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先祖返りの吸血鬼は、気ままに研究がしたい  作者: 月輪林檎
先祖返りの真祖

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魔術の実践

 カノンの基礎科目の授業に加えて、レイアーによる魔術の授業を、セレーネは文句も言わずに受けていた。それが必要な事だとカノンが言っていたという事が大きい。

 そして、ようやく魔術の実践の日がやって来た。この日を楽しみにしていたセレーネは、大興奮で庭に来ていた。そのままだと動き回る可能性があったため、後ろからカノンが肩に手を置くことで、その場に留めている。普段の授業だけだと、セレーネが大人びて見えていたレイアーだったが、年相応な姿を見せられて、思わず笑顔になっていた。


「それでは、早速魔術の実践を始めましょう」

「うん!」


 ウキウキ状態のセレーネは、目を輝かせながらレイアーを見ていた。


(本当に魔術にハマってくれたみたい)


 カノンに完全に押さえつけられているセレーネを見ながら本を取り出したレイアーは、今日扱う魔術について書いてあるページを開く。セレーネは、そのページを見ただけで内容のほとんどが頭の中に浮かんでいた。それくらいには読み込んでいる。


「本日は比較的安全な水魔術を扱っていきます。こちらの基礎魔術【水球】ですね。簡単な魔術陣ですが、詠唱に慣れるために詠唱を使いましょう。『凝縮し球となれ』」


 セレーネに実践させる前に、まずはレイアーが手本を見せる。レイアーの手のひらに簡素な魔術陣が浮かび上がり、球体の水が出て来る。水球は、そのまま手のひらの上で浮いていた。


「カノンも出来る?」

「これくらいでしたら、私でも出来ます」


 そう言って、カノンは無詠唱で【水球】を使ってみせる。綺麗な球体の【水球】がカノンの正面に現れた。それを見て、セレーネが奮起する。


「よし! 頑張る!」


 セレーネは、両手をお椀のようにして前に出し深呼吸する。そして、少し緊張しながら詠唱する。


「『凝縮し球となれ』」


 セレーネの詠唱により、手のひらの上に魔術陣が浮かび上がる。そして、若干歪な水の球が出て来た。【水球】の表面が少し揺れている。それを見たセレーネは、レイアーとカノンの【水球】と自分の【水球】を見比べる。


「あれ? 先生とカノンと違う……」

「いえ、初めてにしては良い方です。綺麗な球体にならないのは、【水球】を構成している魔力が乱れているからです。なので、その魔力をゆっくり整えてみましょう。魔力を操る練習は、これまでの授業でしっかりと出来ていました。それと同じ要領です」

「うん……」


 セレーネは言われた通りに、【水球】を構成する魔力を乱さないように意識する。粘土で綺麗な球体を作るようなイメージだ。歪な球から綺麗な真球へと整えるのに、五分も掛かった。だが、文句の付け所のないくらい綺麗な真球になっている。


「さすがは、吸血鬼族の真祖ですね。魔力の扱いが器用です」

「時間掛かったけど……」

「五分でこれだけ綺麗な球体を作り出せれば優秀な証です」

「そうですよ。私が出来るようになるまで、一ヶ月近く掛かりました」

「カノンさんのような魔力の少ない獣人族の方が、一ヶ月で出来たのなら凄い方です」


 まさか自分も褒められると思っていなかったカノンは、少し照れていた。


「ひとまずは、この【水球】を長時間維持する事と【水球】の数を増やす事を目標に進めていきましょう。【水球】であれば、消費魔力も少ないので、吸血衝動が起こる可能性も低いと思われますから」

「うん。カノンはいくつ出せるの?」

「全部で十ですね」


 カノンはそう言って、無詠唱で【水球】を発動し、十個の【水球】を浮かばせる。それを見たレイアーは、少し驚いていた。


「カノンさんは、魔術が得意なのですか?」

「いえ、お恥ずかしながら苦手です。こうした基礎魔術を扱える程度ですので。後は、形を変えられるくらいです」


 カノンは、【水球】の形を球体から金魚の形へと変える。それを見て、セレーネは目を輝かせていた。


「カノン、凄い!」

「これは……なるほど。カノンさんは、魔力操作に長けているのですね。さすがは、獣人族という事ですね」

「ん? どういう意味?」


 レイアーは納得していたが、セレーネは何も分からないので、カノンに訊いた。


「猫人族の身体能力が高いと言ったのを覚えていますか?」

「うん。追いかけっこをしていた時だよね」

「はい。ただ、正確には獣人族の身体能力が高いのです。それが魔力と関係しているのです。私達の身体は、常に魔力を消費して強化されている状態なのです」

「吸血鬼族の強化と同じ事を常にやっているって事? でも、そうすると魔力が枯渇するんじゃない?」


 セレーネは、『亜人の特徴──吸血鬼編──』に書いてあった事を思い出していた。力を制御出来なければ、常に魔力を消費した状態になる。それが、カノンの中でも起こっているという風に捉えていた。そして、それは実際に当たっていた。


「はい。普通でしたら、そうなります。ですが、獣人族は、保有する魔力が少なく消費魔力も多い代わりに、魔力の回復速度も早いのです」

「だから、凄い早さで消費していても枯渇しないって事?」

「そういう事です。この回復速度を利用して魔術師を目指そうとする獣人族も多いですが、他の種族よりも上手くはいかないようですね。結局総量が少ないというのが、難点になっているようです」

「そうなんだ」

「はい。魔力操作が得意というのも、身体強化の際に魔力を偏らせる事によって、強化の度合いを調整する事が出来るからなのです。獣人族が戦う時に、唯一まともに使えるものになりますね」


 獣人族は、種族の特性として常時身体強化をされている。だからこそ、セレーネとの追いかけっこでも、圧倒する事が出来た。そこに使われている魔力を身体の部位に集める事で、その部位を更に強化する事が出来る。その分魔力の消費は多くなるが、獣人によっては岩をも砕くことが出来ると言われている。


「私も出来るようになるんだよね?」

「そうですね。力を制御出来るようになれば、そうなりますね」

「じゃあ、頑張らないと」


 セレーネは、まず綺麗な球体の【水球】を維持出来るようになるために目の前の【水球】に意識を向けた。一度真球にしてしまえば、そのまま形を維持するだけで済む。だが、言うは易く行うは難し。集中していなければ、その形はすぐにブレてしまう。

 そうして一時間が過ぎたところで、一旦休憩が挟まる。


「【水球】を一時間維持し続けていましたが、魔力の方は大丈夫ですか?」

「ううん。大丈夫だと思う。特に何も感じないよ」

「さすがは、吸血鬼族ですね。魔力は豊富にあるようです。ですが、念のため、今日の実践は終わりにしましょう」

「えぇ~……うん。分かった」


 不服そうにしたセレーネだったが、すぐに頷いて了承した。魔力が減りすぎれば、吸血衝動が起こる可能性が高まる。封印で可能性は限りなく低くされているが、用心に越したことはない。

 実践の後は、座学にて知識の補充に入る。実践と同じくらいに、理論を詰め込むという事も重要なのだ。セレーネとしても、理論の重要性は今日の実践から感じており、前まで以上に真剣に取り込んでいた。

 それこそ、こっそり娘の様子を見に来たミレーユに気付かないくらいには集中していた。ミレーユは若干ショックを受けながら、侍従長のサマンサに連れられて執務室へと連れて行かれた。それに気付いていたカノンは、内心苦笑いをしていた。

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