メンバー対国也
最初のレッスン日。
トレーニングルームの隅で、数人の保護者と一緒にレッスンを見学する国也は、目立たないように小さくなって椅子に座っていた。
6人の大人少女が、曲に合わせて踊っている。その中に乃菊が入っていることがまだ信じられない国也である。
振付師の厳しいレッスン。
乃菊たちは、振付師の動きに合わせて踊る。曲に合わせて手拍子をし、間違ったリ、遅れたりするメンバーに檄を飛ばす。
若いメンバーだが、ハードなレッスンで息を切らしながら、必死で動きを覚える。
こんなことは、自分には到底無理だと思う国也。室内の熱気は、国也のところにも届いている。
レッスンは休憩に入り、メンバーは着替えに行った。国也は、一人残されたトレーニングルームで、若い娘の汗臭さも気持ちがいいなあと、にやけながら思っている。
しばらくして、最初にトレーニングルームに戻って来たのは、みおんだった。そのみおんが国也のところにやって来る。
「あの、のぎちゃんの、おじさんなんですよね?」
国也の顔を、覗き込むようにして聞くみおん。
「え、ええ、まあ、そうです・・・」
そこには、奇麗で可愛いみおんを、まともに見れない国也が居る。
「若いおじさんですね!」
おじさんじゃない!と言いたい国也。
「は、はあ・・・」
そう言って顔を上げると、みおんは膝に手をやり、まだ国也を見ていた。
乃菊より好感が持てる女の子だと思う国也。それにしても近くでまじまじ見ると、綺麗で素敵な笑顔だ。
「あ、あの、皆賀さんも、田沢さんにスカウトされたんですか?」
みおんは、首を振る。
「私がこういう仕事をしたいって、羽流希さんに頼んだんです。でもこの業界、浮き沈みが激しくて、怖いところだから、東京へは行かせず、この企画を作って、私をここに留めてくれたんです」
羽流希さん?どういう関係なんだ、と思う国也。
「実は、羽流希さんは、義理の兄なんです」
そうだったのか、と思う国也。
「彼は、姉の旦那さんだったんです。でも姉が亡くなって、子供もいなかったから、実際はもう繋がりはなくなってるんですけどね・・・」
それがまだ関わっている。二人はこの先、結ばれる縁なのか、それとも切れる縁なのか?
ひょっとして、みおんたちに出会ったのは、二人を結びつけるためなのか?
国也は、みおんの顔を見ながら考える。
「おじさんは、おいくつですか?」
みおんが聞いた。
「さ、33です・・・」
何故かドキドキする国也。
「じゃあ、羽流希さんと一緒だ。ごめんなさい、おじさんなんて言ってしまって。どおりで若く見えるはずですね」
綺麗なみおんが、少女のように笑う。
「のぎちゃんは、どうしておじさんなんて言うんだろ。実際は、ホントのおじさんじゃないんでしょ?」
え!わかっちゃうんだ。国也は、苦笑いをする。
「あの、お名前は?」
みおんが改めて聞く。
「大野、大野国也です」
やっと自己紹介をした。
「じゃあ、国也さんて呼びますね。」
やっぱりいい娘だ。
「僕は、みおんさんでいいですか?」
ドキドキが治まり、心が開けた国也。
「もちろんです!」
二人は、笑顔で話す。
「みおん、気をつけた方がいいよ。おじさんが若い女の子を見る目は、とってもいやらしいんだから!」
戻って来た乃菊が、いきなりそんなことを言う。
「みおんさんに、そんなこと言うなよ!」
乃菊には、いつも頭を悩まされる。
「じゃあ、気をつけるね、のぎちゃん!」
みおんまでそんなことを言い出す。
「おじさん、純粋な眼で私たちの踊りを鑑賞してね!」
乃菊は、国也をからかうのが趣味のようだ。レッスン場の中央へ行き、ウォーミングアップをする。
「国ちゃん、みおんでいいからね!」
みおんは、ウィンクをして乃菊の横に行く。みおんにまでからかわれてしまった国也。また小さくなって椅子に座る。
「飲みますか?」
国也にペットボトルを渡したのは、メンバーの一人、左島ジュリアだ。横に鈴木真阿子もいる。
「あ、どうも、いいんですか?」
国也は、そのペットボトルを受け取る。
「どうぞ・・・」
のどが渇いていた国也は、遠慮なくペットボトルを受け取り、ジュースを飲む。
「あ、私と間接キスしちゃった!」
ペットボトルを渡したジュリアが、何故か驚く。
「えっ!直接口をつけて飲んだでしょ!」
ジュリアは、意味深な笑顔を見せる。
「飲んだような気がする・・・かな」
いや、口をつけて飲んでいる。
「あなたが飲んだのは、こっちでしょ」
真阿子が、手に持っているペットボトルを見せる。
「あら、じゃあ、私とじゃなくて、真阿子と間接キスしたんだ・・・」
いいのか、悪いのかだけでも言ってほしいと思う国也。
「じゃあ、ちょっとください!」
国也の持っているペットボトルを、ジュリアが取り上げる。
「これでホントに私も間接キス!」
ジュリアがジュースを飲む。
「それは、私のでしょ!」
真阿子が取り上げて飲む。
「三角関係だわ!」
二人がつつき合う。
「ホントね!」
そして、同時に二人が国也の顔を見た。
「どっちを選ぶの?」
二人同時に聞かれる。レッスンの成果か、綺麗にハモる。
「あの、僕は・・・」
二人は、顔を見合わせて笑う。
「ごめんなさい、ちょっと遊びすぎちゃった!」
二人が同時に頭を下げる。
「気にしないでね。おじさん、暇そうだったから、つい、ふざけちゃって・・・」
二人は、ペットボトルを二本とも国也に渡す。
「飲んで味わってください!」
ジュリアがウインクする。
「間接キス!」
真阿子が投げキッスをする。
キャキャキャと聞こえるような笑い声で、二人は走って行く。
どうも、今時の23才の女性には、こんなふうに遊ばれてしまう運命なんだと、国也は思うのであった・・・。
「おじさん、人気者ね。ところで、菊野さんとは、おじさんて言う関係だけなの?」
国也の苦手な、ふう美である。
「どういうことかな?」
またからかわれるのかと、警戒する国也。
「おじさんて言ってるけど、似てもいないし、血縁じゃないでしょ!」
当たっている。こいつはただ者ではないと思う国也。
「乃菊は、おじさんとしか呼んだことがないから、ただのおじさんです。よろしく・・・」
差し障りのない返答をした。
「行こう、ふう美さん。レッスン始まるよ・・・」
亜美もいたんだ。
とりあえず解放された国也である・・・。