一時の休憩
「元気がないな、大丈夫か?」
シーグは黙って歩くリーリアに声をかけた。
リーリアは何と言っていいか分からなかった。
話しかけないで無礼者、とでも言えばいいのだろうか?
頭の中がいろいろなことで混乱してとても話せる気分ではない。
私は父さんの子じゃなかった、そして本当の父親はこの国の王様で私は王女様・・・。
頭がくらくらする。
「どこかでお休みになった方がいいのではないですか?」
ガロンという従者が口をはさんだ。
「そうだな」
シーグは街道脇の大きな木に目をつけると、そこにリーリアを促した。
リーリアは正直休みたかったので、素直に従った。
木陰は初夏の眩しい日差しをさえぎり、少しひんやりとした空気で迎えてくれた。
大きな木の根に座り、一息つく。
「急なことになってすまなかったな」
シーグはリーリアを見つめて言った。
「いいえ」
リーリアは目をそらしたままそれだけ言う。
どうせ嫌だと言ったところで、この有無を言わせない雰囲気を持った男性にきっと説得されて無理にでも連れて行かれただろうし、自分の本当のことを知った今ではあの村で今後どのように過ごしたらいいか分からない。
自分がこの長く続く戦乱の世を収める鍵と知ったならなおさらだ。
王の不在がこの内乱と戦争の元なのだから。それくらいはリーリアも知っている。
でもまさか自分が・・・。
リーリアは膝を抱え、その膝に顔をうずめてそっと息をついた。
「大丈夫か?水でも飲むか?」
気遣わしげな声でシーグが聞いた。
リーリアは顔を上げてシーグを見た。
珍しい黒い髪、日焼けした浅黒い肌、黒の服に黒のマント・・・。
黒い死神、って言ってたっけ。初めて会ったとき、ガロンがシーグのことをそう言っていた。
でもとてもそんなふうには見えない。ヘーゼル色の瞳が印象をやわらげている。
「水でもどうかと聞いたんだが・・・」
リーリアははっとして背筋を伸ばした。
いけない、ついぼんやり男の人の顔なんか見つめちゃってた!
「いえ、あの、黒い髪が珍しくてつい・・・」
「ああ、これか。確かにこの辺りでは珍しいだろうな」
シーグは前髪を一房つまみあげた。
「はい、見た事なくて」
「この髪は母親譲りだ。母は東方から来たんだ」
「東方?」
「知らないか?この国の森と山と砂漠を越えたずっと遠い所にある地域のことだ。そこでは黒い髪に黒い目の人ばかりだそうだ」
「砂漠?砂漠って何?」
「母によると、大地が見渡す限り全て砂でできているんだそうだ」
「砂でできた大地?」
「ああ。砂の海らしい」
「私海も見たことないの。すごく広いのでしょう?」
「そうだ。機会があったら見に行こう。王都からティエル川を船で下っていける」
「本当?船に乗れるの?」
「ああ」
「あー、せっかくのところを邪魔して申し訳ないのですが」
ガロンがおっほんとわざとらしい咳をした。
シーグがはっとして顔をあげ、にやにやと笑っているガロンに一瞥をくれ、立ち上がった。
「・・・すまない。出発しよう、十分休んだな」
「はい」
「まったく、若いとはいいですなぁ」
ガロンが好々爺の表情でにこにこと言う。
「ガロン!余計なことは言うな!」
「いやいや、堅物の我が君がこんなにも女性を誘うのがお上手だとは知りませなんだ」
「誘ってなど・・・」
「はいはい。さ、出発、出発」
ガロンは満足そうな足取りですたすたと歩き始めた。
リーリアがふとシーグをみると、シーグは顔に手をやり、まずい失敗したという顔をしていた。
リーリアは訳が分からなかったが、とりあえず歩き出した。
船に乗るのはだめなのかな・・・?




