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盟約の花嫁  作者: 徒然
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第49章 相談1

 休暇当日、私とマーサは予定通りハンナさんの家へと向かっていた。

 朝迎えに来てくれる事になっていたポールには、自室の扉の所に伝言を残しておいた。

 本当はポールに直接会ってから城を出てきたかったけど、マーサと相談して、道に迷った時の事を考えて早めに出かける事にした。

「私も知り合いに聞いてはきたけど、行ってみないと分からないから。」

 そう言うマーサは、どこからかハンナさんの家の場所を聞いてきてくれたらしかった。

 多分、あの時私を見つけてくれた兵士の人達の中に知り合いがいるのだろう。


「あともう少しね。何か、手土産でも買っていきましょうか。突然お邪魔するんだしね。」

 マーサがそう言い出したのは、街角に貼り出されている周辺地図を見ている時だった。

 地図には道と、建物が四角く描かれていて、建物ごとに番号が記されている。

 公園やお店のある場所には、名前も小さな字で記されていた。

 帝都は大きくて人も建物も多いから、こういうものでみんな行き先を確認しているのだろう。

「このあたりはお店が多いから、大体なんでも売ってるけど・・・何がいいかしら?」

 マーサの言葉に周囲を見回すと、大きな道沿いにいくつものお店が軒を連ねていた。

「・・・お菓子、がいいかな。」

 エリーとロンがいるから、お菓子ならきっと喜んでくれるだろう。大人だって食べられるし、ミリーは・・・まだ無理だろうけど。

「そうね、いいと思う。行ってみましょう。」

 マーサは微笑むと、店の方へと足を向けた。


 子供向けのお菓子が売っているお店を探して、しばらく周辺を歩き回った。

 途中二人で果汁を混ぜた飲み物を買って飲んだり、可愛い服を見つけて足を止めたりした。

 それがあまりに楽しくて、つい本来の目的を忘れそうになる。

 お昼前になってようやく買ったのは、ケーキを売っている店に置いてあったクッキーの詰め合わせだった。

「いいものが見つかって良かったわね。」

 それに頷いて、ふと隣のお店の表に並べられた商品が目についた。

「マーサ、ちょっとだけ待って?」

「どうしたの?」

 小さな雑貨屋の前には、小物入れや装飾品などが置かれていた。

 その中の一つを手に取り、空にかざしてみる。

 それは、小さな木彫りの竜だった。

 手のひらにおさまるくらいの大きさで、どこかに飾るためか上に紐がついている。

「それ、なかなかいいでしょう?旅行者の中にはお土産に買っていく人も結構多いんですよ。」

 店の奥から、店主らしい男が出てきてそう言った。

「もう少し大きな置物とかもありますが、良かったら中にどうぞ?」

 店主の言葉に、私は頭を振った。紐の部分を持って、もう一度空にかざしてみる。

 木彫りの竜は翼を閉じていたけれど、青い空を背景にすると翼を広げて飛ぶジルの姿が目に浮かぶような気がした。

「・・・これがいいです。」

「ありがとうございます。では袋にお入れしましょう。」

 これで、宝物がまたひとつ増えた。



「フィリス、嬉しそうね。」

 店を離れた所で、マーサが笑い声を含ませてそう言った。

 心の中を見透かされているようで、恥ずかしくなって曖昧に返事を返す。

「・・・私も、誰かいい人いないかな・・・。」

「オルグさんは?」

 よく話しているし、年齢もマーサとそう大きく離れているようには見えない。

 そういう視点で二人が並んでいる姿を想像すると、なかなかお似合いのように思える。

 独り言のような言葉に応えが返ってくるとは思わなかったらしく、マーサは珍しくうろたえた様子で視線を泳がせた。

「べ、別に彼はそんなんじゃないの。確かに仲はいい方だとは思うけど・・・。」

 焦って否定しながらも、頬がわずかに赤く見えるのは私の気のせいだろうか?

