ナタリアと一緒に改良
翌日。セレーネとナタリアは、ユリーナで分析した魔力の発生を詳細に調べつつ、更に正確に発生を観察するための魔術道具を設計する。
「やっぱり、ここから溢れてきてるよね?」
「はい。溢れ出てくるところは、この場所から一切動いていません。計十回の観測で、その座標は一度たりとも変わっていません。その事を考えれば、セレーネ様の仮説が正しいと言えますが」
「魂の観測には至ってないもんね。これだと魔力が発生する場所の特定だけだね。ここを正確に測定するなら、やっぱり見る世界を変えるしかない……世界を切り替える……魔力だけを映すもの……一応、今の魔力分析機も同じ理論だけど、こっちに存在する魔力を計測するものだもんね。魔力の発生に伴う何かを観測するためには、それじゃ駄目。これは機械でどうにか出来るものじゃないから、魔術陣の調整からかな。この分析を軸に考えよう」
セレーネは大きな紙に魔術陣をいくつも転写していく。多重魔術陣のそれぞれの層だ。
セレーネとナタリアは、その魔術陣を見て何を変えるべきかを話し合っていく。
「【思考演算】の部分は変えようがないから、このままで良いと思う」
「はい。より正確に分析が出来るようになればという事以外は、特に問題はないと思います。問題は計測するものの内容です。魔力を分析するものですが、ここに追加する形が一番分かり易いかと。問題は追加する内容です」
「見る世界を変える……世界の層をずらす……」
「やはり、魔力の世界があると言う仮説で進めますか?」
「それが一番私達が観測したいものに近づくと思う。層をずらす……私達に見えている世界は、こうした物質がある世界。いや、炎とかも見えるから、正確には一定以上の濃密なエネルギーも見えるのか……魔力は?」
「通常の魔力は見えませんが、かなり濃密な魔力である魔力は目視出来ます」
「あっ、魔力圧縮か……何か自然に出来るようになっちゃったし、完全に忘れてた」
魔力を圧縮する技術は、【空間倉庫】などで利用する。しかし、セレーネは自然と魔力を圧縮する事も出来るようになっているため、完全に忘れてしまっていた。実際圧縮した魔力は空間の歪みなどで観測出来る。
「確かに魔力圧縮なら魔力を視る事が出来るね。私達の身体にある魔力は肉体によって守られて見えない。ん? 生きたまま人間を解体したら観測出来る?」
かなり猟奇的な発想だが、これまでの話を総合するとそういう風に考えられてしまう。必要な思考だという事をナタリアも認識していたため、この疑問に真剣に答える。
「それはないかと。手術で身体の中を見る事もありますが、その報告はありません。それが身体が弱っているためという事も考えられますが、そういう理由ではなく身体を割っても、そんなものを見たという情報は一度も出回っていません」
一度でもそういったものが目撃されるのであれば、裏界隈などに広がるはず。しかし、そんな情報はどこにもなく、与太話などでも存在しないため、観測出来た人はいないと考えられた。
「つまり、魔力圧縮で圧縮した魔力以下の集まりでしかない?」
「あるいは、そうなった状態の時点で魔力の霧散が始まるのか」
「手術するにしても、麻酔で眠らせるもんね。そういえば、睡眠中の魔力の状態は起きてる時よりも大人しいかも」
「その計測結果もありましたね。つまり、意識がある状態かつ、死から遠い状態でなければ観測出来るかもしれません。ですが、身体に穴を開ける以上、死に近い状態は避けられないかと」
生きたまま身体を開かれて、心臓付近の確認をされるとしてもその時点で出血多量で死に近づき、痛みで意識を喪失する可能性がある。そうなれば、魔力の観測は出来ないと考えられる。
つまり、人間の体内で生成される魔力を目視で確認する事はかなり難しいと考えられた。
「そうなると、目視での観測は諦めた方が良さそうだね。人道に反する事になるし。取り敢えず、この物質世界での分析から、魔力世界の分析に移る感じかな。魔力にどんどん特化させよう」
「そうなれば、【思考分析】の分析部分にも手を加えましょう」
「だね。ただ分析するんじゃなくて、より詳しく深く分析するようにしないと。そうなると……余計な思考を取り除こう」
魔力の分析をより正確に深くしていくために分析のための思考を制限して、一点集中させる事になった。この部分はセレーネが適任のため、セレーネが担当する事になる。
「では、私は分析内容の方を弄りましょう」
分析内容をより正確に人間の中にある魔力の生成器官にするための変更に関してはナタリアが担当する事になった。
そうして十時間程の思考の末、新しい分析魔術陣の仮設計が終わった。それを使って魔力分析機を改良し試験を行う。すると、【投影結界】に映し出される映像が変わる。映し出された映像は全体的に魔力が広がっている事が分かる。その中で一部が濃くなっている部分があった。それは、セレーネ達の周囲とセレーネ達の心臓近くだ。
「私達が無意識に垂れ流してる魔力で周囲が濃くなってる感じだね。それと私達の魔力が生成されてる部分も。人とか他のものが分かりにくいけど、魔力が分かれば良いから、これで良いかな。よし! ユリーナを呼ぼう!」
「そうですね! 調整箇所を調べたいですからね!」
この声が聞こえていたユリーナは、内心苦笑しながら受付から腰を上げた。受付の仕事をしているだけのユリーナは、何故か魔力の総量がほんの少しずつ増える事になったのだった。




