出発
その後の道のりをシーグ達は言葉少なに歩き通し、3人は野営地へと戻った。
「集ぅぅー合ぉぉー!」
ガロンが大喝すると、それまでてんでばらばらだった隊の者が一斉に動き、きれいに隊列を組んでシーグ達の前に並んだ。
「気をぉぉ付けぇぇー!」
ザッと足音を立てて一同が同じ姿勢を取る。
微風が吹いて一同の前に立つシーグのマントを揺らす。その影に隠れるように立って目を白黒させるリーリア。
「新たな任務だ」
シーグが言った。隊の者たちは微動だにしない。
「昨日保護したこの女性だが、とある事情により王都まで一緒に連れていくことになった。その護衛だ。詳細は伏せるが、丁重に扱うように。みだりに近づくことも許さん、分かったな」
「はっ!」
「ではこれより王都に帰還する。出発の準備を」
「はっ!」
「解ぃぃ散っ!」
ガロンが再び大喝すると、隊は三々五々散っていった。
「すごいですね。皆さん息がぴったり」
リーリアは率直な感想をもらした。
「まぁ、そう訓練しているからな。命令に従うように」
「大変なんですねぇ」
「君も」
「はい?」
「なるべく私の指示には従ってもらいたい」
「あ、はい」
「まずは馬に乗ってもらおう」
リーリアは目を大きく見開いた。
「わ、私馬なんか乗れません!」
「大丈夫だ。私が一緒に乗る。来い」
「えっ、ちょっと、でも・・・」
シーグは大股ですたすたと歩き出した。
「ま、待って・・・」
リーリアは慌てて追いかける。
後をついて行くと巨大な黒い馬が鼻息荒くリーリアを待ち構えていた。
「こ、これに乗るんですか?乗れるんですか?」
顔も体も何もかも、村の農耕馬などとは比べものにならないくらい大きかった。
見上げるほどの巨体にリーリアは乗ること自体に疑問を持った。
「大丈夫だ。その辺の人間なんかよりよっぽど頭が良くて、それに私には従順だ」
「で、でも・・・」
リーリアはたじろいだが、
「いいから、ほら」
シーグがリーリアの腰を持って、ひょいと抱き上げた。
「きゃあっ!」
まるで自分が空気みたいに軽いみたいだ。
鞍にお尻がつくと、とっさに鞍をつかんだ。
「いいぞ、そのまま横乗りでしっかりつかまってろ」
そう言うとシーグは鐙に足をかけ、自らも馬に乗った。その動きは軽やかで、乗り慣れた動作はリーリアには風が動いただけに感じられた。
すぐ横にシーグの熱い体。
せ、狭い・・・。
「ほら、もっとつめろ。足は私の足の上に乗せていいから」
「い、いいの?」
「ああ」
リーリアは身じろぎをして、言われた通りどぎまぎしながら居心地の悪い足を彼の筋肉質の太ももの上にそっと乗せた。なんとかバランスを保つ。ふぅ・・・。
「きゃーっ」
が、突然馬が動いて落ちそうになった。リーリアはとっさにシーグの胸にしがみついた。
「どうどう・・・」
シーグが手綱を引いて馬を鎮める。
あー、びっくりした。
「・・・、できればそんなにしがみつかないでいてくれるとありがたいんだが」
リーリアははっとして顔を上げた。すぐ上に端正なシーグの顔があった。
思わず顔がかっと赤くなり、すぐにぱっと手を放した。
「わ・・・ごめんなさ・・・きゃー!!」
手を離したせいでまた落ちそうになる。
「ああ、もう、落ちるくらいならつかまっててくれ!」
シーグの手が伸びてリーリアを抱き寄せた。
「あ、ありがとうございます・・・」
リーリアはシーグのマントに掴まった。
後ろのほうでくすくすと兵士たちの忍び笑いが聞こえてきた。
いつの間にか出発の準備を整え、リーリアたちの後ろに並んでいた。
「まるでここだけピクニックのようですな」
馬に乗ったガロンも近づいてきて、笑いをこらえながら言う。
「うるさい、行くぞ」
シーグは馬の腹を蹴って馬を進めた。
「出発!!」