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一緒がいいよね

「さ、着きましたぞ。では私はシーグ様を叱ってきますかな」

 野営地に戻り、リーリアを降ろすとガロンはすぐ馬を返した。

「あの、叱るって、シーグさんは何かそんなに悪いことをしたんですか?」

 リーリアはすぐ行こうとするガロンを追った。

「ええ、ええ。そりゃもう。あと少し遅かったらどうなっていたことか。妙齢の女性に手をかけるとは不埒千万、騎士道をとくと聞かせますわい」

「はあ」

「では。ああ、スレッグ、お前さんがリーリア殿をみてやってくれ」

「はっ」

 言われてこちらへやってきたのは背が高くて細みの体型の人だった。

「夕食にしましょう。こちらへ」

 スレッグはにこりともせず、ついてこいと言わんばかりにすたすたと歩き出した。

「は、はい」

 あわてて追いかけるリーリア。

「あ、帰ってきたんですね。こっちで食事でも一緒にどうですか?」

 と、お調子者っぽい明るい感じの青年がリーリアに声をかけてきた。

「え?」

「下がれ!」

 前を歩いていたスレッグがすぐに戻ってきてものすごい大声で言った。あまりの大声にリーリアは心臓が止まるかと思った。

「ひっ!?」

「みだりに近づくなという隊長の言葉を忘れたのか!」

「あ、いいえ、その・・・」

「分かったらとっとと行け!」

「ははは、はいっ!」

 お調子者っぽい人は慌てふためいて逃げ去った。その後を追いかけるように影から2、3人の影が一緒に逃げて行った。

「まったく若者のバカ者どもが」

「そんなに怒らなくても」

「よいのです」

「はぁ」

「こちらへ」

 何事もなかったようにスレッグは歩き出した。

 ついて行くと、そこには大きなテントがたっていた。

 中へ入ると、立って歩けるほど広々としており、いくつものランプがあかあかとテント内を照らしていた。

「ではお食事をお持ちします。そこに座ってお待ちください」

 中には簡素なテーブルと椅子が用意されていた。

「スレッグさんはもう食べました?」

「は?」

「あ、その、一人で食べるのは寂しいなと思って」

 広いテント内。ここに一人でいるのは心細い。

「そうですか」

 それ以上何も言わないスレッグさん。うう、どうしたらいいのか分からないよ。

「じゃ、じゃあ、シーグさん待っててもいいですか?」

「は?」

「シーグさんもきっとお一人で食事になりますよね。それなら二人で食べたほうがいいと思って」

「そうですか」

 またしてもそれ以上スレッグさんは何も言わない。ので、いいと思ってそのまま待った。 


 すっかりと暗くなってからガロンのお説教を終えたシーグが戻ってきた。

「あ、お帰りなさい」

 テントに入るとリーリアがにこにことした笑顔で待っていた。

 何だこれは。どういうことだ?

「あの、ご飯を一緒に食べようと思って・・・」

「おい、スレッグ・・・」

 テントの外で待機しているスレッグに声をかける。

「あ、あの、スレッグさんは別に何も悪くないですよ。これは私が言い出したんです。ご飯一緒に食べたいって」

(飯は食べられる時に食べるもんだっ、食わないんなら食うなっ!)

 喉から出かかった言葉はリーリアのちょっと困ったようなかわいらしい顔を見て消し飛んだ。

 軍隊生活が長いので普段ならそう言っていただろうが、不思議と彼女には何も言う気になれなかった。

「そ、そうか・・・」

「一人より二人で食べた方が食事っておいしいじゃないですか。ね?」

「あ、ああ・・・」

「ではお二人分の食事をご用意します」

「・・・頼む」

 スレッグはそのまま行ってしまった。

「ああ、良かった。やっぱりご飯は誰かと一緒がいいですよね?」

 心底ほっとした表情でほっこりした笑顔を向けてくる。

「う、うむ・・・」

 どうもこの少女相手だと調子が狂う。

 さっきガロンから貴婦人に対する騎士道をみっちり聞かされたので、こんなテントで二人きりになるのは絶対に騎士道にもとると思うが、彼女を追い出すのはできそうもない。

 そう、いつもの調子を取り戻して食事なんか一人で取れ、と言えればいいのだが・・・。

「馬ってけっこう簡単に乗れるんですね。最初は怖かったけど、だんだん大丈夫になりました」

 無邪気にとりとめのないことを次々としゃべる彼女。女のおしゃべりなど耳障りだと思っていたが、彼女だと鳥のさえずりのように心地よい。

「でも明日もやっぱり私はシーグさんと一緒なんでしょうか?」

「そうだな。余分な馬がいないし、まだ危険だ」

「そっかー。急には無理ですよね。でもまた教えてくれますよね?今日みたいにまた教えてくれますか?」

「ああ、もちろんだ」

「あは。楽しみだな。今日の夕陽本当にきれいだったし」

「ああ」

「またあんな景色見れたらいいですね」

「ああ、また見に行こう」

 しばし無言になる二人だった。

 

「なんだこれ、隊長デレデレじゃないか」

 テントの外から中の様子を伺っているデバガメ男達。

「あの隊長が女のいいなりだぞ。やっぱり隊長も男だったってことだな。まぁ、これで俺たちへの節制も緩くなるんじゃないか?」

「そうだなぁ。そうだといいけど」

「飯には厳しいのになぁ。俺らがあんなことしたら、『飯は食べられる時に食べるもんだっ、食わないんなら食うなっ!』って言って捨てられてるな」

「そうだな」

「しっかしまぁ、こんな隊長見たことないな」

「あんなガキみたいな女が趣味だったとはな。そりゃ普通の女に興味がないわけだ」

「とうとう隊長にも春がきたのか」

「だとしても、きっと報われないんじゃね?」

「は?どういうことだ?」

「え?お前知らねぇの?」

「知らねぇよ。なんだ?」

「あの娘、王家の血を引いてるらしいぜ」

「嘘!?まじで?」

「本当、本当。王の隠し子らしい」

「ま、まじか・・・」

「ああ、隊長かわいそう・・・。あんだけ美男子なんだから女なんて選り取りみどりだろうに、よりによって王女様に恋するなんて」

「まぁ、世の中公平にできてるってことで」

「そうだな。隊長も失恋ぐらい経験したらいいんだ」

 うんうんとそこにいた全員がうなずいた。

「何をしている」

 と、音もなく忍び寄ったスレッグのドスのきいた声。

「うゎっ」

「ひゃあっ!」

「逃げろー!」

 蜘蛛の子を散らすように逃げるデバガメ兵士たち。

 スレッグは鼻息をふんっと鳴らした。

 もう兵士たちが知っている・・・。

 リーリアの素性は機密事項だが、秘密にしようとすればするほど人というのはそれを暴きたがるものだ。それに彼女の扱い方をみたら誰だって勘繰る。

 シーグ様には、報告だけしておくか。


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