私をお城へ連れてって
退院後、乃菊は、しばらく仕事を休んで療養していた。
「私にも何か手伝わせてください!」
作業場に乃菊が入って来る。
「まだ駄目だよ、おとなしくしてなさい!」
雲江が仕事の手を止め、乃菊を外へ連れ出す。
「今日も天気がいいねえ・・・」
青空を見上げて雲江が言う。
「退屈かい、乃菊ちゃん?」
雲江が聞く。
「そんなことないけど・・・」
乃菊も空を見上げる。
「乃菊ちゃん若いから、テレビに出る仕事なんかが楽しいんだよね」
乃菊は腰をおろし、小さな花壇の花を眺める。
「ううん、雲ネエ、私1年くらいしたら、大人少女を辞めます」
衝撃の告白。
「どうして?せっかく人気者になったのに」
乃菊は、スッと立ち上がり雲江の顔を見る。
「私、家族がいないから、少しでも長く二人と一緒にいたいんです」
雲江が乃菊の手を握る。
「いいのかい?こんな仕事をしてる私たちだよ」
乃菊は、強く握り返し、頷く。
「湯のし、終わったよ」
仕事をしていた国也が、作業場から出て来た。
「そうだ、国也!乃菊ちゃんを気分転換にどこかへ連れてってあげなさい。あんまり遠出は駄目だけど・・・」
入院に続き、退院後もしばらく何もしないで家に閉じこもっていた乃菊には、気分転換が必要だと思う雲江。
「どこ行きたい?」
国也が聞く。
「お城へ行きたい。近くにないの?」
乃菊が聞く。
「いつから城好きになったんだい?」
国也が聞き返す。
「ぜんぜん、おじさんに合わせてるだけだよ」
そっけなく言う乃菊。
「別に、僕に合わせなくたっていいんだよ」
乃菊の好きにすればいいと思う国也。
「城好きでないと、お城へ行っちゃ駄目なの?」
乃菊の反撃が始まる。
「そんなわけじゃないけど、乃菊ちゃんが、本当に行きたい所へ行けばいいと思って・・・」
国也の気遣いだ。
「だからお城って、言ってるでしょ!」
国也に対して、短気な乃菊。
「いいから、行っておいで」
雲江に催促され、国也は、着替えに行き、乃菊は、車を出しに行った。
「こんにちは・・・」
店に来客だ。雲江が出る。
「IMEテレビの田沢と申します。菊野乃菊さんは、いらっしゃいますか?」
客は田沢である。
「あ、乃菊ちゃんがいつもお世話になってます!」
雲江は、ほとんど名古屋へは行かず、病院でもすれ違いだったため、会うのは初めてだった。
「今、呼んできますね」
雲江が乃菊を呼びに行こうとすると、作業場の方から乃菊がやって来た。
「あっ、田沢さん!」
思わぬ来客に驚く乃菊。
「やあ、元気かい?」
乃菊の表情を確認しながら聞いた。
「すこぶる元気です!」
乃菊らしい返答である。
「のぎちゃん!」
みおんも一緒だった。
「みおんも来てくれたんだ!」
喜んで手を振る乃菊。
「うん、のぎちゃんに会いたくて。・・・あ、国也さんのお母さんですね。はじめまして、皆賀みおんです!」
丁寧に頭を下げるみおん。
「いつもテレビで見てますよ。乃菊ちゃんがいつもあなたの話をしてるから、もう何度も会ってるような気がしますよ」
事実である。
「ありがとうございます!」
みおんの笑顔も素敵だと雲江が思う。
「のぎちゃん、はい!」
みおんが紙袋を乃菊に渡す。
「何、これ?」
大きな袋に、乃菊がキョトンとする。
「お見舞いのファンレターやファックスだよ」
テレビ局に届いたものだった。
「えっ!私なんかに、ファンレター?こんなに・・・」
ファンレターなんて、テレビのスターが貰うものなのに・・・。乃菊は、テレビのスターではないと言う、自己判断なのだ。
「これも、どうぞ・・・」
田沢も紙袋を渡す。
「君の好きな片口屋の和菓子だよ」
たぶん、みおんたちに聞いたのだろう。
「ありがとうございます。すみません、仕事を休んじゃってるのに・・・」
申し訳なく思う乃菊。
「良くなったら、また頑張ってもらうから」
乃菊は、心中を隠しながらも笑顔を見せる。
「ねえ、みおんたちは、何で来たの?」
乃菊が聞いた。
「電車だよ」
みおんが答える。
「じゃあ、今からおじさんとお城へ行くところだったから、一緒に行きませんか?」
田沢とみおんは、顔を見合わせる。
「お邪魔じゃ、ないですかね・・・」
田沢が気を遣う。
「ぜんぜん!おじさんと二人じゃ、つまんないから!」
乃菊は、何度も手を扇ぐように振る。
「つまんなくて、悪かったね!」
国也が着替えを済ませてやって来た。
「こんにちは!」
田沢とみおんがハモルように挨拶をする。
「息がぴったりですね」
田沢が苦笑いする。
「つまんないかもしれませんけど、時間があるなら、一緒に行きましょう」
国也が勧める。
「そうしようか、みおん・・・」
田沢がみおんに聞く。
「うん!」
みおんが頷く。
「じゃあ決まりね。つまんないおじさんと行きましょ」
乃菊の言葉に、まだ言うかと思う国也だが、ここは、大人の対応で二人には笑顔を見せる。




