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先祖返りの吸血鬼は、気ままに研究がしたい  作者: 月輪林檎
先祖返りの真祖

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ミーシャによる吸血鬼講座

 初めての外出から一週間。レイアーによる魔術の授業とカノンによる基礎授業、キリルによる護身術の稽古を繰り返していると、セレーネの元に客がやって来た。まっすぐセレーネの元まで案内されてきたその人は、外出の際に会ったリーシアの眷属ミーシャだった。


「初めまして。リーシア様の眷属であるミーシャ・ノスフェラトゥと申します。本日、吸血鬼についての講義をするために参りました。お時間宜しいでしょうか?」

「うん」


 セレーネが頷くのと同時に、ミーシャは外套を脱ぐ。その間に黒板の用意をしていたカノンが、外套を受け取り、ポールハンガーに掛ける。


「ありがとうございます。では、早速吸血鬼について勉強していきましょう。基礎的な知識はあると聞いております」

「うん。本で読んだ」

「では、真祖とその眷属に絞りましょう。他の吸血鬼族の事を知っても、あまり意味がありませんから」

「うん!」


 元気よく返事をするセレーネに、ミーシャは自然と笑顔になる。そのまま講義が始まった。


「真祖もしくはその眷属になると、我々は太陽の光へ耐性を持ちます。この事から眷属を真祖とすると言う事がありますが、実際には我々眷属は真祖とは違います。決定的な違いは魔力量。真祖の魔力量はエルフをも超しますが、眷属はエルフよりも少なくなります」

「何で?」

「そもそもが純粋な吸血鬼ではないからでしょう。人族から吸血鬼族になると、吸血鬼族の特徴しか持ちません。ですが、別種族……彼女のような猫人族を眷属にすれば、猫人族の特徴を保持したまま吸血鬼族になります」

「半分半分?」

「そうですね。二種族の力を持つ存在は真祖の眷属くらいでしょう」


 別種族のハーフは、吸血鬼族と他種族でしかなり得ない。これ以外の例は一つもなかった。


「これに関しては、吸血鬼族の繁殖のためという説があります。少しでも吸血鬼族が生まれる確率を上げるために眷属の一部を吸血鬼族へと作り替えるという事ですね」

「普通の吸血鬼族じゃ、眷属は出来ないんだよね?」

「はい。眷属を作り出す事が出来るのは、真祖からです。そういう事もあり、吸血鬼族の個体数は少ないですね。新しく真祖が生まれる事自体、珍しいですから、セレーネ様は貴重な存在と言えます」

「眷属を解放することは?」

「眷属の解放……ですか?」


 ミーシャは、顎に手を当てて考え込む。この質問は予想外だったので、その知識が自分にあったか思い出しているのだ。


「私は聞いた事がありません。基本的に眷属になっても眷属をやめたいという者は少ないですから」

「そうなの?」

「はい。眷属になれば魔力が増えますし、通常の吸血鬼族が抱える欠点もありませんので、これまでの暮らしとほぼ変わりの無い暮らしが出来ますから。唯一の不評は永劫の命でしょうか。大切な者との別れは辛いものですから」

「それじゃあ、眷属をやめた人はいないの?」

「私の知人にはいません。主が亡くなり、共に亡くなった者はいます。眷属は主が亡くなれば、自身の命も終わる存在ですので」

「じゃあ、私が死んじゃったら……」

「はい。眷属も亡くなります。ですが、真祖はそう簡単に亡くなりはしませんので、まず心配要らないかと」

「ふ~ん……」


 セレーネは、自身の命が自分の一人だけのものではないという事を知る。自分が死ねば、眷属にしてしまったマリアも死ぬ。それを考えるだけで、恐怖を感じていた。


「これはマリアも承知しているので、セレーネ様がお気になさる必要はないと思います」

「えっ!? ミーシャちゃん、マリアに会ってるの!?」


 思いもしなかった繋がりに、セレーネは驚く。逆にミーシャは、この事を知らなかった事に驚いていた。


「リーシア様から聞いていませんか?」

「うん」

「あの御方は……」


 ミーシャは深々とため息をつく。永く生きた吸血鬼程ぼんやりと生きている種族はいない。リーシアも意地悪で何も言っていないのではなく、単純に忘れていただけだった。そして、また今度で良いだろうと思い忘れるのである。

 これに関しては、ミーシャも何度も指摘している事だったが、中々直らず困っている事の一つだった。


「セレーネ様が魔術を習い始めた際、マリアの元には私が向かい、眷属に関する知識を与えました。聡明な子ですので理解も早く助かりましたね」

「怒ってなかった……?」


 セレーネは恐る恐る訊く。マリアの件に関して意識し始めてから、初めて聞くマリアの事に緊張が隠せていない。


「怒ってはいませんでしたね。眷属としての自覚も既に持っているようでした」

「そう……なんだ……」


 マリアは怒っていない。その事が分かっただけでも、セレーネは安堵していた。だが、それはミーシャに対して見せなかったというだけで、自分が直接会ったら違うのではという気持ちが僅かにある。


