少しずつ煮詰めていく
翌日。新たな人員フェリシアを追加して、セレーネの研究が続いていく。
「結局、私達もテレサ様と同じ感覚を味わった方が早いんじゃないかしら?」
「私無理」
「だから、私とナタリアさんでやってみる感じね。眷属には真祖ほどの吸血衝動がないから」
「若干喉が渇くって感じね。それに、魔力を枯渇までもっていくのに時間が掛かるけれど」
魔力の総量が通常の人間よりも遙かに多い眷属とエルフであるため、枯渇まで持っていくのに時間が掛かる。だが、これに関しては、フェリシアに考えがあった。
「私は【凍結結界】を燃費悪くすれば、すぐに消費出来ると思います」「なら、私もそれを真似すれば良さそうですね」
【凍結結界】は、維持するだけで常に魔力を消費する。その【凍結結界】の燃費を悪くすれば、魔力の消費速度はかなり早くなる。現在の形は、その燃費を良くした状態なので、燃費を悪くする方法はフェリシアもよく知っていた。
「私も行った方が良いかしら?」
「いえ、テレサ様こちらでセレーネ様と理論を煮詰めて下さい。こればかりは体感しなければ分からない事ですし、テレサ様から得られる情報はしっかりと覚えておりますので」
テレサから得られる情報は昨日のもので全部だ。自分自身の感覚で達しなければいけない以上、テレサが見ている必要はない。それよりもセレーネの思考の手助けをして貰いたいというのがナタリアの考えだった。
それを理解したテレサは頷く。
「分かったわ。ルリナ、マリアと一緒に護衛に行きなさい。こっちには、カノンがいるから安心しなさい。向こうで魔力が枯渇した状態になる方が危険だわ」
「かしこまりました」
魔力枯渇の危険性がある外での魔術行使の方が危険が大きいため、テレサはルリナを護衛に加わらせた。総合研究室の研究棟にいる限りは、カノン一人で護衛は十分だというテレサの判断だ。
実際には、ユリーナも護衛になるので、更に安全であり、セレーネとテレサも戦えるため、ルリナがいなくても問題がない。
四人が外での実験に出た後、セレーネとテレサは、昨日話し合った内容を更に話し合っていく。
「あっちの世界への干渉口が、胸のこの一点にしかないってところが重要だと思うの」
「そうね。この穴を再現するのが一番の道だけれど、それが難しいところね。魔術的に再現すると言っても、干渉する材料がないわ。分析と圧縮で似たようなものは出来るけれど、そこから世界への干渉が出来ない。これがなければ、魔力の生成に至れないわ」
「これが魔術的に再現が可能になったら、私達の魔力回復にも使えるよね?」
「どうかしらね。どちらかというと外部魔力と捉えた方が良いと思うわ。私達の中に取り込むという事が出来るのかどうかという問題があるもの」
「ああ、そっか……私は血を吸うっていう行為で、血の中の魔力を身体に取り入れてるだけだもんね。普通に魔力を吸収して良いなら、いつもの魔力吸収を自分に掛けるだけで良いし。でも、あれで得られる魔力は雀の涙程度。この生成法で魔力を増やしても、吸収出来る量に変わりはないから意味がない。結局は、お姉様が至ったこの境地が必要になるね」
魔力を無理矢理自分の吸収させるという事は出来る。だが、周囲の魔力が多くなったとしても吸収量は変わらない。下手に吸収する量を増やせば身体に悪影響が出る。
セレーネの吸血による魔力回復などは、吸血鬼の特性での吸収のため、吸収効率は良い。
「そうね。セレーネは、その前に吸血衝動を制御出来るようにならないといけないけれどね」
「う~ん……さすがに、それは無理かな。まぁ、これはさておき、これを再現するって事は世界に穴を作るって事で良いのかな?」
「そうね。私としては、そこが懸念要素ね。ここに穴を開けて本当に大丈夫なのかどうか」
「魔力が噴き出して、向こうの魔力が完全になくなるとかだよね?」
魔力を引き出す事。これが、引き出す向こう側の魔力を枯渇させる事に繋がるのではという懸念がある。
「そうね。ただし、私達がほぼ無限に取り出している魔力と世界に広がっている魔力も考えると、向こうの世界自体が魔力を生み出しているというようにも考えられるわ」
これまで何千年と魔力を使った生活をしていても、魔力が完全に枯渇したという状態はそうそう起きない。そこから向こうの魔力は常に生成され続けているというようにも考えられる。
だが、それでもある程度は気を付けた方が良い。
「そっか。魔力の枯渇の心配はないかもしれないね。そこら辺は色々と対策も取らないとだけど」
「そうね。それと一つ調べた事があるのだけど、これを見てちょうだい」
テレサは、セレーネに一枚の紙を渡す。その内容は、ユニコーンの骨に関してだった。ユニコーンの骨が濃密な魔力を纏う理由に関して、魔力結晶と同じく溜め込む性質があるとなっていたが、もう一つ生物の身体に共通してある魔力の生成点が存在するという事。これはテレサが勝手に分析して調べたものだった。
セレーネはその許可をテレサに出しているので、この行動自体に問題はない。
「これって、確実に同じなの?」
「二、三度確認したけれど、限りなく酷似していると言って良いわ」
「なるほど……そっか。それなら周囲の魔力が薄くなっていない理由とかに納得がいく。あれが私達が目指す到達点って事?」
「かもしれないくらいに思っておいて。でも、近くにそういうものがあると分かれば、少しは道を見つけられるかもしれないわ」
「だね」
テレサが調べてくれたおかげで、霧がかった道に少しだけ光明が見え始めた。現象を観察出来るとしても、まだそこを再現する方法が分からない。骨を今以上に調べるよりも、ナタリアとフェリシアがテレサと同じ境地に至る方が良いため、セレーネとテレサの煮詰めはまだ続く。




