ニュースです!
「国也、乃菊ちゃんが!」
雲江は、画面の中の乃菊を心配そうに見守っている。
「わかってるよ、どうしよう?今から行ってくるよ、どこ、名古屋?」
国也もあたふたして、何をすればいいのか判断出来ないくらいに混乱していた。
画面は、スタジオのMCが映っている。
「大変なことになりました。ただ今、中継中に、今人気の大人少女23の菊野乃菊さんが、男に刺された模様です!」
スタジオにいるジュリアや真阿子も心配して立ち上がり、モニターに釘づけになっている。
とにもかくにも、国也は、名古屋行きの電車に乗り込んでいた。
「田沢さん、乃菊は、どこですか?」
何とかつながった田沢の携帯電話。国也は周りも気にせず、大声で確認した。
「申し訳ありません!仲邑区の総合病院です!地下鉄の駅のすぐ近くです!」
田沢も思いもよらぬことで、落ち着きがなかった。
「わかりました。乃菊は、大丈夫なんですね?」
国也は、電車がいつもより遅く走っているような気がして、イラついていた。
「ねえねえ、大人少女23の乃菊ちゃん、刺されて死んじゃったんだって!」
スマホを見ながら話をする高校生。
「うそー、ホントなの?彼女、メンバーの中で一番可愛かったのにね、可哀そう!」
隣の高校生もスマホを見ながら言う。
「せっかく人気が出てきたのに、運がないわね。番組のロケ中だって・・・」
食い入るように、ネットのニュースを見ている。
「そうね、歌もダンスも上手かったのに、残念だよね・・・」
国也は、立ち上がる。
「君たち、乃菊ちゃんは、死んでないから、間違った情報を信じちゃ駄目だよ!」
乗降口付近で、乃菊の話をしていた高校生たちに、周りも気にせず話しかける国也。
「でも、ネットでは、死亡説が流れてますよ」
ネットを見ながら言う。
「違うよ、僕は、電話で確認したんだから、今、病院にいるって!」
国也は、必死で乃菊の死亡説を否定する。
「わかりましたけど、おじさん、誰なんですか?」
高校生には、やっぱりおじさんなんだ・・・。
「いや、ただの、おじさんです・・・」
やっと国也は、自分がどこで大声を出してしまったのか悟った。
「早く着いてくれ!」
そう思えば思うほど、電車はどんどん遅くなる。・・・はずはないのだが・・・。
電車が名古屋駅に着き、走って改札を抜ける。
「え、どっちだっけ?」
冷静でない分、方向感覚も鈍っている。
「ああ、こっちだ!」
走り出そうとしたとたん、人とぶつかって尻もちをついた国也。
「す、すいません!」
尻もちをついた国也が謝る。
「ちょっと、兄ちゃん、待ちなよ」
立ち上がって、去ろうとした国也だが、相手に呼び止められる。
「すいませんじゃないだろ、肩、痛いんだよ!」
ちょっと怖そうな二人連れである。
「兄ちゃん、こいつの肩、脱臼したかもよ」
兄ちゃんて、こんな人たちには、そう言われるんだ。
金髪で、タンクトップに不必要にだぶついた長いパンツ。もう一人は、坊主頭で唇にピアス。暑苦しそうなつなぎを着ている。肩を出している男の腕には、刺青がある。
「す、すみませんでした。急いでいたもので・・・」
二人の容姿に少し気後れしたが、頭だけはしっかり下げる国也。
「そんな程度の詫びで済むと思うのか?」
金髪は、気が短いらしい。国也の顎をつまんで押す。緊張していた国也は、押されてトコトコと後ずさりする。
「すみません、病院に行こうと思ってたんですが、地下鉄が何処だか分からなくて、それで慌ててたものですから・・・」
厄介な相手には、丁寧に話す国也。
「病院だと?誰がいるんだよ、母ちゃんか?兄ちゃん、マザコンだろ!」
いい加減にしろ!と言いたいが、言える相手ではない。こんな時、乃菊だったら・・・。
「いえ、乃菊ちゃんです!」
つい、乃菊の名前を出してしまった。
「乃菊ちゃんだと、あの大人少女23の乃菊ちゃんと同じ名前かよ」
乃菊を知っていた。
「ふざけんなよ、俺たちのアイドルと同じ名前の母ちゃんがいるのかよ、兄ちゃん!」
何だか、変な展開だ。
「いえ、その菊野乃菊ちゃんが、入院してるんで・・・」
国也は、正直に言ってみた。
「ニュースです!今日午前、IME放送“ど曜っと情報カップ”で売り出し中の女性ユニット、“大人少女23”のメンバー、菊野乃菊さんが、番組の中継中、見物客の男に刺され、病院に運ばれました。男は、現行犯逮捕された模様です。ネットでは、死亡説も流れていますが、詳細は、確認中です」
死んでないよ!と街頭テレビに向かって心の中で叫ぶ国也。
「兄ちゃん、乃菊ちゃんとは、どんな関係なんだよ!」
二人は、茫然とテレビを見ていたが、我に返って国也に聞く。
「お。おじさんです・・・」
乃菊は、おじさんと言う。
「す、すいませんでした!病院は、どこですか?」
二人の態度が豹変した。
「仲邑区の総合病院だと聞いてます・・・」
田沢に聞いた情報。
「じゃ、西山線だ!」
坊主頭の唇ピアスが言う。
「ご案内します。こっちです!」
金髪タンクトップが指をさす。
「早く行かないと!」
二人は、先頭に立って国也を誘導する。
「何だ、こいつら、見かけによらず、いい人間じゃないか・・・」
そう思いながら、ついて行く国也。乃菊のファンに悪い奴はいない、そう思う国也である。
「この地下鉄の孝畑行きに乗ってください。おじさん、乃菊ちゃんは、死んでないっすよね?」
金髪タンクトップが聞いた。
「大丈夫だよ、ありがとう!」
降車駅も教えてもらって切符を買い、改札口へ向かった。
「早く元気になってと、伝えてください!」
改札口の向こうで、坊主頭の唇ピアスが言う。
「いつまでも、応援していますから!」
金髪タンクトップが拳を握って、手を上げる。
「ありがとうございます!」
国也は、涙が出そうだった。金髪タンクトップも坊主頭に唇ピアスもいい奴なんだ。君たちのことは、乃菊に伝えるから・・・。
国也は、二人に見送られながら改札を抜け、階段を下り、地下鉄に乗った・・・。