「次の長期休みで、こちらに来るという話もしていました。その際に直接話すと良いでしょう」

「えっ!? 次の長期休みって!?」

「二ヶ月後くらいでしょうか」

「に、二ヶ月……」

「実際に来られるかは分かりませんが、良い機会ではないでしょうか?」

「うっ……うん……」


 ミーシャの言う通り、マリアの事を気にしていたセレーネにとって、良い機会ではある。セレーネも覚悟を決めないといけないと内心自分を鼓舞する。


「では、話を戻します。真祖と眷属に共通する特徴に再生能力があります。不老不死にして不死身の身体を持つが故の特徴ですね。ただし、大怪我になればなるほど大量の魔力を消費します。すぐに吸血衝動に襲われるでしょう。なるべく大怪我はしないようにするのが良いでしょう」

「そうなんだ……そういえば、私、全然怪我をしていない気がする」


 本当に怪我をしていないのか。怪我をしてすぐに治っているのかは分からない。だが、少なくとも吸血衝動が引き起こされる程の魔力を消費する大怪我はしていないというのは確かだった。


「でも、何で本には書いてないの?」


 そこまで重要な事が本に記載されていなかったという事に、セレーネは違和感を覚えていた。


「特におかしな話でもありません。私達吸血鬼族は数が少なく、人前に出ようという者はほぼいません。そこから亜人学の研究者が吸血鬼族に話を訊く事が出来ないのです。リーシア様も魔術薬の本は出していますが、そもそも自分達の生態を本にして出そうという風には考えていませんので、恐らくは他の吸血鬼族達も同じ考えが多いのでしょう。加えて、血縁であれば、何かあれば分かりますので、家族で教えれば良いという風にも考えてしまうのです」

「リーシアちゃんが私に封印をしてくれたのって、お母様が呼んだからじゃないの?」

「いえ、そもそも私達がいる事も知らなかったはずですから。リーシア様は、力の強い子孫が産まれた事に気付き、封印の準備を進めていました。リーシア様の感覚では、すぐに用意して来たというつもりでしたが、その時には二年も経っていましたね」

「えぇ~……」

「永く生きるという事はそういう事なのです。まぁ、かなり穏やかな気候の土地で過ごしていたから、季節感がなかったというのもありますが」


 セレーネは、自分とリーシア達との時間の感じ方が違うという事を改めて思い知った。そして、自分もそうなるかもしれないという事を。


「季節は大事ですね。時間の流れを嫌でも意識する事になりますから。セレーネ様も住む場所はよくお考えの上で決めるようにしてください」

「うん」


 真祖と眷属。その暮らしは、普通の人とは全く違う。どこでどう生きるのか。それが重要となる。


「さて、最後に吸血の練習をしておきましょうか」

「えっ……」


 これにはセレーネの表情も固まる。二歳のあの時から吸血はしていない。トラウマではないが、未だに苦手意識があった。自分が吸血などして良いのか。そう考えてしまうのだ。


「これから先、絶対に必要になる事です。吸血する部位は、腕でも脚でも構いません。ですが、病気の方や痩せている方からの吸血は控えてください。下手すると、死んでしまいます。健康な人から少量頂くだけで構いません。吸血衝動に襲われている状態ですと、少々飲み過ぎてしまいますが、健康な人であれば、死んでしまうという事は中々ありません」

「そこで魔力を込めたら、眷属にしちゃうんだよね?」

「はい。魔力さえ込めなければ、眷属にはなりませんので、そこはご安心を。では、早速やってみましょう。まずは血を飲む事を意識してみてください」

「血を飲む……」


 言われた通りセレーネが血を飲むという事を意識すると、自分の犬歯が伸びていく感覚がし始めた。口を開けて、自分で触ってみると、明らかに犬歯が伸びている事が分かった。ミーシャは、セレーネの顎を持ってしっかりと出来ているかを確認する。


「大丈夫そうですね。では、私の腕に噛み……」

「あっ! それなら私が!」


 これまで黙って講義を聞いていたカノンが手を上げてそう言う。これには、二人も驚いていた。まさか、自分から吸血されたいなどと言うとは思わなかったからだ。

 ミーシャは、ジッとカノンを見る。カノンもそれに対して視線で返す。


「良いでしょう」


 ミーシャはそう言って頷く。それに対して、カノンは喜ぶが、セレーネはまた驚いた。


「えっ!? ミ、ミーシャちゃん!?」

「せっかくですから。これから先、吸血衝動が起こった時に身近にいるのはカノンさんだけかもしれません。それを考えれば、先に吸血に慣れておくのも良いでしょう。カノンさん自身もやる気のようですので」

「はい!」


 ミーシャの言う通り、カノンはやる気満々だった。


(お嬢様が吸血衝動に襲われた時に、私が真っ先に手を出せば、他の人への被害は抑えられる。お嬢様には酷かもしれないけど、多分これが一番良いはず!)


 カノンの考えは、ミーシャの言う通りだった。見知らぬ誰かに被害を出してしまうよりも、自分で被害を請け負う方が、後々のトラブルが少ないとも考えている。


「うぅ……無理!」


 セレーネは、首を横に振って拒否する。カノンだから嫌という訳では無い。吸血という行為そのものが嫌だと感じているのだった。


「ふむ……そこまで気が向かないのでしたら、今日は止めておきましょう。ですが、すぐに向き合わなければならなくなるという事は覚えておいてください」

「うぅ……」

「また来ますね。今日はお疲れ様でした」


 ミーシャはそう言いつつ、セレーネの頭を慈しむように撫でる。そして、カノンが持ってきた外套を着て、そのまま屋敷を後にした。

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