↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大同 〜蒼華史記〜  作者: 大西詩乃


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
1/1

序章 天下を望まぬ者

かつて、蒼華の地には一つの天下があった。


晏衡(あんこう)王朝は広大な大陸を治め、法を定め、道を拓き、諸侯を従えた。王朝の権威の下に、人々は田畑を耕し、商人は街道を行き交い、管理は法によって民を治めた。


しかし、いかなる王朝にも終わりは訪れる。


晏衡の威光が衰えると、諸侯はそれぞれに兵を起こし、やがて天下は赫蘭(かくらん)、朔岑(さくしん)、滄汀(そうてい)、翠淵(すいえん)、烏砂(うさ)の五国に分かれた。

諸王は自らの正統を唱え、失われた秩序を取り戻すと誓った。ある者は法による統治を求め、ある物は豊かな国を築こうとし、またある者は祖先から受け継いだ土地と民を守ろうとした。


その志の全てが偽りであったわけではない。


王には王の責務があり、将には将の忠義があった。官吏は法を守ることで秩序を保とうとし、兵士は故郷に残した家族のために戦った。

だが、一国の安寧を守るために起こされた戦いは、別の国の田畑を踏みにじった。

国を富ませるために課された税は、民の暮らしを窮乏させることがあった。

秩序を守るための法は、ときに救われるべき者を追い詰め、平和を求める者の決断が、新たな争いを生むこともあった。

誰もが正しさを求めながら、その正しさが必ずしも他者の幸福にな結びつかなかったのである。


こうした乱世のさなか、赫蘭国南方の岑州(しんしゅう)に、一人の若者がいた。

名を、洛玲宇(らくれいう)という。

後世、大同(だいどう)王朝の初代皇帝としてその名を知られることになる男である。


しかし、当時の彼は天下の行く末を論じる軍略家でも、諸侯を従える王でもなかった。

父を失い、家を継ぎ、妻と共に家と周囲の人々の暮らしを守ろうとする、一人の若き貴族にすぎなかった。


彼が望んだのは、争いのない世であった。

人々が飢えることなく、明日の暮らしを恐れず、家族と共に生きられる世。

それは、乱世を生きる多くの者が抱いた、ごくありふれた願いでもあった。


だが、世を変えることは、一人の願いだけで成し遂げられるものではない。

彼の傍らには、それぞれに異なる信念を持つ者たちが集まった。

家と人々を守るために現実を見据える者。

戦いの理を知るがゆえに、戦いを避けようとする者。

才を認められぬ境遇にありながら、学びと努力によって国を支えようとする者。


そして、敵として立ちはだかる者たちにもまた、守るべき国があり、果たすべき忠義があった。


彼らの誰もが、自らの選択の先に、より良い明日があると信じていた。


されど、理想は現実の前に幾度となく試される。

人を救おうとするたびに、別の誰かが犠牲になる。

戦いに勝てば新たな敵を生み、国を治めれば新たな不満が生まれる。


そして、長き争乱の果てに天下が一つとなったとき、人々はようやく知ることになる。

国を統べることと、民を幸福にすることは、必ずしも同じではないのだと。


後に成立した大同王朝は、争いのない世を理想に掲げた。

しかし、大同の名の下に築かれた新たな秩序もまた、人々の異なる願いと、相容れぬ正義の上に成り立っていた。

天下の統一は、一つの時代の終わりであると同時に、新たな葛藤の始まりでもあったのである。


これは、一人の英雄が天下を得るまでの物語ではない。


これは、それぞれの理想を胸に生きた人々が、幾多の選択と葛藤を重ね、一つの時代を形作った物語である。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。