ウィリアム来訪
翌日。レッドブラッドに魔王討伐のために動いていたウィリアム・ブラックがやって来た。セレーネとしては、他にも部下を引き連れてくると考えていたが、途中で伝令と鉢合わせる事が出来た事もあり、部下は通常任務に戻していた。
到着の通達を聞いたセレーネが迎えに出ると、ウィリアムは即座に前に膝を付いて頭を下げた。唐突な事に、さすがのセレーネも驚き戸惑う。
「え、えっと……」
「この度は対魔王大臣として不甲斐ない結果となってしまった事、お詫び申し上げる。せめてもの償いとして、被害にあった箇所の復興作業の経費などは、こちらで受け持たさせて貰いたい」
対魔王大臣として、魔王討伐の手助けになれなかった事。ウィリアムは、これを自分の不甲斐なさとして考えていた。辺境とはいえ、しっかりと警戒のための人員を動かしておけば、少しはセレーネ達の負担を軽減出来たはずなのだ。
カルンスタイン領が新興の領地だからという点にも理由があるが、それは言い訳にしかならないというのがウィリアムの考えだ。
だが、これは結果論でしかない。
「お顔をお上げ下さい。カルンスタイン領に魔王が出るなんて事を予知出来た訳ではありませんし、仕方ありませんよ。幸いな事に街に被害は全くありませんので、そこまでお気になさらず。もしそれでも気が休まらないと仰るのであれば、領の開発支援をお願い出来たら、こちらとしても嬉しく思います」
「寛大な言葉に感謝する。厚意に甘えさせて貰い、支援金という形で贈らせて貰う」
「はい。ありがとうございます」
このタイミングで、リンド、ヒナタ、ヒルデブランドと共にマリアナもやって来た。ウィリアムに見えない位置で、マリアナは小さく親指を立てていた。ここで開発資金が増えるのは、かなり助かるからだ。
国からの支援金も潤沢に贈られるので、開発の速度をかなり上げる事が出来る。資金面での心配がなくなれば、躊躇も少なくなり大胆な開発も可能となる。今の話を聞いていれば、マリアナでも同じ提案をしただろう。セレーネがその提案をしたのもマリアナなら、このくらいは欲しがるなと考えたからだ。
そんなマリアナとセレーネのやり取りが見える位置にいる、リンド達は内心苦笑していた。
「ウィリアム。魔王の素材に関して、話がある。セレーネ。応接室を借りても良いか?」
「はい。ご自由にお使い下さい。ウノ、案内をお願い」
「かしこまりました」
セレーネは近くに居たメイドのウノに応接室までの案内を命じる。リンドも応接室の場所は覚えているが、この屋敷はセレーネのもの。こうした案内を付ける事は必要だった。
二人が屋敷に入った後、マリアナがセレーネの元に来る。
「セレーネ様。良い取引でした。学術都市の開発が大きく進む事になるでしょう。資金が増えるという事を見越して、今後の計画を練り直します」
「うん。お願いね」
開発計画の見直しをするために、マリアナは自分の執務室へと戻っていった。
「中々に抜け目がなかったわね」
「ですが、ウィリアムの気持ちを汲むことが出来る提案だったと思います」
「マリアナがやりそうな事を考えてやってみました。資金が潤えば、開発のための研究も出来ますので」
「それは大事ですね。特にセレーネさんの研究は、そういった面で有用ですから、資金援助は得やすいでしょう。私も総合研究室に資金を援助していますし」
「私もしているわね。土地開発だけじゃなくて、他の研究も有用だし、ナタリアの研究にも期待が持てるから。最近は研究員も増えているみたいだけれど、戦力にはならないみたいね」
ヒルデブランドが言っている戦力とは、研究に関する事ではなく、そのまま戦いに関しての戦力だった。
「研究分野で生きてきた人達なので、仕方ないのでは? 私達の方が特殊でしょうし」
セレーネ、ナタリア、フェリシア。総合研究室にて研究員をしており、戦闘魔術に特化した研究をしている訳では無い。他の面々も同じだ。
それでもセレーネ達は戦闘魔術にも理解が深い。これは自分の研究が戦闘に通じる事を知っているだけではなく、実戦経験を持っているからというのが大きかった。
他の研究員は、最低限の実戦経験しかなく戦闘の役に立つかと言われれば必ずしもそうとは限らないというのが現実だった。
「まぁ、普通はそうよね。テレサも総合研究室に入った事だし、この辺りにも変化が欲しいところね」
「そうなると魔術師団を作った方が良さそうですけど」
「まぁ、それもそうね。作るなら師団長とかも必要になるわよね?」
「そうですね。作るためには、魔術師の募集から始めないといけませんね。騎士団と同じ系統になるので、管理はベネットに任せても良いですが」
「それなら、良い人材を紹介するわよ。私の娘なのだけど。夫も研究者として優秀だから、学術都市の教師にしても良いわね。どうかしら?」
「えっと……そもそも娘さんとも話し合わなければいけないのでは?」
唐突に職場を変える事になるので、相手方にも了承が必要なのではとセレーネは考えていた。
「問題ないわ。こんな良い職場を逃す方が勿体ないもの」
ヒルデブランドは、真顔でそう言い切る。娘の職場として、ここまでよい場所はないというようにヒルデブランドは考えているからだ。
「えっと、マリアナとも相談して、魔術師団の結成が決定してからになりますが」
「善は急げね」
「あっ、ズルいです。自分の娘だけ。セレーネさん。うちの娘夫婦も如何ですか? 戦闘に特化している訳ではありませんが、医者をしていますので、病院などのお役に立つかと。夫の方も研究者として優秀ですので、教師として採用して頂ければ頷くと思います」
「えっと……何にしても色々と話し合ってからで」
ヒナタとヒルデブランドに両脇を抱えられたセレーネは、そのままマリアナの執務室へと連れて行かれ、そこで魔術師団の話などをしていった。




