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ゴーストバスターを呼んでくれ!

作者: 砥和 浩

新月の暗闇に包まれた日本帝国陸軍富士統合演習場。俺は戦車長代理で一両の70式戦車に乗っていた。

「2時の方向!目標確認!」

キューボラから半身を出していた俺はそう叫ぶと車内に引っ込んだ。

「ヤツっすか?」

砲手席に座る原軍曹が尋ねてくる。

「そうだ!ヤツだ」

戦車長用のモニターを見るとバッチリとヤツが映っていた。

「ゴースト…」

車内の一番前に座っている操縦手の押尾曹長が呟く。

ゴーストパンツァー。三ヶ月前の新月にあらわれた幽霊戦車。夜間訓練に励んでいた10人以上の隊員が確認している。部隊内ではちょっとした噂になっているが基地司令より上には伝わっていないはずだ。

「押尾軍曹、モニターでゴーストは確認できるか?」

「確認してみます」

70式戦車のエンジンが動き出す。静寂だった車内は1200馬力の力強い駆動音に満たされる。耳当てがないと鼓膜が傷むおそれがあるほどの轟音だ。戦車が動き出す。右はバックギアに、左はローギアに、それぞれの履帯に伝達される。超信地旋回で車体は2時の方向つまり右に60度その場で回る。

「どうだ?」

車体が停止したのと同時に尋ねる。

「見えます」

「よし!予想通りだ。ゆっくり近づいてくれ」

再び戦車が動き出す。速度は歩兵が歩くぐらいのスピードだ。相手は幽霊だ。ゆっくり用心深く警戒しながら近づく。距離は1000mもない。少しずつ距離をつめていく。

「もうちょいスピードを上げてもいいぞ」

「了解」

幽霊が暗視カメラに映るのもどうかと思うが、レンズの中にはハッキリとゴーストパンツァーが映っている。


双方の距離が500mきったあたりでゴーストパンツァーの砲塔が動き出す。その先は近づいてくる70式戦車。ゴーストパンツァーが砲撃するとは誰が思っただろうか?ゴーストバスターである金田少尉でさえ予想はしていなかっただろう。正面唯一の弱点である履帯に砲弾が命中する。起動輪と履版が吹き飛ぶその衝撃により車体が少し浮く。不愉快な浮遊感。


70式戦車車内。

「履帯破損走行不能…」

動揺することなく押尾軍曹がいつもの口調で状況を報告してくる。

「ケガはしてないか?」

先ほどの衝撃で硬い座席に打ち付けたお尻をさすりながら言う。青タンになってそうな痛みだ。

「こちらは大丈夫っす」

「大丈夫」

二人とも大丈夫そうだ。

「よし!砲は使えるよな?」

「これぐらいの衝撃で戦車砲は壊れないっすよ」

戦車は頑丈にできている。それに搭載されている戦車砲は直撃弾以外ならそうそう壊れないらしい。

「榴弾をアイツの上で爆発させることってできるよな?」

「余裕っす」

原軍曹はそう言うと自動装填装置を操作し始める。多目的榴弾。その名の通り多目的ように用意された榴弾である。多目的の中にも対幽霊が想定されていることを勝手に願う。

自動装填装置により榴弾が装填される。押尾軍曹が照準のズレを直す。

「発射準備完了!」

「撃てぇ!」

先ほどの衝撃より強い衝撃と轟音が車内に鳴り響く。一瞬で飛翔し目標の上空で爆発。爆煙が晴れていく。

「ゴーストパンツァー消失!見当たりません!」

そこには黒こげた地面と燃える草花だけがあり戦車の残骸すら残さずキレイに消えていた。

「よし!予想通りだ」

そう言い残しオレはキューボラから外に飛び出す。辺りは真っ暗で静寂な夜だった。そして前方に一つの霊魂がこちらに近づいてくるのであった。


「誠に申し訳ありませんでした!」

彼の名は石橋清次郎。九六式中戦車の砲手を担当していたらしい。

「お気になさらず。むしろそれで成仏ができるのなら大いに結構です」

そう彼は敵を撃つことなく戦死した偉大な大先輩だ。当時の帝国は粗末な物しか作れなかった。原材の不足また工作機の故障そして優秀な人材の欠員によってだ。それらの影響は戦車砲にも影響を与えていた。三割の戦車は撃つこともできないただの鉄の棺桶だったらしい。彼が乗った戦車もまたその三割に当たってしまった。敵戦車が目の前にいるというのに撃つこともできず戦死してしまったらしい。

「これで恋人にも会えにいけます。ありがとうございました」

彼は足を揃えビシッと今と変わらない陸軍式の敬礼をする。そしてオレも同じ敬礼で返礼を返す。彼は一瞬の内に消えた。


「武運長久を…」


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