Ep1 始まりの夜
時刻は夜の23時50分
普段ならそろそろ寝る準備をする時間だ
しかし今日は違う
ここまで、特に今日は時間がいっこうに経たず、すっとそわそわしていた
それもあと10分だ
今自分の顔を鏡で見たら、きっとすごくニヤついた顔をしていることだろう
もう何度目かわからないVRギアのチェックをする
VRシステム
詳しいところはよくわからんが、要は仮想空間に五感を含めて入り込める技術
最初は医療や軍事で
そして、今では娯楽、つまりゲームとして遊ぶことができるレベルまでになった
その中でも、最大の人気作品と言われていたフリーダムナイツ(通称FK)
突然のサービス終了には、どれだけのファンたちが残念に思ったことだろうか
しかし、絶望は長くは続かなかった、それが後継作のトレジャーファンタジアオンライン(通称TFO)の発表であった
そして、今日の0時が正式サービスの開始日となる
あと五分、既にヘルメット型のVRギアは装着済みだ
オレのやりたいことをこの中でやるんだ
0時
TFOのメイン画面のスタートのボタンが薄暗い色から、明るいブルーに輝き出す
すかさずスタートボタンをクリック
オレの意識はゲームの中に吸い込まれていく
既にβテストでキャラクターは作成してあったため、それをそのまま使う
その他の初期設定も手早く済ませていく
最後に、このゲームの重要なファクターとなるジョブの設定だ
まず、1Jと呼ばれる職業を基本9職から選ぶ
近接攻撃系の剣士、槍士、斧士
距離攻撃系の弓師、縄士、投擲士
生産戦闘系の採取士、漁士、狩士
これらの職業は主に戦闘に関係してくるものだ
簡単に言えば、上二つは関係する武器に補正が
生産戦闘系は関連する生物と戦う時に補正がかかる
その為、別名バトルジョブとも呼ばれている
オレが選んだのは採取士である
なんせ生産職希望だからな
1Jにガチの生産職がないことが残念でならない
一応初心者の救済策であるらしい
戦闘できないぼっち生産者は、詰みやすいからな
そう言う意味では初心者に優しい設計なんだろう
どれを選んでも一応戦闘できるからな
次に決めるのは2J
こっちは、質問に答えて勝手に決まるパターンである
リセマラがはかどりそうだ
オレはとりあえず、普通に答えていく
例えばこんなかんじだ
Q
あなたは、今お金がありません
A
もの造りができるなら、金なんかいらん
Q
あなたは、今目の前に大きな水晶があります
A
即座に家に持って帰り、調査して、アイテムを作る
Q
あなたの街がモンスターに襲われています
A
そんなものは他人に任せて、自分の作業を続ける
Q
ドラゴンにお姫様が拐われました
A
そんなものは他人に任せて、自分の作業を続ける
Q
魔王が復活しました
A
そんなものは他人に任せて、自分の作業を続ける
etc
といった感じである
かなりコピペが多かったが、こんなものだろう
結果、生産廃人という職業になった
素晴らしい結果だ
しかし、こんな2Jあったんだな
それにしても、回答が選択式ではなく記述式なところが運営の気合を感じる
βの時は選択式だったんだが
リセマラはきっと大変だろうな
オレは最終確認画面で、再チェックして確認ボタンを押す
その瞬間、光に包まれる
うおっ、すごい演出だな
目を開けてみると、そこは真っ白い部屋
そこに何人もの人間がいる
これ全てプレーヤーなんだろう
見た目は千差万別であるが、全員装備がしょぼい
武器もたいしたことないものばかりに見える
周囲を見回すと、いくつかの数字が空中に浮かんでいた
よく見ると、二種類しかない
一つは333、332、331、、、と規則的に数字が減っている
多分、残り時間を表しているのだろう
もう一つは32345、32978、33121定期的に不規則に数字が増えている
この数は、、、プレーヤーの数か
もう3万人もいるのか、早いなぁ
2J決める時の質問の最後の方にあった、『あなたにとって生産とは』や『生産に最も大切なこととは』に時間をかけすぎたのが原因なんだろう、限界が2000文字だったからまとめるのが大変だった
逆に言えば、制限なかったら出遅れてたなこれ
本気で書いたら、一日かかるからな
まぁ、間に合ってよかった
にしても、このペースだと最後の方4万超えそうだな
まぁ、プレーヤーの数なんてどうでもいいがな
オレはオレの満足できるものが出来ればいい
しかし、あいつの姿は見えないな
目立ちそうなんだが、まぁ3万以上人がいるからな、どうせ後で会う約束もしてるし、別にいいか
システムウインドウも開けないので、自分の動きを改めて確認する
とりあえず、南の山
あそこがいいだろうな
初期武器も斧を選択してある
斧はスピードは遅いが、威力が高く切断力がある
ついでにオレの1J採取士は、植物系のモンスターに対して攻撃力とクリティカル率に恩恵と、植物・鉱物の採取に対してボーナスがある
βでも採取士は選択してあるからな、そこら辺の知識はバッチリだ
2Jは木工職人だったから、斧はよく使った
なんたって、木がなきゃ生産できんからな
街で木材買う金も最初はないし、レベルも最初は山に篭って戦闘と生産を交互にしたほうが効率的っぽいし、レベルが上がったらそれに合わせて道具を買いに行く感じだったな
開始から6時間後があいつとの集合時間だったからな、なんとかひとつ上のランクの装備が作れるレベルまでは上げておきたいな
そんなことを考えていると、いよいよカウントが20を切った
さて、いよいよ始まりか
19
18
「皆さん、聞いてください、ここは異世界『アスエル』、みなさんが住んでいた世界とは別世界です」
突然女性の声が響いた
微妙にフライングな気もするが、サービス初日だしバグもあるんだろ
「いいですか、すぐに……「ぐへ、ぐへへへ」」
突然、怪しげな男の声が割り込んでくる
「俺様は七柱悪魔が1つ、大悪魔グロノン、人間どもよく来たな、お前らの絶望は既に決まっている、せいぜい無駄にあがくといい」
そして、世界は再び光に包まれたのだった