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乃菊の秘密

今日もまた、病院へ行くため名古屋へやって来た国也。たまには花束でも買って行こうかと、花屋へ寄った。

「お見舞いの花が欲しいんですけど・・・」

国也にとって、初の花屋でのショッピング。ちょっぴり緊張しながら花を見て回る。

「奥様にですか?」

奥様?自分くらいの年格好だと、花束を渡す相手は、奥様が対象になるんだ、と国也は思う。

「い、いえ・・・」

とりあえず否定する。

「じゃあ、彼女様ですね」

今度は、独身だと思ったのか?

「いえ、だからお見舞い・・・」

彼女や奥さんでないといけないの?

「ご病気の彼女様のお見舞いですね。わかりました」

何だか、勝手な判断をする女店員さんだと国也は思う。しかし彼女と言われるのは、そんなに悪い気がしない国也である。

「私は、店長です」

失礼しました。国也は、声に出してしまったのかと思ったが、いや違うと思い直した。

「人の心が読めるのか!」

これも、心の中で思った。

「ご予算は?」

いかにも花が好きそうな店長が聞いた。

「適当でいいです」

花束の予算など考えていなかった国也。

「じゃ、これくらいがいいですね」

束にした花を、国也に見せた。

「はや!」

店長は、数種類の花を束ね、奇麗な包装紙に巻いて、国也に渡す。

「高いお花を渡さなくても、お客様を好きな彼女様なら、きっと喜んで頂けますよ」

確かに、値札を見ると結構高い。用意してくれた花束なら、自分の懐具合には丁度いい。

しかし、こうも花束を買う人の人間性まで見極めることが出来るなんて、世の中には、まだまだすごい人がいっぱいいるんだ、と国也は思う。

「わかりやすいんです」

国也は、店長の顔を見た。

「!?」

花束を抱えて店を出る国也を、読心術店長が、笑顔で見送ってくれた。


病院に到着した国也は、迷わず乃菊の病室へ向かう。そして乃菊の病室の前で、医師に出会う。

「あ、先日は、どうもありがとうございました」

乃菊が怪我をした日に、病室の前の報道陣を移動させてくれた、主治医の笹野だ。

「いいえ、有名人だとあんな騒ぎになりますから、他の患者さんのためにも他へ行ってもらわないとね」

サラリと言う笹野。

「ご迷惑をおかけします」

深々と頭を下げる国也。

「いいえ、それよりも伺いたいことがあるんですが、よろしいですか?」

笹野は、階段近くの広間に案内し、ソファに国也を座らせる。

何なんだろう、乃菊の具合が悪いのか?ぞれとも自分との関係を知りたいのか?ひょっとしてマスコミのスパイとか?あれこれ考える国也。

「失礼なことを聞きますが、菊野さんとは、名字が違いますよね。ご親戚ですか?」

やっぱり、そっちかと思う国也。

「いいえ、僕の家は、着物のクリーニングをする仕事なんですが、彼女は、住み込みで働いている、従業員なんです」

現実的に、一番差し障りのない説明をした。

「そうですか、いつから働いているんですか?」

何なんだ、何が知りたいんだ、国也は読めない。

「去年からです」

何が知りたいんだ!?

「長いお知り合いですか?」

それがどうした。

「いいえ、うちへ来る数カ月くらい前からですけど、それが何か?」

自分は、悪いことはしていない。・・・キスはしたけれど。そう思いながら警戒する国也である。

「実は、彼女の身体に傷跡が多いんですよ。何か知っていることはありませんか?」

下着姿をチラッと見ただけで、それ以上見られるほどの関係には、まだ至っていない。

「そう言えば、うちへ来る前に、交通事故に遭ってます」

そうだ、事故に遭ってる。

「それ以前のことは、知りませんか?たとえば、子供の頃とか・・・」

何が知りたいの?

「出会う前のことは、僕は、まったく知りません。両親も亡くなっていますし、身内はもういないそうです」

笹野は、腕を組み少し間をおく。

「じゃあ、婚約者さんとしてお話しますが・・・」

こ、婚約者!思わず顔が赤くなる国也。

「傷の多くは、薄くなって目立ちませんので、お二人が出会う以前のものだと思います。そう考えると、子供の頃なら虐待の可能性もありますし、それを苦にして自殺をしようとしたこともあるのかもしれません」

そんなことまで知らない。

「じ、自殺ですか?」

そんなことまで、考えたこともなかった。

「当然、未遂と言うことになりますが、手首にも傷が残っています」

国也は、愕然とする。あの明るさと、反面一人を怖がる二面性は、身体に残る傷が原因なのか。

「聞いてないようですね。それじゃあ、心にかなりの傷を負っていると思います。気丈にしていても、実際は、すごく弱い人だと思います」

この医師は、人の人生が読めるのか?

「そうですね。いつもは、キツイことばかり言うんですけど、時々その反対に、凄く甘えてくることもあるんです・・・」

乃菊の過去をほとんど知らないが、国也の中では、辻褄が合った。

「今のような派手な仕事もしていますが、それは、自分の陰の部分を隠す手段にもなって、情緒不安定な状態がずっと続いていると思います。だから、あなただけでも、彼女の本質を考えながらお付き合いしてあげてください」

その通りかもしれない、国也は、うな垂れたまま話を聞く。

「じゃあ、その花束、早く渡してあげてください」

急に手に持った花束を思い出し、我に返った国也。

「は、はい。いろいろ教えて頂いて、ありがとうございます・・・」

笹野は、立ち上がって去って行く。残った国也は、しばらくソファに座って、乃菊のことを考えていた。


「花束なんて、案外気が利くんだね、おじさん」

乃菊は、週刊誌を見ながら国也に言う。

「嬉しい?」

国也は、乃菊の顔を見て聞いた。

「もちろん、嬉しいよ。どうして?」

案外は、余分だったけれど、嬉しいならいいや、と思う国也。

「それに、何をそんなに私の顔を見てるの?」

今は、見ていたいだけさ・・・。

「いや、何でもない・・・」

乃菊の顔を見ているだけで、涙が出て来そうになる国也。笹野の話は、国也にとってそれほど衝撃的だったのだ。

「ねえ、私、週刊誌に載っちゃった。有名人になっちゃったね」

その前から有名だから載るんだよ。乃菊の顔を見ながらそう思った。

「そうだよ、新聞にも載ったし、今もマスコミがうろうろしてるし、ファンからもお見舞いの品や手紙がいっぱい来てるよ」

君は、そんな存在さ・・・。

「じゃあ、おじさんや雲ネエにも迷惑かかっちゃうよね・・・」

乃菊の顔が曇る。

「僕らは、一般人だから大丈夫だよ」

気にしなくていいから、怪我を早く治しなさい、と心の中で思う国也である。








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