お見舞い
国也は、乃菊のいない仕事場で黙々と作業をしていた。
「乃菊ちゃんの振袖姿、見てみたいねえ・・・」
雲江が、ほつれ直しをしている振袖を見ながら、独り言を言う。
「もう、とっくに二十歳は過ぎてるよ」
国也も独り言のように答える。
・・・国也の携帯電話が鳴る。
「どうしたんですか、田沢さん?」
田沢からだった。
「明日は、病院に行きますか?」
田沢が聞く。
「はい、行きますけど・・・」
国也は答えた。
「メンバーを見舞いに連れて行きたいんですけど、いいですか?」
田沢が聞くが、自分の許可なんか必要ないのに、と思う国也。
「ええ、ぜひお願いします!」
メンバーが来るなら大歓迎。
「ありがとうございます。じゃあ、明日・・・」
電話を切る国也。田沢が気遣いしてくれてるのは分かる。しかし、田沢を含め、大人少女23のメンバーとは、国也も乃菊も、そんな気遣いなく付き合いたい関係でありたい、と思っている。
そして、再び独り言を言っているような会話をする、国也と雲江である。
「はーい、元気!」
乃菊の病室に、ジュリアが元気よく入って来た。
「ジュリア、来てくれたんだ!」
乃菊は、笑顔で迎える。
「私だけじゃないよ」
後ろから顔を出したのは・・・、
「真阿子でーす!」
両手でピースサインをする真阿子、乃菊も右手でピースサインを返す。
「のぎちゃん、全員で来たよ」
みおんがそう言う後ろに、ふう美と亜美もいる。
「元気そうじゃない、来なくても良かったかな?」
ふう美が嫌味っぽく言う。
「うれしいよ。来てくれてありがとう!」
乃菊は意に介さず、礼を言う。
「菊野さん、これ・・・」
亜美が、恥ずかしそうにしながら、綺麗に包装された箱を乃菊に渡す。
「何?」
乃菊は、亜美から渡された箱を眺める。
「菊野ちゃん、和菓子好きだから、みんなで買って来たんだ」
ジュリアの明るさは、何だか元気になれる。
「ありがとう。じゃあ、みんなで一緒に食べよう!」
乃菊が、箱をみおんに渡す。
「じゃあ、開けるね」
みおんは、この病室に慣れているので、ベッドの横の棚の上で箱を開け、みんなに配る。
「片口屋さんの“あっちこっち”だね。食べてみたかったんだ、これ・・・」
乃菊のお菓子好きは、メンバーにも周知された事実だった。
「早くみんなと番組に出たいな!」
乃菊が和菓子を食べながら言う。
「じゃあ、私がおんぶして一緒に歌うよ」
背の高いジュリアが、力こぶを見せる。
「ふうん、おんぶされて歌ってるアイドルなんて見たことないわね」
ふう美がまた嫌味っぽく言う。
「じゃあ、初めておんぶされて歌うアイドル第1号で売り出せばいいじゃない!」
みおんがフォローする。
「疲れたら、途中で代わります・・・」
亜美がまた恥ずかしそうに言う。
「その次は、私ね!」
真阿子も続く。
「でも、そんなに交代してたら、歌どころじゃないわね」
みおんが笑う。
「そうよね、曲が終わったら、みんなその場に座って休憩してたりして・・・」
ふう美がそう言って笑う。
「へたれアイドル“大人少女23”になっちゃう!」
ヨタヨタしながらジュリアが言って見せる。
「あはははは・・・」
みんなで笑う。こんなにみんなで女子トークをするのは、初めてなくらいである。
「イタタタタ・・・」
乃菊が顔をしかめる。
「大丈夫、のぎちゃん!」
みおんが心配する。
「少し笑いすぎちゃったみたい。もう笑わせないで、ジュリア」
乃菊が名指しする。
「私かよ!」
また力こぶを作り、ボディビルダーのようなポーズをするジュリア。
「ダメダメ、もうやめて、お願い!」
乃菊も久しぶりに笑うことが出来た。・・・少々、お腹は痛かったけれど。
「ありがとうございます。あんなに笑顔を見せる乃菊ちゃんは、僕も初めて見たような気がします」
国也は、メンバーを連れて来てくれた田沢に感謝をする。
「いいえ、大事なお嬢さんを怪我させてしまったのはこちらですし、退院までは、面倒見させて頂きます・・・」
国也と田沢は、廊下に出て、乃菊たちの様子を見ていた。




