ふう美の最後
基橋の持つ角材が振り下ろされた時、倒れていた乃菊の眼が開き、ワニのような縦に細い瞳が光る。
ヒュルルルルッ!
すると屋上につむじ風が吹く。埃や屑を巻き込んだ風は、唸り声を上げているかのように物凄い音を立てて、ふう美と基橋を巻き込んで行く。
屋上へ出る階段の踊り場で、最上がふう美の携帯電話を拾う。そしてメールを送る。
「私たちが、真阿子を怪我させようとしました。それを知った菊野さんを、基橋君が死なせてしまいました。ごめんなさい・・・」
最上は、携帯電話を屋上の扉の下に置く。
「乃菊さん、死なないでくださいね・・・」
最上は、階段を下りて行く。
「えっ!」
亜美は、みおんの携帯に届いたメールを開き、愕然とする。
「嫌だあ、菊野さん!」
亜美は、控室を飛び出す。
「どうしよう、知らせなきゃ!」
廊下に出た亜美は、右往左往するが、とにかく国也を捜そうと階段を下りる。
1階まで駆け下りると、ロビーを国也と田沢、そしてみおんたち残りのメンバーが歩いている。
「おじさん!田沢さん!」
亜美が血相を変えて走って来る。
「どうしたの、亜美ちゃん?そんなに慌てて・・・」
みおんが、膝に手を突いて立ち止った亜美のところに行き、肩を抱く。
「こ、これ・・・」
みおんに携帯を渡す。
「私の携帯?」
携帯を受け取り、みおんは、メールを読む。
「おじさん、大変!」
みおんは、携帯電話を国也に渡す。
「最初、ふう美さんからみおんさんにメールが来たんだけど、危ないからって、菊野さんが代わりに行ったの、そしたらしばらくして、これが・・・」
泣き出しそうな亜美が、必死に説明をする。
「そんな・・・」
亜美の話に愕然とする国也。
「とにかく、屋上へ行こう!」
田沢が、国也を促し、ジュリアと真阿子を残して4人が屋上へ向かう。
「のぎちゃん!」
みおん、国也、田沢、亜美の4人が屋上へやって来た。
乃菊は、頭から血を流し、倒れている。呼ぶ声に返事はない。
「乃菊ちゃん!」
国也が抱き上げる。
「救急車を呼ぼう!」
田沢が携帯電話で救急車を呼ぶ。
「!!」
みおんが、鉄柵につかまっている手に気づき、走り寄る。
吹き飛ばされたふう美と基橋は、その勢いで鉄柵を越え、屋上から落ちそうな状態で、ふう美が鉄柵を、基橋はふう美の腰にしがみついている。
「ふう美!」
ふう美とみおんの眼が合う。
「今助けるから!」
みおんが柵の間から手を伸ばし、ふう美の腕を掴む。
「みおん、ごめん。私が間違ってた・・・」
ふう美の目に涙が・・・。
「いいから、諦めないでよ。必ず助けるから!」
必死にふう美の腕を掴んで、引き上げようとするみおん。
「ふう美!」
しかし、基橋の重さも担うふう美の手が、少しずつ鉄柵から離れて行く。
「誰か来て!」
みおん一人で二人を支えるのは困難だ。
「離していいよ。基橋君を巻き込んだのは、私なんだ。菊野さんをあんなにして、ただで済むなんて許されない」
ふう美が笑顔を見せる。
「何を言ってるのよ、これからも、一緒に頑張ろうよ!」
しかし、みおんの手も離れそうだ。
鉄柵の間から両手を伸ばし、ふう美の腕を必死で掴むみおん。
「見浪、今助けるから、手を離すな!」
田沢も柵の上から手を伸ばす。
「菊野さんを助けてね、元気になったら、ありがとうって言って・・・」
ふう美が自ら力を緩めた。
「諦めちゃ駄目!」
みおんが叫ぶ。
「みおん、ごめ、ん・・・」
ふう美が目を閉じた。
「あっ!」
みおんの手からも、鉄柵からも、ふう美の手が離れた。
「ふう美!」
みおんが叫ぶ。
「さようなら・・・」
みおんには、そう聞こえた。手が離れた反動でみおんは、尻餅をつく。田沢も、柵に寄りかかったまま、落ちて行く二人を茫然と眺めるだけだった。
「嫌あああああっ!」
みおんが泣き叫ぶ。
「みおん・・・」
田沢がみおんの肩を抱いて立たせる。
「のぎちゃん!」
みおんは我に返って、国也に抱かれる乃菊のところへ行く。
「のぎちゃんまで死んじゃ、嫌だ!」
みおんが再び泣き叫ぶ。亜美もしゃがみ込んで涙を流す。
救急隊の担架がやって来て、乃菊は病院へ運ばれた。
ふう美と基橋は、ビルから落ちて即死。基橋が乃菊を殴り、止めに入ったふう美と争って共にビルから落ちてしまった事故と判断された・・・。




