Ep7 この木何の木? とりあえず切り倒して調べよう
朝、周囲はまだ日が昇りきっていないのか、まだ薄暗い
少しひんやりとした空気が気持ちいい
ここら辺は、かなり温暖な気候のおかげで、葉付きの枝を簡単にくっつけて作った隙間だらけの家でも十分に寝ることができた
ただ、やはり雨天対策として、ちゃんとした壁も考えなければならないな
しかし、木の壁は毎回組み立てるのがめんどいしなぁ
……いや、木枠を作ってそこに板張り付ければ、簡単に壁が組めるんじゃないか
接着のスキルがあれば、釘とか必要ないし、穴とかも開けなくて済む
床は床板作って、少し上げ底にしよう
雨が侵入してきたら、作りかけのものとか、道具がびしょびしょになっちまうからな
そうと決まれば、朝飯食って、大工作業だな
相変わらず、焼肉ときのこだが胃に何か入れないと気合が入らないからな
食ってる間に、スキルを確認しとくか
ステータスを開くと、レベルが上がっていたので、スキルを追加する
名前:ヒロ
種族:人間
1J:採取士Lv11
2J:生産廃人Lv12
3J:鬼薬師Lv1
スキル:採取Lv9、生産入門Lv8、斧術Lv11、石工Lv6、鑑定Lv5、解体Lv4、調合Lv8、製薬Lv8、識別Lv3、木工Lv9、切断Lv6、研磨Lv7、接着Lv5、分離LvMAX、細工Lv2、肉体強化Lv2、計測Lv1(New)
EXスキル:メディーナ式薬学
スキルポイント:0
計測:ものの長さ、距離を測ることができる
新しく手に入れた計測を使い、柱の位置を調整する
研磨で溝を作り、広さを固定する
そして、それに合わせて、木枠を作り、板を接着して、ぴったりの壁を作る
一枚完成したところで、オレは重大なミスに気づいた
木材が足りない
やるなら、総ビギナートレント製がいい
ならば、やることは一つだ
途中までできた、家を一回ばらして、アイテムボックスにしまう
代わりに、予備の斧を出して背負い、丸薬を補充する
昨日作った丸薬はまだ使わない
それ以前に作った作り置きがまだ余ってるからな
一応お守りとして、品質7のやつは、小さな革袋の中にしまって、首から下げてある
家の横に立てかけておいた斧を担いで、準備万端だ
とりあえず30本は伐採しないと家は無理だな
それじゃあ、ビギナートレント狩りだな
オレの安眠と趣味の為に犠牲になってもらおう
ふぅ、とりあえず休憩かな
時刻は12時過ぎ
既に午前中だけで20本程ビギナートレントが手に入った
想像以上にいいペースで伐採が進んでいる
ビギナートレントの経験値はそんなにいいのだろうか?
既に、βの時一ヶ月かけて育てたステータスに並びつつある
まぁ、成長が早いに越したことはないだし、どうでもいいか
そんなことよりも、昼飯だ
なんと、果物を見つけた
アールの実(食材)
品質:4 レア度:1
アールの木になる赤い果実、甘いが傷みやすい
味は、りんごに近いが、少し酸味が強い
アップルパイ的な感じにしたら、美味いかもしれない
だが、焼肉と焼しいたけしか食ってなかったオレの食卓に果物が増えたのはすごい変化だ
なんだろう、思わず感動してしまった
オレは今まですごく恵まれた食生活してたんだな
お袋に帰ったら感謝しよう
アールの実は木3本分伐採して回収したので、500個くらいある
当分は果物に困ることはないだろう
ただそれ以上に、肉ときのこは在庫があるんだがな
ステータスが上がり、武器も良くなったオレにとって奴らは魔物ではなく、食材でしかない
むしろ違う魔物出てくれないかな
いい加減味に飽きてきた
しかし、長いこと森をうろついているが、ランク2以上の魔物はビギナートレントしかいないみたいだ
食物連鎖の頂点が木ってどんな状況だ
まぁ、トレントは魔物も食う雑食植物らしいからな
正確には、根から生気を吸収してるらしいんだが、植物のくせにたくましいものだ
おかげでオレは良質な木材が手に入ってウハウハなわけだが
食事が終わり、次のビギナートレントを探そうと歩き出す
ズガァン
凄まじい衝撃が俺の背中を襲う
肺の空気が一気に押し出される
オレは必死に地面を転がり、木の陰に身を隠す
背中がズキズキする
HPも初めて半分を割っている
慌てて丸薬を飲み込み、呼吸を落ち着ける
一体何だってんだ
ビギナートレントで守ってた背中にあたって、HPが半分も持って行かれたんだ
頭に当たったらと思うと、ゾッとする
追撃が来ないようなので、木の陰から、予備の斧を出してみる
何も来ない
今度は、オレがさっきまでいた場所に向かって、斧を投げてみる
やはり、何の反応もない
覚悟を決めて、そっと木の陰から覗いてみる
そうすると、20メートルくらい先に一本の木が立っていた
オレがこの森で見たどの木とも違う
もっさりとした、広葉樹っぽい
木の周囲には、他の木は一切生えていない
そして木の頂辺には赤いHPバーがあった
識別は、距離が遠すぎて反応しない
名前も、遠すぎて確認することができなかった
もっとよく確認しようと身を乗り出すと
ボフッ
木から何かが発射された
急いで、身を引っ込める
ズガァン
何かが木に当たり、衝撃で木が揺れ、葉が舞い落ちる
そして、オレの横に何かが転がってきた
ドングリ?
