表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/14

王女の隠れ里

「こんなに近くだったのね」

 街道に出ると、リーリアが先頭に立って道案内を始めた。

「君はいつ攫われたんだ?他に被害に遭った人はいないのか?」

「昨日よ。夕方ごろ、山を歩いてたら急に。他に人はいなかったわ」

 夕方ごろか。逃げる途中の蛮族どもが腹いせにでも攫ったか。

「よく無事だったな」

「私にもよく分からないの。最初、同じ年位の男の子に会ったの。道がわからなくなったらしくて。でも言葉が通じないでしょう?仕方なくて峠を越える道まで案内してあげたの。そしたら他の仲間の蛮族が現れて、何故か一緒に蛮族達の所に連れて行かれてしまったの。それで男の子とは引き離されて縛られて布をかけられて。そうしていたら今度現れたのはあなた」

 なるほどな。それにしても1日に2回も攫われるとは、美人すぎるのも考え物だ。

「そんなことでは、今まで大変だったんじゃないか?君の家に男どもが列をなして花束を抱えて来ただろうに」

 シーグはふと思ったことを口にした。

「まさか。そんなことないわ」

 リーリアは怒ってシーグをにらみつけた。

「手紙や贈り物がわんさか届いただろうに」

「そんなことないって!」

「お二人とも、痴話喧嘩はお見苦しいですぞ」

「ち、痴話・・・!?」

 シーグは面食らって黙った。そうだ、何故自分はこんなことにつっかかっているんだ?この少女の男関係などどうでもいいではないか・・・。

「ほら、もうすぐ村よ」

 道の先に建物の屋根が見え始めた。変な雰囲気をはらうようにリーリアは駆け足になって街道を急ぐ。

 その道の先に農夫らしき老いた男が背中を丸めて歩いていた。

「ハベイさん!」

「ん・・・?おお、リーリア!リーリアじゃないべか!どこさ行っておっただ。みんなみんな心配しておっただぞ」

「それがね、いろいろあって・・・」

「あー、おっほん」

 ガロンが咳ばらいをした。

「ご老人、すまないがこのお嬢さんの父親のところへ行きたいのだが」

「んん?どなたですかいの?」

「こちらはシーグ・アイガース様。アイガース家縁のお方、早々に案内されよ」

「ア、アイガース・・・?」

 老人の目が驚きで見開かれた。まるで幽霊でも見たような驚き方だ。

「ああ、大変だ・・・。とうとう・・・」

 老人は後ずさりしてそのまま村の方へ駆け去った。

「ハベイさん?どうしたの急に、ねえ・・・。行っちゃった」

 リーリアは不思議そうな顔をして老人を見送った。

 シーグとガロンは顔を見合わせた。

 やはり何かがある。あの老人の慌てよう、ただ事ではない。

「行こう、リーリア」

 シーグはリーリアを促した。リーリアは腑に落ちないといった顔で村を見つめている。その足は踏みとどまったまま動かない。

 彼女も何かを感じ取っているのだろう。

「・・・何か行きたくないの。どうしてかしら・・・」

 感情のこもらない、ぽつりとしたつぶやきだった。

「時には前に進みたくない時もある。だが、いつまでもそこにいるわけにもいかないだろう?」

 シーグはまっすぐ前を見つめたまま言った。

 リーリアは唇をかみしめたが、やがてこっくりとうなずき、村へ向かって自ら歩きだした。


 村にはすでに村人たちが何十人と集まっていた。

 皆遠巻きにリーリアを見つめている。

「あ、あの、みんな、心配かけてごめんね。こんなお出迎えしてもらって嬉しいな」

 リーリアは冗談交じりに言うが、村人たちは遠巻きに見つめたままだ。

「リーリアー!!」

 そこへ一人の男が両腕を広げて走りこんできた。

「お父さん!」

 リーリアも走って父親である男の胸へと飛び込んだ。

「よかっただ、よかっただ。どこさいっちまっただと心配しただ」

「ごめんなさい、蛮族にさらわれちゃったの」

「無事でよかっただ、怪我とかしてねえか?」

「うん、大丈夫」

「あー、御父君」

 ガロンが咳払いをする。

「ん?お前さん誰だべや?みんなもどうしただ?」

 シーグが一歩進み出る。

「すまないが、リーリアさんのお父上だろうか?」

「ああ、そうだ。おらが父親だ」

 男はリーリアと血がつながっているとは思えない、熊のような男だった。

「このペンダントについて聞きたい」

 シーグが手のひらからペンダントを滑り落とす。赤い宝石は陽光を受けてまばゆい光を放った。

 リーリアの父親は愕然として目を見開いた。

「そ、それは・・・その・・・」

「ねぇお父さん、この人私のことをこの国の王女だって言うの。冗談でしょう?」

 リーリアは無邪気に聞いた。

「ああ、こんな日がいつかは来ると思っていただ・・・」

 男はがっくりと大地に膝をついた。

「ちょっ、お父さん、どうしたの?」

「リーリア、ああ、リーリア・・・」

「すまないが詳しい話を聞きたい。どこか静かな場所はないか?」

 村人の列が割れ、小さな教会への道が開かれた。

 


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