表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/36

メンバー対国也

最初のレッスン日。

トレーニングルームの隅で、数人の保護者と一緒にレッスンを見学する国也は、目立たないように小さくなって椅子に座っていた。

6人の大人少女が、曲に合わせて踊っている。その中に乃菊が入っていることがまだ信じられない国也である。

振付師の厳しいレッスン。

乃菊たちは、振付師の動きに合わせて踊る。曲に合わせて手拍子をし、間違ったリ、遅れたりするメンバーに檄を飛ばす。

若いメンバーだが、ハードなレッスンで息を切らしながら、必死で動きを覚える。

こんなことは、自分には到底無理だと思う国也。室内の熱気は、国也のところにも届いている。

レッスンは休憩に入り、メンバーは着替えに行った。国也は、一人残されたトレーニングルームで、若い娘の汗臭さも気持ちがいいなあと、にやけながら思っている。

しばらくして、最初にトレーニングルームに戻って来たのは、みおんだった。そのみおんが国也のところにやって来る。

「あの、のぎちゃんの、おじさんなんですよね?」

国也の顔を、覗き込むようにして聞くみおん。

「え、ええ、まあ、そうです・・・」

そこには、奇麗で可愛いみおんを、まともに見れない国也が居る。

「若いおじさんですね!」

おじさんじゃない!と言いたい国也。

「は、はあ・・・」

そう言って顔を上げると、みおんは膝に手をやり、まだ国也を見ていた。

乃菊より好感が持てる女の子だと思う国也。それにしても近くでまじまじ見ると、綺麗で素敵な笑顔だ。

「あ、あの、皆賀さんも、田沢さんにスカウトされたんですか?」

みおんは、首を振る。

「私がこういう仕事をしたいって、羽流希さんに頼んだんです。でもこの業界、浮き沈みが激しくて、怖いところだから、東京へは行かせず、この企画を作って、私をここに留めてくれたんです」

羽流希さん?どういう関係なんだ、と思う国也。

「実は、羽流希さんは、義理の兄なんです」

そうだったのか、と思う国也。

「彼は、姉の旦那さんだったんです。でも姉が亡くなって、子供もいなかったから、実際はもう繋がりはなくなってるんですけどね・・・」

それがまだ関わっている。二人はこの先、結ばれる縁なのか、それとも切れる縁なのか?

ひょっとして、みおんたちに出会ったのは、二人を結びつけるためなのか?

国也は、みおんの顔を見ながら考える。

「おじさんは、おいくつですか?」

みおんが聞いた。

「さ、33です・・・」

何故かドキドキする国也。

「じゃあ、羽流希さんと一緒だ。ごめんなさい、おじさんなんて言ってしまって。どおりで若く見えるはずですね」

綺麗なみおんが、少女のように笑う。

「のぎちゃんは、どうしておじさんなんて言うんだろ。実際は、ホントのおじさんじゃないんでしょ?」

え!わかっちゃうんだ。国也は、苦笑いをする。

「あの、お名前は?」

みおんが改めて聞く。

「大野、大野国也です」

やっと自己紹介をした。

「じゃあ、国也さんて呼びますね。」

やっぱりいい娘だ。

「僕は、みおんさんでいいですか?」

ドキドキが治まり、心が開けた国也。

「もちろんです!」

二人は、笑顔で話す。

「みおん、気をつけた方がいいよ。おじさんが若い女の子を見る目は、とってもいやらしいんだから!」

戻って来た乃菊が、いきなりそんなことを言う。

「みおんさんに、そんなこと言うなよ!」

乃菊には、いつも頭を悩まされる。

「じゃあ、気をつけるね、のぎちゃん!」

みおんまでそんなことを言い出す。

「おじさん、純粋な眼で私たちの踊りを鑑賞してね!」

乃菊は、国也をからかうのが趣味のようだ。レッスン場の中央へ行き、ウォーミングアップをする。

「国ちゃん、みおんでいいからね!」

みおんは、ウィンクをして乃菊の横に行く。みおんにまでからかわれてしまった国也。また小さくなって椅子に座る。

「飲みますか?」

国也にペットボトルを渡したのは、メンバーの一人、左島ジュリアだ。横に鈴木真阿子もいる。

「あ、どうも、いいんですか?」

国也は、そのペットボトルを受け取る。

「どうぞ・・・」

のどが渇いていた国也は、遠慮なくペットボトルを受け取り、ジュースを飲む。

「あ、私と間接キスしちゃった!」

ペットボトルを渡したジュリアが、何故か驚く。

「えっ!直接口をつけて飲んだでしょ!」

ジュリアは、意味深な笑顔を見せる。

「飲んだような気がする・・・かな」

いや、口をつけて飲んでいる。

「あなたが飲んだのは、こっちでしょ」

真阿子が、手に持っているペットボトルを見せる。

「あら、じゃあ、私とじゃなくて、真阿子と間接キスしたんだ・・・」

いいのか、悪いのかだけでも言ってほしいと思う国也。

「じゃあ、ちょっとください!」

国也の持っているペットボトルを、ジュリアが取り上げる。

「これでホントに私も間接キス!」

ジュリアがジュースを飲む。

「それは、私のでしょ!」

真阿子が取り上げて飲む。

「三角関係だわ!」

二人がつつき合う。

「ホントね!」

そして、同時に二人が国也の顔を見た。

「どっちを選ぶの?」

二人同時に聞かれる。レッスンの成果か、綺麗にハモる。

「あの、僕は・・・」

二人は、顔を見合わせて笑う。

「ごめんなさい、ちょっと遊びすぎちゃった!」

二人が同時に頭を下げる。

「気にしないでね。おじさん、暇そうだったから、つい、ふざけちゃって・・・」

二人は、ペットボトルを二本とも国也に渡す。

「飲んで味わってください!」

ジュリアがウインクする。

「間接キス!」

真阿子が投げキッスをする。

キャキャキャと聞こえるような笑い声で、二人は走って行く。

どうも、今時の23才の女性には、こんなふうに遊ばれてしまう運命なんだと、国也は思うのであった・・・。

「おじさん、人気者ね。ところで、菊野さんとは、おじさんて言う関係だけなの?」

国也の苦手な、ふう美である。

「どういうことかな?」

またからかわれるのかと、警戒する国也。

「おじさんて言ってるけど、似てもいないし、血縁じゃないでしょ!」

当たっている。こいつはただ者ではないと思う国也。

「乃菊は、おじさんとしか呼んだことがないから、ただのおじさんです。よろしく・・・」

差し障りのない返答をした。

「行こう、ふう美さん。レッスン始まるよ・・・」

亜美もいたんだ。

とりあえず解放された国也である・・・。









評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