それはドッヂボール位の大きさのドングリみたいな実だった
手にとってみると、持てなくはないがそこそこ重量がある
オレ、これくらってよく生きてたな
改めて、背筋が冷たくなるのだった
本来なら、逃げるべきなんだろうが、オレはあの木を調べてみたくなった
しかし、まともに近づけるとは思えない
あいつがいれば、喜んで突っ込んでくれそうだが、オレは躱すのでさえ微妙だろう
一発もらったら、間違いなく痛みで足が止まると思うし
あとはそのまま狙い撃ちで、死に戻りだな
斧には反応しなかったみたいだから、近づければ倒せる可能性もある
うーん、どうすっかなぁ
アイテムボックスの中身を確認しながら、思案する
そこで、今朝作った壁を思い出す
そうか、盾作って身を隠しながら行けば、近づけるんじゃないか
さっきの一撃を見ても、いきなり木をへし折る程の威力はない
それに、この木よりもランクの高いビギナートレントで作った盾ならそこそこ持つだろ
まぁ、ダメだったら、次のアイデアを考えればいいだろ
そうと決まれば制作だな
一旦身を隠しながら、距離をとる
どうやら射程があるみたいで、それ以降攻撃されることはなかった
周囲を確認して、安全を確かめる
そして、アイテムボックスを漁ってビギナートレントの丸太を取り出す
まずは、適度な大きさ切断し、研磨をかける
とりあえず、板状にオレの身が完全に隠れるように作ってみる
取っ手を付けて持ち上げて見ると、かなり重いが動かなくはない
支え棒でも付けて、ゆっくり進んでいけばいいか
だが、正面からまっすぐ受けるのはダメージがかさみそうだな
というわけで、相手に向かってV字状に作り直してみた
重さはさらに上がったが、安定性は増した
どうせ近づいて攻撃しないといけないからな
上からの攻撃も防げるように、上に向かうほど幅を狭くし、結果として三角形を二枚くっつけたような形になった
下には、近づいた時に攻撃できるように、開閉式の窓を付けて完成だ
ビギナートレントの大盾(盾)
頑強度:5.5 耐久度:2300
品質:3 レア度:2
まぁ、ざっくりで作ったにはなかなかの出来だろう
一度アイテムボックスにしまい、再びやつの近くまで移動する
とりあえず、耐久力チェックだな
一撃でぶっ壊れんことを祈ろう
盾に身を隠しながらじわじわと進む
ボフッ
ズガァン
ものすごい衝撃が伝わってくる
急いで盾を鑑定する
ビギナートレントの大盾(盾)
頑強度:5.5 耐久度:2295
品質:3 レア度:2
よし、5しか減ってない
再び移動を開始する
ボフッ
ズガァン
どうやら、連射はできないみたいだな
だいたい10秒弱ってところか
耐久もまだ十分ある
ボフッ
ズガァン
ジリジリと近づいていく
近づくほどに衝撃は強くなるが、耐えられなくはない
常時耐久のチェックも怠らない
ここで、改めて識別をした
バレットツリー
ランク2
ドングリを高速で射出して攻撃をする
まさに名前の通りの木だな
よし、もっと前に行くぞ
さらに何度か攻撃を喰らいながら、ついに斧が届く範囲まで接近できた
近づいた時に、今更ながら根の攻撃に全く対策をしてなかったことに気が付いたが、どうやら根は動かせないようだ
本当にラッキーだった
ここで、盾をひっくり返されたら、間違いなく死ねる
窓を開け、ゆっくりと斧を出す
どうやら、この距離は攻撃できないらしくさっきからどんぐりの攻撃が止まっている
最初は怖々殴っていたが、反撃がないので、がんがん木を斧で叩く
流石に外に出る勇気はないので、大したダメージは入っていないと思うが、ひたすら叩く
まだ叩く
諦めず叩く
もっともっと叩く
あっ、斧が折れた
予備を取り出し、さらに叩く
ついに2本目の斧が折れたところで、一旦休憩をする
植物は無表情のため全く効果がわからんが、とりあえず相当ダメージが入っているだろう
一旦距離をとるために、盾を持って後ろに下がる
じわじわと、離れていくが全く攻撃が来ない
元の位置まで戻り、恐る恐る顔を出して覗くと、バレットツリーのHPバーは0になっていた
それを確認すると、オレは力なくその場に座り込んだ
「よっしゃぁあああ!!!」
右腕だけは天高く掲げて