく」


そう言って俺に握手を求めてきた。

俺はジェームスに手を握り返す。


「ユウト=ヴィルヘルムだ。ユウトと呼んでくれ。

 ところで少し聞きたいことがある。レミリーはもしかして病気か何かなのか?」


 俺がそう言うと、ジェームスはバツが悪そうに顔を伏せた。


「悪い、それは俺からは言えないんだ。もし知りたいなら本人か、ソフィア姉さんに聞いてくれ」

「わかった。不躾な質問をして済まなかった」


 どうやらあまり触れてはいけない話のようだった。言ってから思ったが愚かなことをした。

 そこへ、ソフィアさんが戻ってきた。


「ジェームス。あなたはお嬢様の元へ行ってください。私はこの人と少し話がありますので」

「はいよー。じゃあなユウト、また後で」


 そう言ってジェームスは去っていった。残されたのは俺とソフィアさんの二人きり。


「とりあえず、こちらまで来ていただけますか」


 ソフィアさんは奥の廊下を指差すと、歩き始める。

 お互い、無言で廊下を歩きはじめる。外の吹雪は未だに降り続いており、窓にあたって音を立てていた。

 ・・・気まずい時間だった。

 やがて、部屋へ案内されると、鍵をかけられる。俺は黙ったまま、ソフィアさんが話すのを待った。

 

「・・・さっき、あなたを治療したとき、服が邪魔だったのと、血だらけでしたので服を着替えさせていただきました。それだけならまだよかったのですが、まさか・・・あなたが・・・」


 ソフィアさんは言葉を一旦止める。

 何だ?俺の体に何か・・・

 しかしソフィアさんの口から飛び出したのは予想外の言葉だった。


「あなたは、人間ではないですね?」


 そう言われた瞬間、俺は頭の中で何かがつながった___

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