新しい開発と報告
それから一週間後。ようやく魔王とその群れの素材の整理が全て完了する。フィアンナが作った目録に目を通して、それらを確認し、これを使うような魔術道具を考えながら、錬金術で自分の血を使った魔術結晶を作っていた。しっかりとカノンに許可を取っており、スピカによって採血された血液を利用している。
「私の血液に含まれた魔力がしっかりと結晶化してるね。普通の魔力結晶よりも容量が大きくなるし、これはこれで使い道がある」
「自分の専用の外付け魔力でしたか?」
「うん。今回の事で大怪我した時に自分の再生力だけだと厳しいって事が分かったでしょ? ルリナから血を吸っていなかったら、吸血衝動が起きるくらいに失血してただろうし。私の血を使ってるから、血由来の魔力補給になると思うの。そうしたら、吸血したのと同じような効果が得られないかなって」
魔力容量は、そこらの魔力結晶よりも遙かに多い。そんなセレーネの血液魔術結晶は、セレーネの再生力を向上させる魔術が内包されている。厳密に言えば、吸血した時のセレーネの体内での反応を再現するというものである。
かなり特殊な魔術陣であり、系統で言えば治癒系統になる。これの基礎化を目指しているが、現状の魔術陣が一番基礎に近いという状態のため、これ以上進められず、セレーネも困っている代物だった。
「なるほど。成功するかは分かりませんが、お嬢様の安全に繋がるものですので、試してみる価値はありそうですね。他の問題で言えば、お嬢様の血を使うので大量生産が出来ないというところでしょうか。これは、私達眷属の血ではいけないのですか?」
「ううん。大丈夫だと思う。一応、成功するかどうかって事で、自分の血から試しただけだから。私の眷属で魔力をいっぱい持ってる皆のなら成功するんじゃないかな?」
「では、スピカに頼み、それぞれの血を取ることにしましょう。その方が多くの試作が可能です。人の血によって、効率が変わる可能性もありますので」
「う~ん……まぁ、確かに。それじゃあ、この魔術結晶の効果を試してみようかな」
セレーネは、血液魔術結晶を起動して効果を発揮させる。すると、セレーネの体内で吸血した時のような感覚が来るのと、身体が元気になっていくのを感じていく。だが、吸血の時に訪れる満たされる感覚だけはなかった。
「う~ん……普通に血を吸いたいって思うのは、私が吸血鬼として、しっかりし始めたからなのかな?」
「血を得る快感を味わったというのは大きいと思います。ただ一つ思うのは、このような形で吸血と同じ効果を得ようとする事自体が珍しい事なのではないでしょうか?」
「それもそっか」
カノンの説明に納得したセレーネは、次に血液魔術結晶をどんな形で身に着けるかを考える。
「まぁ、順当に考えてアクセサリーだよね。錬金術で作れるかな?」
「金属加工の範囲内ですから、可能であると考えられます。ですが、一つ提案するのであれば、ミカエラに任せるという事も良いかと」
「ミカエラに?」
「はい。鍛冶師ですが、こうしたアクセサリーを作るのも得意だったはずですので。お嬢様に合わせたアクセサリーを依頼するという形が良いかと」
「ふ~ん……良いかも」
セレーネがそう言うのと同時に、実験室の扉がノックされる。カノンがすぐに扉を開けると、問答無しに開けられたミカエラが困惑していた。その横にはゼノビアもいた。
「あれ? ミカエラとゼノビアだ。どうしたの?」
「あっ、えっと、魔王のドラゴンの素材を利用した短剣が出来ましたのでお見せしようと思いまして」
「こちらも素材を利用した服を」
「そうなの? 見せて見せて」
セレーネは興味津々でミカエラに近づいていく。まだまだセレーネに完全には慣れていないミカエラは、緊張しながらも机の上に短剣を置く。ゼノビアの方はニコニコとしながら、ピンク色のドレスを広げた。
「おぉ……え? ゼノビアのドレスは、ドラゴンの何を使ったの?」
「血と鱗です」
「血!?」
自分の血で魔術結晶を作ったセレーネだが、血を利用してドレスを作ったという事に驚いていた。
「生臭くない?」
「利用したのは、血に含まれる力ですので。さすがに染色には使っていません。鱗の方は魔術で糸にして織り込みました。見た目以上の強度があります」
「へぇ~、何かちょっとちっちゃいね」
「セレーネ様に合わせましたので。こちらはセレーネ様に納めしますね」
「そうなの? ありがとう。ドレスはあまり着ないと思うけど、機会があったら着るね」
セレーネがそう言うと、ゼノビアは意外だというような表情をして、カノンを見る。それに対して、カノンは頷いて肯定する。実際ドレスを着る予定は現状ない。
「カノン、仕舞っておいてね」
「はい」
カノンがドレスを回収している間に、セレーネは短剣の方を見る。鞘から抜いて、刀身を出す。刀身は鈍い鉄の色をしている。見た目からは、ドラゴンの素材を使ったという事は分からなかった。
「これは?」
「ドラゴンの鱗、牙、骨を頑張って削って鋼に混ぜました。見た目には現れませんが、その強度は通常の鋼とは比べものにならず、熱に対する耐性があります。これを鋳つぶしてインゴットにする事はかなり難しいと思われます。私も形にするまで、かなり苦労しました。シローナ様から、削るための器具を借りなければ、こうして作る事もままならなかったくらいです。切れ味もそう簡単に落ちませんので、良ければお使い下さい」
「ありがとう。その削る器具っていうのは作れるの?」
「はい。ドラゴンの素材を使えば作れるものです。作り方も伺っていますので、材料があれば作れる状態です」
「じゃあ、うちにある素材使って作って良いよ。そうじゃないと、ミカエラの仕事にも影響するでしょ? 後、失敗作はこっちで買い取るよ。頑丈さが売りなら、こっちで色々な実験に使えるかもしれないし」
「え、えっと……よろしいのですか?」
「うん。カノン、やって来てくれる」
「はい。分かりました。お嬢様。ついでに、先程の話をしては如何でしょうか?」
「さっきの? ああ、そうだった。これで私が身に着けるアクセサリー作ってくれない?」
セレーネは、血液魔術結晶をミカエラに渡す。
「綺麗な結晶ですね。いえ、魔術結晶というものですか。ここまで赤いのは初めて見ました」
「私の血で作ったものだからね」
「え?」
「これで私の再生力を補助して吸血衝動を起こさないようにするの。魔力切れで起こす事はほとんどないけど、失血で起こす可能性はあるからね」
「なるほど……加工はどの程度して良いのですか?」
「あまり形を変えないで欲しいかな。軽く研磨するくらいなら大丈夫だと思う」
「分かりました。アクセサリーの形に要望はありますか?」
「別に。イヤリングとか耳に付けるのはやめて欲しいかなくらい」
「承りました。では、失礼します」
「ドレスは何度か着て着心地などを確かめてください。要望があれば修正しますので」
「うん。ありがとう」
魔王の素材からの武具の生産。それ自体には成功していたが、まだまだ課題などは残っていた。




