告白
乃菊の退院日。
「じゃ、行こうか」
乃菊、国也、そして病院に来ていたメンバーと田沢たちは、田沢の運転するワゴンカーでIME放送のビルへ向かった。
「着いたよ」
田沢がビルの裏側に車を停めた。そこの一角に花束などが置かれた場所がある。
「のぎちゃん、足元気をつけてね」
みおんは、頭にネット包帯をした乃菊を、手を繋いで車から降ろした。
乃菊は、事件後初めてここに来た。
「ふう美さん、助けられなくてごめんね」
乃菊は、座って花束を置く。
「ふう美は、のぎちゃんにありがとうって言ってたよ」
みおんも並んで座り、ふう美の最後の言葉を乃菊に伝えた。
「乃菊ちゃん、これ・・・」
ジュリアが額に入ったメンバー6人の写真を乃菊に渡した。
「いつまでも、ふう美も私たちのメンバーだからね」
メンバー5人が並んで手を合わせた。
「さあ、行こうか。乃菊ちゃんも帰って、休まなくちゃいけないから」
乃菊は、頷いて国也と車に乗り込む。打ち合わせのあるメンバーを残し、田沢が乃菊と国也を駅まで送った。
「明日の夕方、連れて行きたい所があるんだ」
国也が、帰りの電車の中で乃菊に言う。
「どこ、どこなの?」
乃菊は、すぐに答えを知りたいタイプだ。
「だから明日連れて行くって・・・」
国也は、逆?
「だから、どこなの?」
何処か知りたい乃菊が、国也の腕を掴んで揺する。
「明日の楽しみってことで・・・」
場所を言わない国也。
「たいしたことなかったら、嫌いになるからね!」
すぐに膨れる乃菊。
「じゃ、今は好きってこと?」
上手い切り返しだ。
「あ、頭が痛い・・・」
乃菊は、国也の肩に頭を傾ける。
「明日の夕方ね・・・」
乃菊は、眼を閉じる・・・。
翌日。
仕事を終えた国也は、乃菊を呼びに行く。
「出掛けようか・・・」
部屋で本を読んでいた乃菊が、国也の顔を見る。
「どこ、どこ行くの?おめかしして行こうかな!」
乃菊は、期待で朝からウキウキしていたのだ。
「そのままでいいよ」
国也は、そうでもなさそう・・・。
「特別なとこじゃないの?この格好で恥ずかしくない?」
乃菊にとっては、国也と二人で行くことだけで、記念日のようだ。
「それで充分!」
乃菊は、少し落胆したが、国也について行った。
店を出て、国道からは遠ざかる山側に向かった。少し暗くなってきている。
「おじさん、手を繋いでくれる?」
乃菊が手を伸ばす。
「疲れたのか?」
国也が、立ち止まって聞く。
「う、うん・・・」
国也が手を出すと、乃菊は、グッと握った。
「そんなに強く握らなくても離さないよ・・・」
乃菊は、国也の横顔を見ながら歩く。
「いつもこんな所に来るの?」
乃菊は、未経験の散歩コースである。
「君と出会う前は、よく来てたよ。君が来てからは、君がいない時に、時々来てた」
国也が話す。
「私がいない方がいいの?」
乃菊が聞く。
「そうじゃないよ」
住宅の間を進み、高台に出る。そこに小さな公園があった。
「ここだよ」
乃菊が、公園の中へ入って行く。何の変哲もない公園である。
「わあ、綺麗だ!」
公園から海側を見ると、夕日と観覧車が見えた。
「良かった・・・」
乃菊の笑顔が見られて、ホッとする国也。まだ頭の包帯が痛々しい乃菊だから、余計に嬉しい。
「気に入った?」
観覧車と夕日を眺めている乃菊に聞いた。
「うん。だけど、どうしてもっと早く連れて来てくれなかったの?」
乃菊が不満顔を見せる。
「これでも一応、唯一、一人で考える場所だったから」
国也も一応、考えにふけることもある。
「じゃ、連れて来なくて良かったのに・・・」
ふてくされて、ブスっとする乃菊。
「もう一人じゃなく、一緒に来たくなったから・・・」
国也が伝えたいことだ。
「それって、私のこと?私と来たくなったの?」
乃菊は、嬉しそうな顔をしてベンチに座る。
「そうか、やっぱり私と一緒がいいんだ・・・」
一人で喜ぶ乃菊。
「みおん、田沢さんとうまくいくといいね・・・」
乃菊が、夕日を見ながら言う。
「そうだね、幸せになってくれるといいね」
