ナタリアの考え
翌日。セレーネ達は、四人揃って魔力生成の方法を話し合い始めていた。
「昨日のフェリシア達の話から考えるに、主軸は魔力圧縮にあるって感じで良いよね?」
「そうね。圧縮された穴が大きく開くのか、圧縮された魔力だから噴き出してくるのかという点で考えた方が良いと思うわ。テレサ様の感覚は同じですか?」
「そうね。概ね同じと考えて良いと思うわ。魔力圧縮を基礎に置いて制御する形は、【空間倉庫】と同じ。【思考演算】で制御は可能よね?」
「うん。問題ないよ。問題は、それで向こうに繋げる方法」
「はい。一番の躓きポイントです。ここをどうにかしなければ、そもそも魔力の生成すら上手くいきません。生成した魔力を溜めるために魔力結晶を利用する形は良いと思います。単純に魔術結晶という形になる訳ですが、この結晶部分は大きくした方が良いかと」
「だね。一応、私達が作ろうとしているものの原型はある。目標はあれね」
「昨日拝見させて頂きましたが、あれは人間が作れる領域外に思えますが」
「作れたら最高でしょ?」
「はい。あれを見て、私が立てた仮説をご覧ください」
ナタリアはそう言って、黒板に一枚の模造紙を貼った。セレーネ達は顔を寄せ合ってその模造紙を読んでいった。
「これって……」
「セレーネは不可能と思われる事をやろうとする狂気だけれど、こっちは発想の狂気ね」
「倫理観を疑われるけれど、相手が魔物という点では受け入れやすいかもしれないわね。一番の問題は、これを世間に広める危険性かしら」
「テレサ様の仰る通りです。なので、私としては、今回の研究は発表せずにここに留めておく事を進言します」
「良いよ。私の研究って、大体そういうのが多いし、今更それが増えたところでね」
ナタリアの発想。それは本当に倫理観の問題がある発想だった。
今回の魔力生成に魔物の命を使う。魔物も魔力を持つ生き物。魔物の素材ではなく存在そのものを利用して魔力生成のための穴にするというものだった。
ユニコーンの骨にはちゃんと観察すれば魔力が出て来る穴が存在する。つまり、骨になりながらも穴が継続して存在するような状態になっているという事だ。
これがユニコーンが自身の命を使って、他の同族達が安心して暮らせる場所を作るためにやっていた事だとすれば、他の生物の命を利用すれば、穴を作れないという問題が解決するかもしれない。
ただし生き物の命を利用するという面で倫理観が問われる可能性がある。加えて言えば、魔物という指定をしているが、実際には魔力を持つ生物であれば何でも良いので人間を使って実験が行われる危険性があった。特に魔力が多いエルフや吸血鬼族などが対象となるかもしれない。
そういった危険性から、この研究の発表は見送られる事になる。セレーネの因子研究と同じだ。
因子研究を追及すればする程、自分達亜人の立場が危うくなるため封印する事になった。
だが、この魔力生成に関しては封印する程のものではない。何故なら完全に人間を対象としたものではないからだ。懸念は残るが、魔物が対象となる以上、人間を利用する必要はない。
そもそも魔物は人間などを見れば襲い掛かる危険生物だ。その素材を有効活用しているために数の調整などをしているが、本来なら駆除するべき対象だ。
その命を有効活用すると考えれば、ある程度受け入れやすい。
しかし、利用するのが命である事にかわりはないので、倫理観の面で多少問題があるかもしれないというのが共通認識だった。
「でも、どうやって捕獲するの?」
「【無期睡眠】が適しているかと。通常の魔物なら通用します」
「なるほどね。じゃあ、それで近くの魔物を捕まえて転移で持ってこようか。実際にやってみないと出来るかどうかも分からないし。ナタリア行くよ」
「はい」
【無期睡眠】はナタリアが開発した魔術。この中で一番使いこなせるのは、ナタリアだ。そのためナタリアと一緒に転移するのが一番良いとセレーネは判断した。
【空間転移】と【無期睡眠】を使って、近くに生息している牛型の魔物であるブラックカウを捕獲して研究室に持って来た。【無期睡眠】の効果で意識を失っているので、力無く倒れている。
「さてと、材料は基礎魔力水とスライムの粘液。良し。後は錬金術でブラックカウの身体と合わせて魔術結晶にする。いくよ」
「良いわよ」
セレーネの錬金術が失敗しても良いように、フェリシアとナタリアで結界を張る。テレサは不測の事態に備えて待機する。
ブラックカウの身体が浮き上がり、形が失われていく。そこに基礎魔力水が合わさり攪拌されていった。安定させる魔術陣を入れ、スライムの粘液が入り包み込んでいく。日頃から魔術結晶を作っているため、反応の良し悪しなど、それらは見ただけで分かるようになっている。
(成功する。問題は、それが魔力を生成するものになっているかどうか。安定化させる魔術陣はまだ試作段階だけど、お姉様と一緒に考えたもの。問題はないと思いたい)
セレーネは集中して錬金術を発動し続ける。そうして出来上がったものは、巨大な魔術結晶だった。内側から魔力が溢れてきており、魔術結晶全体に魔力が広がって溜め込んでいる。
魔力は安定しており、暴走してしまうような心配は今のところない。内部に常に魔力が生産されているため、段々と許容範囲を超えていき、耐えられなくなった結晶が割れる。
割れた瞬間に風が結晶を包み込み飛び散る事を防ぐ。テレサがセレーネを守るためにやってくれているのだ。
「ありがとう、お姉様。取り敢えず、結晶化は成功したし、魔力の生成も出来た。ナタリアの理論が正解みたい。魔力自体は安定させられても、魔力が増えれば増える程結晶の耐久が問題になるか……素材を吟味して魔力の許容量を増やす。後は、魔力を一定以上溜め込まないように排出する機能を付けつつ、魔力結晶を付属させて更に溜め込む量を増やそう」
「そうですね。少しずつ改善していきましょう」
魔力生成結晶は完成に近づいていた。