 黙ったままの私に、マーサは弁解するように言葉を続ける。

「何度か一緒に仕事をする事があったから、でも、本当にそれだけなのよ?」

 そんなマーサが可愛いく見えて、つい顔がほころんでしまう。

「もうっ、年上をからかわないの!」

「ごめんなさい。そんなつもりじゃなかったんだけど・・・。」

 私の言葉に、マーサは誤魔化すように前を向いた。

「えっと、このあたりだと思うんだけど、見覚えある?」

 マーサの言葉に辺りを見ると、確かに見たような気のする景色だった。

 ただ、似たような外観の家が多いので絶対とも言い切れない。

 歩調を緩めた途端、後ろから突然衝撃を受けてよろめいた。


「やっぱり!」

「おねえちゃんだ!お母さんっ、おねえちゃんだったよ!」

 下の方から聞こえた声に俯くと、少しだけ大きくなった気のするエリーとロンが目を輝かせて私を見ていた。

「エリー、ロン!」

 嬉しい再会に屈み込んで二人を抱きしめた。

「フィリス!久しぶりねえ、元気にしていた?今日はジル君は一緒じゃないの?そちらの綺麗なお嬢さんはどなた?」

 後ろからミリーを抱いたハンナが、早足で追いついてきた。

 さらにその後ろを、両手に抱えるほどの荷物を持ったグラッドが歩いてくる。

「そんなに一気に聞いても答えられないだろう?フィリス、久しぶりだね。」

「お久しぶりです。あの、私、ハンナさん達に会いたくて・・・。」

 もっとちゃんと挨拶をしようと思っていたのに、みんなの顔を見たら胸が熱くなって、出てきたのはそんな脈略の無い言葉だった。

「まあ!わざわざ会いに来てくれたのね!ちょっと近くまで買い出しに出かけてたんだけど、すれ違いにならなくて良かったわ。今日はグラッドもお休みなの。相変わらず散らかった家だけど、ぜひ寄っていってちょうだい。」

「ありがとうございます。」

 私がお礼を言うと、エリーとロンは嬉しそうに私の手を握った。

「あの、初めまして。私はフィリスの友人で、マーサと申します。突然お訪ねして申し訳ありません。」

「そんなに畏まらなくていいのよ。そう、フィリスのお友達なのね。」

 和やかに自己紹介をするマーサとハンナ達を横目に、エリーとロンは歩きながら絶え間なく私に話しかけた。

「ねえ、今日はお泊りしてくれる?」

「新しいオモチャあるよ!見せてあげようか?」

「あ、寝間着どうする?またお母さんの借りる?」

「それかお外で遊ぶ?」

 返事をするより先に言われる言葉は、本当に思いつきでしゃべっている様で聞いていて飽きる事がない。

 ゆっくり遊んであげたいけど、帰る時間のこともあるしそうのんびりはできないだろう。

 それがとても残念だった。



 家に着くと、ハンナさんは私達にお茶を入れてくれた。

 買ってきたお土産はテーブルの上にのせられ、ロンとエリーの手によってすでに半分がなくなっている。

「あれからどうしてるかなって、気になってたの。ジル君が一緒だったから、大丈夫だろうとは思ってたんだけど・・・。」

「あの時は、本当にお世話になりました。いろいろあって、今はお城の食堂で雇ってもらってます。」

「まあ、そうなの。よかったわね。」

 しばらく近況を報告しあって、お菓子がほとんど子供達のお腹の中に消えていった頃、マーサが私の腕を軽く突いた。

 何か言いたげなマーサの表情に、本来の目的を思い出す。

「その、えっと・・・あと、今日はハンナさんに相談したい事があって・・・。」

「私に?何かしら?」

 どう切り出そうかと迷う私の隣で、マーサがおもむろに立ち上がった。

「ハンナさん、この子達と遊んでいても構いませんか?」

「え?ええ、それは嬉しいけど・・・じゃあ、お願いしようかしら。エリー、ロン、マーサさんと遊んでてちょうだい。おねえちゃんはお母さんと少しお話があるから。グラッド、あなたはミリーをお願いね。」

「あ、ああ。分かった。じゃあ、また話が終わったら呼んでくれ。」

 エリーとロンは私の方を気にしながらも、さっそくマーサの手を掴んで引っ張っていった。

「おねえちゃん、お話終わったら遊んでね!」

「絶対だよ!」

 そう言いながらも、返事も待たずに部屋を出て行ってしまった。

「すまないね、久しぶりに君に会って二人とも浮かれてるんだ。」

「私も、エリーとロンに会えて嬉しいです。」

「そう言ってもらえると、ありがたい。ゆっくり話しててくれてかまわないから。」

 グラッドは床に座り込んでいたミリーを抱き上げて、部屋を後にした。



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