国也もベンチに座る。・・・風が少し冷たく感じる。
「くっついてもいい?」
乃菊が、わざわざ聞く。
「そんなこと聞くなんて珍しいじゃないか。いつもは好きにしてるのに・・・」
乃菊は、国也に身体を寄せる。
「私も幸せになりたいな・・・」
乃菊が、ポツリと言う。
「なればいいじゃない。ところで君の幸せってどんなことなんだい?」
乃菊が少し黙る。
「うーん、4才の時に出会った彼と結婚することかな・・・」
ガーン!と国也の頭から聞こえたような、聞こえないような・・・。
「そ、そんな人がいたんだ・・・」
今までの、乃菊の自分に対する紛らわしい態度は何だったのか。国也はショックだった。
「その人は、どこにいるんだい?」
国也が聞く。
「そんなに遠くにはいないんだけど、気がついてくれないんだ」
乃菊は、普通に話をする。
「・・・」
国也は、乃菊にそんな思い続けた人がいることを、まったく気付かずに、自分だけが乃菊を恋人のように思っていたことが、恥ずかしくなっていた。
「じゃあ、君とその人を結びつけてあげるのが、次の仕事かな・・・」
国也は、自分の気持ちを押し殺して、乃菊の幸せのために動こうと決心する。
「私、おじさんのこと、好きだよ」
乃菊がさらりと言う。
「あ、ありがとう。僕も、好きだよ。乃菊ちゃんは、素敵だから・・・」
国也は、差し障りの無いように言う。
「何だか、他人行儀な言い方。ホントに私のこと好きなの?」
だって、仕方がないじゃないか。君には、思ってる人がいるんだから。・・・国也は、そう言いたかった。
「・・・」
国也は黙る。
「おじさんが、私を幸せにしてくれればいいじゃない!」
乃菊が、国也の肩を叩いて言う。
「君には、思ってる人がいるんだし、それに、君はアイドルだから、保護者以上の関係にはなれないよ・・・」
国也には、他に言う言葉が出ない。
「そうだね、どっちにしても幸せにはなれないんだ、私は・・・」
乃菊が悲しそうな顔をする。
「そ、そんなことはないよ。きっと君は、幸せになれるよ!」
乃菊が立ち上がる。
「無理なの、私、悪縁鬼なんだから!」
乃菊の突然の告白。
「!?」
驚いて言葉が出ない。
「私は、おじさんとは敵の、悪縁鬼なの・・・」
国也は、呆気にとられていたが、すぐに我に帰る。
「何を言ってるんだよ。君が悪縁鬼なんかであるわけないだろ!」
国也がそう思うのも当然だ。
「私が悪縁鬼だから、悪いことばかり起こるのよ。私なんかがおじさんといたら、今度はおじさんが危ない。だから私なんかいない方がいいんだ・・・」
国也も立ち上がり、乃菊の肩を掴んで引き寄せる。
「君は、天使だよ。僕にとっても、世の中の人にとっても。だから、君が悪縁鬼であるはずがない。そんな馬鹿なこと考える必要なんかない!」
自分が思う悪縁鬼と程遠い乃菊。国也は否定する。
「だから、ホントに悪縁鬼なんだってば・・・」
乃菊は肯定する。
「やめろ!どうかしてるぞ。そんな可愛い悪縁鬼だったら、こうして抱きしめてやる!」
国也が、思い出に乃菊を強く抱きしめる。しかし乃菊の方は、イライラして国也を突き放す。
「馬鹿にしてると、私の中から、こんな怖い眼をして、こんな蛇みたいな舌をペロペロ出して、こんな鋭い牙の大蛇になって、おじさんを食べちゃうぞ!」
身振り手振り、顔芸でいろいろ変化させているつもりの乃菊だが、時々鏡の前で現れる怪物の顔とは大違いで、余計に可愛い。
「そんな可愛い大蛇なら、僕のパンチでノックアウトさ」
国也は、ボクサーの真似をして、シャドーボクシングをする。
「グフッ!」
国也がお腹を押さえてダウン。ボディに乃菊のパンチが入ったのだ。
「弱すぎ!そんなんで大蛇が倒せると思うの?」
呆れて言う乃菊。
「よーし、今日から鍛えて絶対大蛇に勝つぞ!」
国也は、夕日に向かって両手を上げ、その場で足踏みする。まるで映画のワンシーンのように。
少しでも、乃菊の告白を忘れるために・・・。
次回は、アイドル誕生編の最終回。こんな終わり方でいいのって言う、衝撃の最終回となります。おたのしみに・・・。




