学術都市の壁
メアリーゼとホノカがカルンスタイン領にやって来て、二週間が経過した。セレーネは、領が経営する様々な設備に顔認証の機構を取り付けていた。これで職員以外が中に入ってきた時に分かり易くなる。
その後、農業区、工業区の視察をして、それぞれが上手くいっている事を確認した。
農業区は、基本的に農家に任せる事になっているが、工業区はセレーネの魔術機械が主軸になっているので、そのメンテナンスなどもしていた。本来は、工場の管理を任せている作業員に任せることだが、セレーネ自身も確認して部品の摩耗具合などに想定とのズレがないのかを調べる必要があった。
それらの確認も終わり、中央区の開発具合の視察も行われる。道の整備や住居の建設など、大部分が終わり、領民の数も着実に増えていた。
そして、その他観光客などが来るのに必要な駅も着実に形になっていた。巨大な駅であるために、まだまだ完成まで時間が掛かるが、ジェニファーが指示を出して、効率良く進めているため魔王襲来による遅れは既に取り戻されており、予定よりも早く進んでいる。
また完成した地下道では、魔動列車の組み立てが始まっており、物資のやり取りが簡単になっていく事が予想される。搬入、搬出のために利用する馬型ゴーレムと馬車も既に複数用意されており、即座に運用が可能となっている。
ホノカによる王都の病院ではどうしていたかなどの情報共有もあり、病院の経営なども上手く進行している。
メアリーゼによる魔術師の訓練も順調だった。これまで騎士団とほぼ同じメニューをこなしていただけに、体力が無駄にあると分かったメアリーゼは、かなり厳しめの訓練を行っている。それでも魔術師達はしっかりと食らいついていった。ベネットの訓練の賜物である。
そんな二週間を経て、学術都市の壁が完成した。セレーネは、その内部の視察に来ている。建設予定地の下見が主なものだ。
「結構平らだね」
「整地はしておきました。後々に高台にした方が良い場所は土を盛る予定です。学生達に息抜きは必要になりますので、そういった広場を予定しています」
「なるほどね。研究してても息抜きになる気がするけど」
「それはお嬢様だからかと」
カノンの的確なツッコミに、マリアナも頷く。セレーネは研究などに寄って生じるストレスを別の研究で発散するという研究スパイラルを行う事がある。そのためセレーネからすれば、こんな広場を作らなくても問題ないのではと思ってしまう。
だが、世の中は、そんな人ばかりではない。それを考えて、こうした景色が良くなる場所や人が集まりやすい場所などを作ろうというのがマリアナの考えだった。
「ふ~ん……そういうもの? まぁ、私がクロと遊ぶ時とかと似てるか」
「はい。中央区に遊びにくるという事も出来なくはないですが、一々身分の証明などをしなくてはいけませんので、学術都市内で完結出来るようなものを用意しておこうかと」
「そっか。まぁ、そこら辺はマリアナに任せるよ。私は買い物とか本を読むとかしか思い付かないし」
「はい。お任せ下さい。では、予定通り建設予定のものを確認しましょう。まず中央に教員のための塔を建てます。学術都市のランドマークになるので、ある程度高くなります。この教員塔の近くに倉庫及び教員用の研究棟が建てられます。教員は塔の中にいるか、研究棟に割り振られた研究室にいる事が多くなるでしょう。講義などの時にはここから講義の教室まで移動します。そのため教員用に魔動車を用意しようかと考えています。学生には走って貰う形です」
「学生は、学年とか所属する学科によって、ある程度まとまった場所でやるけど、教員は色々と動き回らないといけないかもしれないしね。空間転移装置を設置する? レッドグラスに繋げたみたいに、一箇所同士の転移なら簡単だよ?」
「いえ、魔動車にしましょう。学生が悪用する可能性がありますから。教員の顔認証をするという方法もありますが、魔動車を使う事で教員が移動したという風に学生が認識しやすくなります。本当は教員がどこにいるのか一目で分かるものを用意出来れば良いのですが、教員のプライベートがなくなりますので。教員塔の中にある掲示板でその日の大まかな予定などを掛けるようにする予定です。これを徹底してくれれば良いですが、教員によっては何も書かないなどもあり得ますので、どこまで使えるかはその時にならないと分かりません」
「そっか。まぁ、それが一番良い形ではあるよね。学生の寮は?」
「基本的に学術都市の出入り口近くになります。学生に対する届け物などを受け取りやすい形にするためと研究室はなるべく奥に固めたいという考えのためです」
「うん。それじゃあ、予定通りって感じだね」
「はい。ユイ様が考えて下さった制度により、小等部で六年。中等部で三年。高等部で三年。専門学科のアカデミーで四年という形になります。基本的には縦列で校舎を用意する予定です。さすがにどんどん奥に行く事になると、大分大変ですから。土地の広さは、アカデミーが一番広くなる事になります。この辺りも予定通りです」
「うん。最悪の場合はもう一つ壁を用意して、アカデミー用に土地を増やすんだっけ?」
「実のところ、最悪というよりも、既にその方向で考えて建設の予定を立てています。というのも、戦闘魔術などの実験を行う際、ここと同じ土地では危険ではないかと考えたからです」
「そっか。確かに、それはちゃんとした方が良さそうだね。一部研究棟を新しい壁で囲ったところに移す。でも、ちゃんと隣接する形になるから、移動自体は外に出なくても出来るって事ね」
「はい」
「了解。じゃあ、その方向で行こう。出来れば、小等部側にも一つ加えて運動場を広くしたらどうかな? 放課後とかに運動出来る場所があるっていうのも良いでしょ?」
「なるほど。確かに、そうすれば校舎を少し大きく出来ますね。分かりました。その方向で進める事にしましょう。完成までの予定期間は、少し延びるかもしれませんが」
「そこは仕方なし。陛下達に資金を貰えたから、ここは大胆に行こう」
「はい」
視察をしながら、予定の変更などをしていき、学術都市が学生にとって良き場所であるように調整していく。そうして詰めていく事で、段々と形が見えてくるのであった。




