序章
かつてこの大陸は、無数の小国から成り立っていた。
種族として未だ幼い人類は己の縄張りを競って戦を繰り返し、多くの命が失われた。
何百年にも及ぶ戦乱に疲弊した人々は、竜族の長に願った。
竜族から我々の王となる者を与えて欲しいと。
万物の長である竜族は温厚で思慮深い。
全てを知り、全てを統べる存在。
人々の願いに、長は答えた。
異なる種族が王となるなど、自然の摂理にあるまじきこと。正しく種としての道を進みたければ、そのようなことを考えぬことだと。
それでも長に訴え続けたのは、まだ子もなさない若い娘だった。
戦争で家族を全て失った娘は、必死に長を説得した。
このままではいずれ人は最後の一人となるまで戦うだろう。愚かな人間の王達のせいで。
人間はあなた方に比べこんなにも幼いというのに、それに見合わぬ知恵と力を持ってしまった。
私たちには導きが必要なのだと。
頑なに拒む長に、娘は一歩も引かなかった。
やがて、長は娘に応えることに決めた。
それでは望み通り、我がお前たちの王となろう。
だが、やはり真の王となることはできない。
お前たちが望む間だけ、お前たちを導くとしよう。
その代償として、お前たちは私に人族の花嫁を与えよ。
これは盟約。
お前達が約束を違えぬ限り、盟約が破られることはない。
娘は長の花嫁となり、長は人々の王となった。
大陸の戦乱は収まり、約100年の間に1つの国に統一された。
やがて王は国を7つに分割し、王の直轄の国を宗主国としてそれぞれに人族の王をたてた。
エストア帝国の建国から700年。
竜王の庇護の元、人類は緩やかに繁栄していった。