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出生の秘密

 小さな教会。

 薄暗い中、窓から差し込む光にほこりが小さな光の粒となってきらきらと舞っている。

 父親は教会の細長い椅子にどっかりと座り、長く息をついた。リーリアは不安げにその横に座り、シーグは近くに立ち、ガロンは少し離れて立った。

「単刀直入に聞くが、リーリアはあなたの実の子ではないんだな?」

 父親はこっくりと、うなだれるようにうなずいた。

 リーリアが体をふるわせた。

「お・・・父さん・・・?本当に・・・?」

 またもやうなずく父親。

「で、でも、だって・・・」

「本当だ。おらからお前さみてなめんこい娘、産まれるわけねぇべ」

「だって、私はお母さん似だって言ったじゃない、お父さんの子じゃないなんて・・・そんなこと、あるわけが・・・」

「お前さの母さんが月足らずでお前さ産んだこと、村のもんみんなに聞いてみろ」

「・・・嘘」

 リーリアは放心したように虚空を見つめた。

「詳しく話してもらえますか?」

 父親は一つ息をつくと、罪を告白するようにじっと組んだ両の手を見つめながら話し始めた。

「ルーネは、王宮には本当は上がりたくなかったそうだだ。ずっと自由が欲しかったと言っていただ・・・。王から、その、愛されて子供ができたそうだだ。だども王様は王妃様を愛していただべ、後悔したらしいだ。子供ができたことは秘密にして欲しい、他の男の子供だと言ってほしいと。ルーネは承諾した、その代わり自由にしてほしいと。王はせめてもの償いにそのペンダントをくれたそうだ。密かに逃げる計画をしていただが、その前に王様が急におっ死んじまった。その後のことは知ってるべ?ヨード公が王宮さ中に入って俄か王になった。反対する人を殺して。有力な王位継承者も殺しちまった。ルーネは怖くなったんだべ、もし王の子がいると知られれば、この腹の子も同じように殺されてしまうかも・・・と。ルーネは逃げた。で、荷馬車に乗って行き着いた先がこの村だべ。そん時ルーネは精神的にだいぶまいっていただ。追手がいるかもと怯えていただ。それに村の者がやっかいな荷物になると追い出そうとしたりしただ。そんで思い余って死のうとしてたところをおらが助けただ。おらはルーネさ一目見て好きになった。絶対絶対死ぬなって、何のためにここまできただか、生きるためだべって・・・。命は自分からは絶対に捨ててはなんね、自分で生まれてきたんじゃねんべから、死ぬ時も天にまかせておぐもんだと。悪いことは全部がお前さんのせいじゃねんだから、いいんだって、死ぬようなことは何もねぇって。おらはルーネさ家に連れて帰っただ。おらの家は山ん中だ、誰も来ねし、村の者も滅多に来ね。落ち着いたら死ぬことさ考えなくなんべ、んで子供さ無事産まれたら好きなとこ行けばいいって・・・。でもルーネはリーリアが産まれてからもずっとおらの家にいてくれただ。村の者もリーリアには優しかっただ。めんこい子だったべから。それからルーネはおらの嫁っことして、まるでもともと村にいた者のように村に溶け込んでいっただ。田舎暮らしのほうが好きだったみたいだべな。幸せだったと思うだ。3年前病気で死ぬまでは・・・」

 父親は思い出したのか、ぐすりと鼻をすすった。

「なるほど・・・。問題の核心だが、リーリアが王の子だというのは間違いないんだな?」

「んだ。おらの子でないことは間違いないだ。リーリアはルーネが来てからたった7カ月で生まれただ。丸々太ってな」

「そうか・・・。親父殿、相談なんだが・・・」

「ああ、分かってるだ。こんな日がいつか来ると思っていただ・・・」

「お父さん!?」

「・・・いいのか?」

「ああ。この国の惨状はよく分かってるだ。でも自分からリーリアを手放すことはできなかっただ・・・。知られなければいいと思ってもいただが、時がきたんだな。リーリアが女王として必要なんだべな?」

 シーグはうなずいた。長く不毛な争いに終止符を打ち、国を再興するのに最適な時だ。

 もう誰も争いなど望んでいない、平和を取り戻す時だ。

「約束してけろ。リーリアさ傷つけないって。守ってやってけろ・・・」

「無論だ」

「い、嫌よ、女王とか、何なの!?私は、私はお父さんの子よ!」

 その言葉を聞いて父親はぼろぼろと涙を流し始めた。

「ああ、おらん子だおらん子だ、お前さはおらん子だ。どっこも行かせたくねえだ。だどもだども、本当はこの国の王様の子だ。おらんとこなんかいちゃいけねぇんだ。本当の居場所に帰らなければいけねんだ。お前さは、お前さは・・・」

「お父さん・・・」

 親子はひしと抱き合い別れの時を惜しんだ。

「何かあったら帰ってこい。女王様なんかならなくていいだ。おらが守ってやるだで、いつでも帰ってこい」

「うん・・・」

「さぁ、行こう。この国が君を待っている。一刻も早いほうがいい」

 シーグはリーリアの手を取った。


 教会のドアを開けると心配そうな顔の村人たちが待っていた。

「あ、あの、騎士様」

 村長らしき初老の男がおずおずとシーグに声をかけた。

「なんだ?」

「リーリア・・・様のこと黙っていたのは悪かっただ。知らせるべきだっただべが、あの男が・・・。どうかお咎めのないように・・・。これは気持です・・・」

 と、ずっしりと重たそうな布袋を差し出した。

 なるほど。王家の者を届け出ずに匿ったことが罪になると思っているのだな。

「いや、いい」

「は?」

「無事に育ててくれて感謝しているくらいだ。いずれリーリアが王の位についた時には何らかの措置もあるだろう。心配しなくていい」

「そ、それはありがとうございます!」

 村の者は一様にほっとした表情になった。

「リーリア、元気でね」

「気をつけていくんだよ」

「みんな・・・」

 同じ年頃の娘たちはリーリアを取り囲み、抱擁を交わす。男たちは残念そうな顔で見送った。 

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