セレーネが開発したもの
その後、リンド達はマリアナとカノンの案内で領全体の視察へと向かう。セレーネは、その間に諸々の資料確認とヒナタ達に見せるための魔術道具である医療用健康診断機の調整をしていた。まだ他の病院に導入はさせないが、一応人間用に調整した試作機があるので、それを見せる事にしていた。いずれは普及させるつもりでいるので、そのための布石だ。
そんな作業をしていると、実験室の扉がノックされる。今日の担当であるマリアが扉を開けると同時に声を出す。
「おえ? どうしたの?」
「ん?」
マリアがそんな声を出すのは珍しいので、セレーネも入口の方を見る。すると、子供ユニコーンが入ってきていた。
「あれ? ノックまで覚えたの? でも、悪戯は駄目だよ?」
セレーネの元に駆け寄ってくる子供ユニコーンを諫めながら、セレーネは首を撫でていく。その後ろからやって来るクロも撫でていると、子供ユニコーンが、セレーネが調整していた医療用健康診断機に興味を示した。この前まで自分の部屋にあったものなので、自分のためのものという認識があるからだった。
セレーネも子供ユニコーンが興味を示している事に気付いて、それが何故なのかも察していた。
「これはユニコーンじゃなくて、人のためのものだよ?」
セレーネがそう言うと、子供ユニコーンは首を傾げる。言葉を理解しているが、それが何故なのかという事などは、まだ上手く思考できない。
「ユニコーンに使ってたものを人間用に変えたの。色々と調整する部分があってね。身体の構造が違ったりするし、ユニコーンと違って人は色々な病気が分かってたりするから、そういうものに対応できるようにしたの。その分の情報を作るのに、時間が掛かっちゃってね」
「それって、この子も理解できるの?」
セレーネが懇切丁寧に説明しているのを、クロを撫でながら聞いていたマリアは、苦笑いしながらそう言った。セレーネ側の事情や人間の話など、単純な話というよりも、少し複雑な話になっているので、子供ユニコーンに理解できるのかという疑問があったからだ。
「まぁ、理解できてなくても、ちゃんと話し掛けてあげる事が重要でしょ? この子の事を無下にできないしね」
セレーネが子供ユニコーンを撫でていると、入口から領内の視察を終えたリンド達が帰って来た。
「セレーネ様。領内の視察を終えました。全て問題なしです。念のため、聖域の結界も確認しましたが、こちらから見た限りでは問題ありませんでした」
「そっか。ありがとう。カルンスタイン領は如何でしたか?」
セレーネはリンド達に確認する。ヒナタとヒルデブランドもカルンスタイン領の全体を見る事は初めてというのもあるが、それ以上にリンドはガンドルフの名代として来ている側面もあるので、その辺りでも確認しなくてはいけなかった。
「ああ。都市の開発を進めた後は、土地の開発も進めて良いかもしれないな。自然を維持しつつ、必要な素材を詐取しやすい環境を整えるという形だ」
「農業区での栽培とはまた違う方法って事ですよね?」
「ああ。自然に任せつつという形だな。この辺りは、チルチナが詳しいだろうな」
「えっと、魔物対策の大臣さんでしたっけ?」
「そうだ。どんな環境下でどんな魔物が生まれるのかなどを研究する魔物研究所のトップだな。ここの植生がどんな影響を与えているかの研究などが出来る。逆にその植生を崩した場合、どんな影響が出るのかを分析する事も出来るわけだ」
「つまり、特定の魔物が来やすい環境を整える事で、安定して素材を得られる可能性が出て来るという事ですか?」
「そういう事だな。しっかりと環境を整え、安定した狩りが出来るようになれば、冒険者が寄り付きやすくもなる」
「なるほど。素材を集めやすくなるっていうのはそういう点もあるんですね」
「まぁ、必ずやらなくてはいけない事でもない。学生の研究でやらせても良いくらいのものだ。気楽に考えてくれ」
「はい」
これは全ての領が取り組んでいる事ではない。完全に自然そのままにしている領の方が多いが、多少人の手を入れて、自然の方向性を自分達で決めるという方法で魔物や植物など操るという方法もある。
カルンスタイン領は、平原が広く存在する場所であるため、そういう事をするのも有りだとリンドは考えていた。
セレーネとしては、自分の実験で使用する可能性もあるので、やるにしても色々と考えてやらなくてはいけないと考えている。
「それで、その機械が健康診断機というやつか?」
リンドは、ヒナタが興味津々で外装を見ている魔術機械に話題を移した。
「はい。人の身体の状態を見るものです。人の病気は大体記録しましたので、その兆候や出ている症状を調べる事が出来ます。またその名前通りに健康かどうかに関しても調べる事が出来ます。寧ろ、こっちがメインの機能です。身長や体重なども分かります。ですが、これはあくまで参考程度のものですので、結局は医者の診断が必要になります」
「確かに、過信は良くないという事ですね。それは周知しておいた方が良いでしょう。ですが、これで分かりにくい病気の兆候なども分かりやすくなるかもしれません。一定以上の成果が出ましたら、こちらの領でも使わせて頂けると嬉しいです」
「あ、私の領にもお願い出来るかしら? 試運転や試験は多い方が良いでしょう?」
「はい。お願いします」
「その辺りで問題ないとなれば、王都にも出せるだろう。これはかなり有用なものだからな。その時はこちらでも後押ししよう」
「ありがとうございます」
セレーネがこれから出す魔術道具や魔術機械などの確認もしていき、会合の期間が過ぎていく。セレーネが開発したものなどを見ていったウィリアムも、改めてセレーネの特異さを理解していった。




