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ライバル

「今度の曲は、フォーメーションを変えるので、メインボーカルを中心に三角形になり、曲中のダンスで入れ替わりを行います」

会議室に集まったメンバーに、田沢がおおまかな説明をする。

「じゃ、小田津さんお願いします」

田沢の隣に座る小田津が、分厚いファイルを開き、次曲の説明を始める。

「じゃ、楽譜を見て」

メンバーが配られていた資料の中の楽譜を見る。

「曲のセンターは、鈴木真阿子。Aメロを鈴木からジュリア、Bメロをみおんからふう美。乃菊のラップを入れて、全員でサビ、最後のところを乃菊で締める。後半が、Aをジュリアからみおん、Bをふう美と亜美、乃菊のラップが入って、サビを全員で、鈴木のCメロが入って、全員のサビで終了。とりあえず、これで練習してもらうから」

小田津が曲全体の流れを説明する。

「ちょっといいですか?」

ふう美が手を上げる。

「真阿子より歌もダンスも上手い人が、他にいるじゃないですか。どうして真阿子がセンターなんですか?」

ふう美が異論を発する。

「先生たちの考えなんだから、やめなよ!」

みおんがふう美に向かって言う。

「あなただって、気に入らないでしょ」

ふう美が言い返す。

「ふう美さん、やめなさい。これでいい曲になれば、みんなにとっていいことなんじゃないの」

乃菊がなだめるように言う。

「そう、バランスだよ。君たちの歌もダンスも見て、チームワークのとれる配置なんだ。これは、ジャッキーにも伝えて、了承を得てることなんだ」

不満そうな顔をするふう美だが、引き下がった。

「この後、スタジオに行って、デモを録音するから、その後、出来た音源でダンスと合わせますのでよろしく。じゃ、とりあえず休憩しますので、準備が出来たらスタジオに行くように」

田沢は、部屋を出て行き、残っている小田津のところへは、メンバーが集まり、細かい説明を受けた。


「羽流希さん、待ってください!」

廊下に出て来たみおんが、田沢を呼び止める。

「ふう美の言う通り、どうして私やのぎちゃんをセンターにしてくれないんですか?」

番組の主題歌であるデビュー曲は、6人横並びの歌だったが、今回の曲は、センターを中心に三角形のポジションをとる。すなわち、メンバーそれぞれには、自分の存在価値を左右するポジションにも思われる。

「みおん、君の歌もダンスもグループの中では、1、2だけど、君の義理の兄だった僕が、最初から君をメインには出来ない。それに乃菊ちゃんも仕事を持ってるから負担はかけられないし、だから鈴木さんなんだ」

田沢は、みおんには、思いが伝わって欲しかった。

「それはわかるけど、少なくとものぎちゃんは、もっと前に出してもいいんじゃないかな」

みおんが言う。

「いつかそんな時が来るさ。今だけじゃないぞ、みおん」

田沢とて、このグループがこの先どうなって行くのか分からない。今は、その土台をしっかりと作りたいのだ。

「うん・・・」

みおんも田沢のプロデュースを信じている。

「じゃあ、資料を準備してからスタジオに行くから、みんなのところへ戻りなさい」

田沢が去り、みおんは、一人ポツンと立っていた。

その時、階段の陰で二人の会話を聞いていたふう美が、拳を握って考えていた。・・・鈴木真阿子がいなければ、自分にセンターが回って来るだろうと・・・。

そして、みおんの前に現れる。

「みおん、田沢さんとあんたは、そんな関係だったんだ。それでリーダーにもなって優遇されているんだね」

ふう美がみおんを睨んで言う。

「リーダーくらいなら、いつでも譲ってあげるよ。私は、田沢さんがいるからこのメンバーになったんじゃない。少なくとも、あなたよりこの仕事に賭けてるつもりよ」

みおんも睨み返す。

「言うじゃない。私も負けないわよ、あんただけには・・・」

ふう美は、吐き捨てるように言い、先に会議室へ戻る。残されたみおんは、拳を握りしめて、その姿を見送った。


数日後。

この日の練習を終えたふう美は、亜美と一緒に照明係の若手、基橋をカラオケに誘う。

ミラーボールの輝く中で、三人は、それぞれ自分の十八番オハコを歌いながら飲食する。

「ねえ、基橋君。お願いを聞いてくれたら、一晩付き合ってあげてもいいわよ」

ふう美は、基橋の耳元で囁くように言う。それをふう美に好意を寄せる基橋が断るはずがない。

「何をすればいいんですか?」

基橋がふう美の顔を見る。

「次の曲のスタジオ練習の時、鈴木真阿子の上に照明を落として欲しいのよ」

ふう美の企みだ。

「そ、そんなこと出来ませんよ!」

基橋が驚く。

「あなたならやってくれると思ったのに、じゃあ、先にサービスしてあげる・・・」

ふう美は、基橋の手を取り、顔を寄せキスをする。基橋は、魔力にかかったように抵抗なく唇を合わせる。そして唇を合わせるふう美の眼が、ワニのように瞳が縦に細くなり、基橋の舌と絡まるふう美の舌は、長くて先が二つに割れている。

さらに、ふう美の口から黒い煙が現れ、絡まる舌を伝って基橋の口の中へと入って行く。

歌っていた亜美は、その光景を見て震えている。

「何してるの、歌いなさいよ」

ふう美のワニのような眼に怯えた亜美は、言われるままに歌うしかなかった。

ふう美が歌っている亜美の横へ行き、耳元で囁く。

「あなたは、何も見ていない。それさえ覚えておいてくれればいいの、わっかった?」

ふう美は、亜美をコントロールする。

「は、はい・・・」

コクリと頷く亜美。ふう美は、ソファへ戻る。

「私の望みを聞いてくれるわね?」

「はい、何でもします・・・」

少し前の基橋とは違う目つきになっていた。










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