スカウト?
再び名古屋駅へ戻った国也と乃菊は、そのまま地下街へと流れる。
まず南の地下街を往復し、そこから北側へ進み、途中斜めに抜けて、ムーンロードでウィンドーショッピングを楽しむ。と言っても楽しんでいるのは、乃菊だけか・・・?
乃菊がブティックのショーウィンドウの洋服を眺めていると、ガラスに映った人の姿に目が止まった。
ガラスに映る、乃菊と国也の後ろを通り過ぎて行く女だ。
「私を見てた・・・」
乃菊は、そう感じた。
「何?」
国也が聞く。
「ううん、何でもない」
自分を見ていた女の眼が、乃菊にも見覚えのある、不気味な眼だったのだ。
「ううっ!」
乃菊が、急にお腹を押さえてうずくまった。
「どうした?」
国也もしゃがんで、乃菊の肩に手をやる。
「気持ち悪い、トイレ探して」
国也は辺りを見回し、公衆トイレを探す。
「あった!おんぶしてくよ、さあ」
国也は、背中をさし出す。
「お姫様だっこがいい」
強烈なわがままだ。
「無理だよ。さあ、早く!」
乃菊は、しかたなく国也におぶってもらう。そして国也は走る。乃菊を背負って走る・・・。
大袈裟だった。そんなにトイレは遠くなく、すぐにたどり着いた。。
国也は、トイレの入り口まで来ると、紳士用トイレに入ろうとする。
「馬鹿!そっちは男でしょ。私はレディよ!」
乃菊は、国也の肩を叩いて止める。
「あ、そうだった。自分がトイレに行きたいんじゃなかった」
国也は、奥側の女子用トイレに・・・。
「このまま入るわけないよね、おじさん」
まだ乃菊をおぶっていた。
「あ、そりゃそうだ」
国也が乃菊を下ろすと、乃菊は急いでトイレに入って行く。
「急にどうしたんだろう?・・・そういえば、前にもこんなことがあったような気がする・・・」
国也は、通路で乃菊を待った。
トイレの中では、乃菊が石のペンダントを握っている。
「・・・」
洗面台の前で呼吸を整え、外へ出て行く乃菊。
「大丈夫かい?」
トイレから出て来た乃菊に国也が尋ねる。
「もう平気よ。今日は女の子の日だったから・・・」
乃菊は、笑顔を作って先に行ってしまう。
「ホントかな?顔色悪いし、どこか悪いんじゃないのかな?」
心配になる国也。
「おじさん、何してるの、行くよ!」
国也は気になりながらも、乃菊について行く。
「ああ、疲れたな」
国也が乃菊に聞こえるように言う。
「もお、年寄りなんだから・・・」
気にもかけずに、店を見て回る乃菊。
「君は、足が痛くないのか?怪我もしてるし・・・」
これなら休むだろう。
「痛いかも、おんぶしてくれる?」
乃菊が急いで国也の後ろへ回る。
「さあ、行こう!」
おんぶももうごめんだと思う国也は、先に進む。
「じゃ、何か買って食べましょ!」
乃菊が国也の腕を掴んで誘導する。そして目をつけていた店の前で立ち止る。
「この店のカップソフトがいい。中は混んでいるから、あのベンチで食べよう!」
満面の笑みを見せる乃菊。
「じゃあ買ってくるから、ここで待ってて」
国也は、乃菊のリクエストに応えるために、店の中へ入って行った。
乃菊は、買い物袋を持って、ベンチに腰をかける。
「お嬢さん、ちょっとよろしいですか?」
乃菊は、サングラスをかけた男に声をかけられた。
「何ですか?」
乃菊は、サングラスの向こうの目を覗く。
「失礼だけど、23さいくらいじゃないかな?」
怪しそうで、そうでもなさそうな男。・・・乃菊の直感。
「女性にいきなり年を聞くのは失礼だけど、正解です!」
座ったまま答える乃菊。
「やっぱり勘がが当たった!」
サングラスの男は、一人でガッツポーズをする。
「それがどうかしたんですか?」
男は、サングラスをはずし、名刺を取り出す。
「端的に言えば、君のような素敵な23才を捜していた、と言うところです」
何だか怪しくなる。直感は外れなのかもしれない、と思う乃菊。
「良かったら、話を聞いてくれないかな?」
名刺を見ると、IMEテレビ放送、番組ディレクター、田沢羽流希、とある。
「ちょっと、眼を見せてください」
男は、戸惑うが眼を見開いて乃菊に見せる。
「詐欺じゃないですよね」
目を見ても、何かが分かるわけでもない。
「詐欺じゃないです」
男が答える。
「話を聞くだけでいいんですよね?」
乃菊が聞く。
「それで、いいんです」
男が即答する。
「じゃ、聞きます」
乃菊が了解する。
「じゃ、あちらの喫茶店でお願いします」
男が指定する喫茶店に二人は向かう。
国也は、まだ店の中だ。
乃菊は、国也を待たずに、男について行ってしまう・・・。