再びの危機
この日も国也は、乃菊たちの新曲のスタジオ撮影を見るため、IMEテレビに来ていた。
スタジオでは、スタッフたちが、背景の設置や照明の調整をしている。
「牧田、上の照明を見てくれ!」
撮影監督の指示だ。
「僕が行きます!」
基橋が、上方からの照明の調整を買って出た。
「メンバー呼んで来て、立ち位置確認してくれ!」
スタッフの声が飛び交う、緊張感のある現場だ。
乃菊たちがやって来て、ジャッキーや小田津の指示を受ける。
「それじゃあ、リハ行くよ!」
撮影監督の指示でリハーサルが始まる。6人がポジションにつき、音楽が流れる。
基橋は、スタジオの奥で壁に寄りかかり、撮影現場を眺めていた。何か手に持っているようだが・・・。
「今のところ、こうしようか・・・」
監督と小田津が相談して、曲中の移動を乃菊たちに確認する。
「ジャッキー、これでも移動中のダンスは、変わらないよね」
3人がまた相談し合う。
「大丈夫よ!」
OKが出る。
「じゃあ、それで本番行ってみよう!」
スタートの合図があり、乃菊たちのダンスが始まる。
「これがまたテレビに流れるんだな・・・」
国也もスタッフの後ろから、乃菊たち、いや、乃菊を目で追っていた。
「後ろばっかりだなあ・・・」
国也も乃菊が中央で歌うのを見たかったのだ。
曲の間奏の時、真阿子と乃菊のポジションチェンジがあり、乃菊が最前列になる。
「やったあ!」
国也は、一人でガッツポーズをする。
その時だった。
国也は、何気なしに、歌う乃菊たちの上を見た。三つに連なっている照明の一つが、他のより少しずつ下がっている。
「落ちる!」
国也は、直感でそう思い、上を見ながら走る。カメラの前を横切り、撮影中のスタジオ中央へ向かう。
「危ない!」
周りのスタッフも気づいた。
走って来る国也に気づいた乃菊も上を見るが、黒い物体はその眼の先、乃菊の真上だった。
「危ない!」
国也は、歌うグループの最前列にいた乃菊に飛び込んで押し倒した。
「きゃっ!」
乃菊は中央から外れ、国也がその場に倒れた時に、落ちて来た照明を背中で受けた。
「キャー!」
乃菊は、倒れた国也を見て悲鳴を上げた。
乃菊以外のメンバーは、田沢と共に控室に集まり、国也は、医務室へ運ばれ、乃菊がついて行った。
「危なかったね、真阿子もあの位置にいたから、タイミングが違ったら、怪我してたかも・・・」
みおんが言う。
「うん、乃菊ちゃんは無事だったけど、おじさんが怪我しちゃったね」
メンバーたちが動揺しながら話をしている。
「乃菊ちゃんも動揺しているから、今日は、中止にしよう」
田沢が、状況を見て判断する。
「やればいいじゃない。メンバーは、怪我してないんだし、菊野が出来ないなら外せばいいじゃない」
ふう美が田沢に意見を言う。
「ふう美、あなた、私たちの仲間じゃないの?国也さんが怪我をしたのも、メンバーを事故から守るためでしょ。のぎちゃんの気持ちをわかってあげなさいよ!」
みおんがふう美に詰め寄る。
「あなただって、目指しているのは、もっと高いところなんでしょ。メンバーの一人や二人、押しのけて先頭に立てばいいじゃない!」
バシッ!みおんは、ふう美の頬を叩いた。
「何するのよ!」
ふう美もみおんの胸倉を掴んで、今にも殴りかかりそうになる。
「やめて!」
ジュリアと真阿子も止めに入る。
「メンバーみんなを大事に出来ないような人は、このユニットには必要ないわ!」
みおんが思いをぶつけた。
「やめろ!とにかく、今日は中止にする!」
田沢も二人の間に入る。
「みおん、君は、乃菊ちゃんの様子を見てくるんだ」
ふう美も田沢の言葉に手を離し、みおんは、控室を出て行く。
残ったメンバーに、会話をする雰囲気は無かった。
着替えが済むと、ジュリアが真阿子の手を握って、控室を出て行く。
ふう美は、隅っこで大人しくしていた亜美を呼び、会話もせずに出て行った・・・。




