デビュー
「おとなになって初めて♪出会ったわけじゃないのよ♪・・・」
風呂場から聞こえる乃菊の歌声。
「母さん、もうかなり長く入ってるよ。のぼせちゃうといけないから、出るように言って来てよ」
国也は、お菓子をポリポリ食べながら、女性誌を読んでいる雲江に言う。
「自分で言いなよ、暇だろ」
雲江は、女性誌から目を離さずに言う。
「明日デビューなんだから、風邪を引いたらどうするんだよ!」
国也のイライラが募る。
「だから自分で行って来なさいよ。もしかしたら、乃菊ちゃんのヌードが見れるかもよ」
とんでもない母親だと思う国也。
「馬鹿なこと言ってないで、さっさと行って来いよ!」
本当に怒っている国也。
「母親に向かって何て言い方するんだい。・・・せっかくのチャンスなのに・・・」
雲江は、面倒くさそうに立ち上がる。そして女性誌を持ちながら風呂場へ行く。
「やれやれ・・・」
やっと動いたか、と一安心する国也。
「乃菊ちゃん、早く出ないと、あいつが覗きに来るよ!」
雲江の言葉に、唖然とする国也。
「はーい、すぐ出ますう・・・」
国也の頭は活火山になり、今にも噴火しそうである。
土曜日、午前10時・・・。
国也と雲江は、テレビの前に並んで座っている。
「緊張するなあ。こんな気持ちは、久しぶりだよ」
何故か国也が緊張している。
「録画の準備は出来てるの?」
雲江が聞く。
「ちゃんと予約してあるよ。記念の第一回だからね・・・」
二人は、お茶やお茶菓子の準備も万端に、番組の開始を待っている。
「はい、今日から始まります、土曜朝の情報番組“ど曜っと情報カップ”、司会のパッシー銀砂です!」
MCを担当する関東のタレント、パッシー銀座が元気よく挨拶をする。
「IMEアナウンサー、北辺トモ子です!」
中堅の女子アナである。
「そしてレギュラーゲストは、男女のお笑いコンビ・・・」
北部トモ子が続けて紹介する。
「甘党からしの紺埜香奈音です!」
男女のコンビだ。
「山騨一郎汰です、です、わよおおおん!」
いつもこんな感じの自己紹介。
「お前が女か!」
一郎汰が、頭を叩かれる。
「よろしくお願いします!」
そして二人で頭を下げた。
「そしてIME若手アナウンサーのお二人・・・」
パッシー銀座が次を紹介。
「相元久実代です。この地方の新しい情報を、知性を使って皆さんにお伝えしたいと思います!」
明るく抱負を言う。
「知立拳冶郎です。僕は、身体を張っていろいろな情報を体感してきたいと思います!」
レギュラー6人が並んで座っている。
「今日はまず、この子たちに、番組主題歌を生で歌ってもらいます。番組のアシスタントを務める、この番組のために作られたユニット、“大人少女23”の6人です。どうぞ!」
イントロが流れ始め、スタジオ中央に、乃菊たち6人が登場して、歌とダンスを披露する。
「ほら、ほら!乃菊ちゃんだよ!」
子供の様にはしゃぐ国也。
「わかってるよ、言われなくたって」
二人は、お菓子を食べながら、テレビを食い入るように見る。
「可愛いね、乃菊ちゃん。あら、こんなドレスじゃ、パンティ見えそうだよ」
雲江は、少し頭を下げて、テレビを下から覗くようにして見る。
「何してんだよ!」
雲江の行動に、頭を傾げる。
「何色穿いてるかと思って・・・」
そんなことして見えるか!・・・なんて馬鹿な親だと思う国也も、反対側に頭を傾ける。
「はい、大人少女23の皆さんです!・・・御苦労様!」
パッシーやアナウンサー、ゲストが、拍手をしながら前へ出て来て、歌い終わった6人を囲む。
「じゃあ、こちらからお名前を・・・」
北辺トモ子の進行で6人の自己紹介が始まる。
「リーダーの皆賀みおんです。よろしくお願いします!」
最初は、みおん。
「見浪ふう美です。よろしくお願いします!」
次がふう美。
「左島ジュリアです。よろしくお願いします!」
金髪のジュリア。
「鈴木真阿子です。頑張ります!」
センターの真阿子。
「今堂亜美です。よろしくお願いします!」
コスチューム姿が意外と可愛い亜美。
「菊野、乃菊です。みんなと一緒に頑張ります。よろしくお願いします!」
乃菊が最後で挨拶を終え、それぞれの席へ戻る。
「菊野ちゃん!」
パッシー銀砂がいきなり乃菊に声をかける。
「はい?」
いきなり呼ばれて戸惑う乃菊。
「ユニット名が、大人少女23なんだけど、みんな23才なの?」
パッシーが続けて聞く。
「そうです・・・」
簡単に答える乃菊。
「みんな美人なんだけど、菊野ちゃんは、大人ですか、少女ですか?」
笑顔で聞くパッシー銀座。
「私は、ほとんど子供です」
スタジオのみんなが笑う。しかしパッシーは苦笑い。
「じゃあ、見浪さんは?」
相手を変える。
「大人のつもりなんですけど」
またまた苦笑いのパッシーである。
「それじゃあ、皆賀さんは、どうです?」
最後の砦か・・・。
「大人と少女の両方持っていたいです」
パッシーは、みおんの答えに一安心する。
「それがコンセプトなんですね。はい、それでは、最初のコーナーから行きましょう!」
こうして、担当別で取材した情報を報告する番組がスタートした。
「何だか、この司会者、気に入らないな」
お菓子を食べながら、国也が言う。
「どうして?」
国也は、座椅子から身体を乗り出すようにして、お茶を一口飲む。
「他の子の時は、さん付けなのに、乃菊ちゃんだけ、菊野ちゃんなんて言うんだ。こいつ、陰で乃菊ちゃんにちょっかい出しそうだよ」
国也の分析である。
「お前だって、もう手を出したんだろ?」
雲江が事実を言う。
「だ、出してないよ!人聞きの悪い・・・」
いや、手を出したような、出してないような、不可抗力だったような気もするし、あれこれ考える国也である。
「いいんじゃないの、取られる前に手をつけちゃえば・・・」
小声で言う雲江。
「ん!何て言ったの?」
雲江は、知らん顔をする・・・。