突然の死・・・アイドル誕生編最終回
「もう駅に着いたから・・・。ここからなら、一人で歩いて行くからいいよ・・・」
乃菊は、各駅停車の電車に乗って帰って来たので、町内の駅で降り、国也の迎えを断った。
「おじさん、喜んでくれるかな?」
乃菊は、名古屋で買った土産を持っている。
「早く帰ろっと!」
駅を出て、暗くなった帰り道を急ぐ乃菊。しばらく歩くと坂道を下る。途中に居酒屋があり、客なのか、その前で男が立っている。
「こんばんは・・・」
乃菊は、挨拶をする。返事がないだけではなく、男は、目だし帽をかぶっていた。しかし気にせず通り過ぎる乃菊。
「あっ!」
角を曲がると、また眼だし帽の男がいた。しかし、同じ人物ではない。少し小柄だ。
「こ、こんばんは・・・」
また挨拶をして通り過ぎる。
「何だか、気味が悪いな・・・」
こんな人気のない時間に、眼だし帽を被った人物二人と出会う。そんなにあることではないだろう・・・。
「すみません」
路地を曲がろうとした乃菊が、後ろから声をかけられ振り向いた。
「は、はい・・・」
さっきの眼だし帽の人物だった。声からすると、女である。
「何ですか?・・・えっ!」
乃菊は、後ろから羽交い絞めにされた。
「ううっ!」
そして、声をかけた眼だし帽の女が、布で乃菊の口をふさぐ。
「ううっ、うううっ・・・」
抵抗していた乃菊も、臭いのする布により、意識が朦朧としはじめ、やがて気を失った。
眼だし帽の二人は、乃菊の手足を縛り、抱えて運び、近くに止めてあった車のトランクに押し込んだ。すぐに車は走り出した。
乃菊が意識を取り戻したのは、少し冷たい風を感じた時だった。
「気がついたみたいよ」
「もうすぐ、この世ともおさらばさ」
乃菊は、後ろ手に縛られ横になっている。アイマスクをされ、周りが見えないが、男女の会話だけが聞こえる。
「さ、こっちを持ってくれ」
「ええ」
乃菊は、持ち上げられ、鉄柵を越えて立たされる。
「マスクを外せ」
一人がアイマスクを外す。乃菊の視界が開け、高いところからの景色が見える。朝やけだろう、綺麗に赤くなっている。
「何をするんですか?」
乃菊が振り向くと、眼だし帽を被った二人がいる。
「私たちの恨みを晴らすのよ」
「恨みって、私に恨みがあるんですか?」
「そうさ。お前のせいで、父も弟も死んだ。そして俺たちは、店も失った。これほどの恨みがあれば、それを晴らさずにはいられないよ」
「あなたを殺さずに、苦しみを耐えていけないわ」
乃菊には、二人が誰なのか理解が出来た。
「お願い、やめてください!」
乃菊が、下を見ると、新聞配達員がやって来た。
「聞こえますか!助けてください!」
しかし、こんなに静かな状況で大声を出したのに、聞こえていないようだ。
「助けてください・・・」
足元は、30センチほどの幅しかなく、風が吹くと落ちそうになる。
「このまま落とすだけじゃ、簡単すぎる。ここをお前の絞首台にして、俺たちが死刑執行人になるんだ」
「お願い、やめてください!」
震えながら涙を流し、懇願する乃菊。
「おじさん、助けて!助けに来て!」
しかし、乃菊を助ける者は、現れない・・・。
「もう見ることのない景色だ、見るがいい」
そう言って、乃菊の首にロープをかける眼だし帽の男。
「嫌あ!やめてええ!」
乃菊は、膝を曲げ、指先だけで鉄柵の棒を必死に掴む。
「おじさん、ごめんなさい。私、死んじゃう・・・」
「はは、死にたくないか。そうだ、みじめな思いをしながら死んでゆけ」
乃菊は、立ち上がった。この街は、自分が生まれ、一度は離れたけれど、また戻って、国也と出会った街。
「ここで、死ぬなら本望です・・・」
強がって見せる乃菊。
「さあ、執行だ!」
眼だし帽の二人が、乃菊の背中に手を当てる。
「おじさん、さようなら・・・」
二人は、無情に乃菊の背中を突いた。
「キャッ!」
乃菊の身体が宙に浮き、すぐに落下した。
「生まれ変わっても、おじさんに会いに行くから・・・。愛してる・・・」
長い時間に感じた。しかし現実は、瞬間である。
ギュン!
3階辺りで止まり、反動で跳ねるように浮き上がり、また下がって止まる。
首のロープを支点に、乃菊の身体が左右に揺れる。
「ウググッ!」
首が千切れそうな衝撃と共に、乃菊の意識も消えて無くなった。
ピクピクと痙攣を起こしていた身体も動かなくなり、乃菊は、絶命した・・・。
国也の知らないところで、何の前触れもなく、突然、乃菊との縁が切れてしまった・・・。
このまま終わるはずがない・・・。
このまま終わるはずがない・・・。
菊野大国・・・アイドル誕生編・・・おわり
突然、逝ってしまった乃菊。これで、国也と乃菊の縁が永遠に切れてしまったのか?
第三部へと続く、菊野大国。乃菊と国也の過去が明らかになっていく。




