ガンドルフへの報告
別邸に転移したセレーネは、一度ミレーユの居室に向かった。
「お母様」
「セレーネ! カルンスタイン領に魔王が出たと聞いて心配していたの。大丈夫なの?」
ミレーユは執務机から立って、すぐにセレーネを抱きしめた。
「うん。魔王は倒したよ。その報告に来たの。マリアナはこっちにいる?」
「いいえ、恐らく王城にいると思うわ。私もあの人から聞いただけだから分からないのだけど」
「そっか。じゃあ、このまま王城に行くね」
「ええ。無事で良かった」
ミレーユはセレーネの頭を優しく撫でてから送り出した。まっすぐ王城に向かって歩いているセレーネは、周囲から視線に気付く。
「何か見られてる?」
「はい。魔王が出現したという事は、王都でも広く知れ渡っているようです。いざという時にパニック状態に陥らないよう先に全体に通知していたものと考えられます」
「カルンスタイン領に出たって事を知ってるから、私がここで歩いているのに驚いてるって感じ?」
「はい。お嬢様の容姿などは、色々な理由で知られています。それに、髪色が完全には戻っていませんので」
カノンにそう言われて、セレーネは自分の髪を持ち上げる。金色の髪の中にところどころ先端付近が銀になっている箇所があるのが分かる。
「本当だ。体調は戻ってもこっちはまだ完全にとはいかないみたいだね」
「身体に穴が空くのは大怪我に含まれますので、失われた血の分はそうなってしまうでしょう。ですが、すでに補給などは済ませていますので、元に戻るのは時間の問題かと」
「まぁ、この辺りに関してはそこまで広まってないだろうし、私が吸血鬼の力を使ったくらいにしか思われないかな」
「そのようです。お嬢様が大怪我を負ったという情報は回っていません。そもそもこの話が出回るには、この情報がどこかからこちらに来ていないといけませんから」
「そっか。普通にあり得ないって事ね。取り敢えず、私が歩いてる事で皆が安心すると良いけど」
セレーネが平然と王都を歩いているという点から、魔王が討伐されたという事実が広まれば、王都の市民達安心する事が出来る。意図して徒歩で王城に向かっていた訳では無いが、結果的にそうした効果が得られていた。
そんな風に移動していれば、セレーネが王都に来たという情報が王城まで届くのも時間の問題だった。
普通に歩いて移動しているセレーネが王城に着いた頃には、王城の門の前に兵士達が整列して、一斉にセレーネに敬礼した。
そして、その兵士達の間を通って、ガンドルフがマリアナを連れて来た。
「セレーネ。ここに来たという事は、魔王は討伐したものと見てよいか?」
「はい。ドラゴン型の魔王は討伐し、既に魔物の群れも掃討しました。こちらはその報告書及び近くまで来ていたルージュ閣下より陛下への書状です」
「そうか。確かに受け取った。皆の者! 聞いていたな! 魔王は討ち取られた!! 知らせを回せ!!」
『うおおおおおおおおお!!』
兵士達が勝ち鬨のように声を上げ、すぐにそれらの情報を広めに向かう。
「中で話すとしよう」
そんな兵士達を見てから、ガンドルフはセレーネにそう告げ王城内に入っていく。セレーネもその後に続いて入っていく。その横にマリアナが並んだ。
「ご無事で何よりです」
「まぁ、無事ではなかったけど。ひとまずこっちに死者は出てないよ。負傷者はいるけど、スピカが全部治したから。素材のほとんどはこっち持ちで一部をルージュ公爵家に売る形。リンド様がそこからブラック公爵家とかに素材を提供するから、うちにある分は自由に使えるかな。魔王の素材は、私とナタリアで研究して魔王に関する情報を深めようと思う。もうナタリアには研究を頼んだから」
「はい。承知しました。その話はフィアンナには」
「フィアンナが主導でまとめてくれたから知ってるよ。詳しいところはフィアンナから聞いて」
「はい」
セレーネが説明するよりもまとめた本人から聞いた方が良いだろうという事で詳しい説明はフィアンナに任せた。その辺りはマリアナも承知しているのですぐに頷いた。
そうしていつもの応接室に入り、対面になるように座った。ガンドルフは先に報告書とリンドからの書状を確かめる。
「ふむ。なるほどな。初期段階で止められた事が早期決着の要因という訳か」
「かなり大きなドラゴンでした。他のドラゴンよりもとげとげしい印象もあります。でも、魔王らしさは、それと魔力の大きさくらいですね」
「それなら初期段階という事だろう。将軍型の魔王であれば、ありがちな事だが、それでも早く倒せたのは重畳だ。素材に関してはリンドの言う通りで構わない。討伐したのは、セレーネ達であり国としての支援は出来ていないからな。こちらからの褒賞は、勲章及び今後五年の支援としよう」
「具体的にはどの分野への支援となりますか?」
これにはマリアナが食いつく。
「土地開発及び建設費、資材費などの支援だ。具体的な金額は全体の三割が妥当だろう。魔王に関する研究成果を共有するならば、その研究費の二割を支援する。これは総合研究室に対する支援となる」
「なるほど。私は良い褒賞だと思います。既にある支援金も含めれば、かなり負担が楽になるでしょう」
「了解。それでお願いします」
「よし」
セレーネが褒賞の受諾をしたため、ガンドルフは手を鳴らす。すると、部屋の前に待機していたメイドが入って来て、ガンドルフから紙を受け取り下がる。
「勲章はここで渡そう。あまり目立つのは望まないだろう。ただし、パーティーなどの公の場には、しっかりと付けておけ。それだけで周囲から目も変わる」
「勲章を持ってるからですか?」
「逆だ。勲章を持ちながら、それを付けないという事は勲章を不服と思っていると捉えられかねない。それを防ぐためだ。勲章の辞退もそれに値する理由がなければ、良い目で見られない。魔王を討伐したという事は勲章に値するものだ。分かったな?」
「あ、はい」
ガンドルフは、面倒事を避けたがるセレーネが、勲章を辞退しないように逃げ道を封じた。それから数分でメイドが勲章を持って戻ってくる。
「魔王討伐の証である勇色勲章。国に損害を与えるドラゴンを討伐した証である龍色勲章。国の危機を救った者に与えれる救色勲章だ」
「謹んでお受け致します」
「これでセレーネも勇者だな」
「あっ……勲章を受け取った事って内緒に出来ますか?」
「魔王を討伐した時点で無理だな」
「はぁ……」
「そう悲観するな。これがあるからと言って、不利益があるわけでもない。既に結婚しているお前に今から縁談を申し込む者もいないからな。パーティーへの招待なども領開発が終わらない以上、受けている暇はないと断れる。そもそも辺境における防衛拠点の開発だ。国からの多額の支援があり、期待されているという事を相手も考慮せざるを得ない。それでも困る事があれば、俺に言えば良い。何せ、セレーネは義理の娘だからな」
「はい。よろしくお願いします」
ガンドルフへの報告も終え、魔王襲来の事後処理は素材の剥ぎ取りを残すのみとなった。
セレーネはラングリドへの顔出しなども済ませた後、マリアナも連れてレッドブラッドへと帰還する。




