領民達を迎えに
翌日。スピカの診察を受けて、しっかりと回復しているという結果を受けたセレーネは、すぐに外で作業をしているリンドの元に向かった。リンドの傍にはテレサがおり、セレーネの代わりに応対していた。
「リンド様」
「セレーネか。もう問題はないのか?」
「はい。スピカからもしっかりと回復しているというお墨付きを貰いました。この度は援軍を率いて下さりありがとうございます」
「隣領の問題であり、防衛大臣を担っている者として当然のことをしたまでだ。さすがに、ここまではウィリアムも間に合わないからな」
リンドは全体的な防衛を担っているが、魔王に特化した防衛に関してはブラック公爵家のウィリアムが担っている。
しかし、ウィリアムに一報が入り、部隊を動かしてくるまで時間が掛かってしまう。ルージュ公爵領に滞在していたブラック家の部隊も連れてきてはいるが、本人が来るまでは即座にとはいかない。それでも迅速な動きで既に動いているのはリンドも分かっていた。
「既に伝令も行っているとの事だが、一応、ウィリアムもこっちに来るだろう。今後の対策のためにウィリアムには魔王の素材を渡そうと思う。昨日のうちにフィアンナとは交渉を済ませた。こちらで買い取った分をウィリアムに提供する形だ」
「え? そんな、悪いですよ」
「いや、これにはある程度目論見がある。王都でウィリアム達にも研究させるが、こっちでセレーネとナタリアにもしっかりと調べて欲しい。研究に特化している二人なら、こちらで分からなかった事にも気付くかもしれない。そういう事だ」
「それならこっちで素材を多く所有しておいた方が良いって事よ。王都には昔の魔王の素材が冷凍保存されていたり、他の資料も多いから、この形が一番研究に繋がるとお考えなの」
テレサは、セレーネが納得しやすいように補足した。そういう話を聞けば、セレーネも頷くしかなくなる。断る材料が一つもないからだ。
「分かりました。ですが、素材を相場よりも安くお売りするのは、譲りませんから」
「そこはこちらが負けよう」
ここはリンドが折れて話が済む。
「ひとまず私はレッドグラスと王都に行ってきます。安全が確保されたのなら、領民を戻してあげたいので。お姉様、もう少しお願いして良い?」
「ええ。王都に行ったら、マリアナを連れて帰るだけではなくて、しっかりと陛下に報告してきなさい。そのための資料はフィアンナが作ってくれたわ」
「そうなんだ。後でお礼を言わないと。では、リンド様、しばらく失礼します」
「ああ。ついでに、これも陛下に渡してくれ」
セレーネはリンドからガンドルフ宛ての書状を預かる。
「分かりました。カノン、行くよ」
「はい」
セレーネはカノンを連れて、レッドグラスの屋敷へと転移する。屋敷の部屋に着地すると、そこには屋敷の管理をしているサマンサがいた。部屋の掃除をしているところだったのだ。
「サマンサ。久しぶり。うちの領民はどこ?」
「セレーネ様。よくぞ、ご無事で。人数が人数でしたので、街の広場に天幕を張り過ごして貰っています。現在はユイ様とミュゼル様が安心させるために声を掛けに回っています」
「何か問題とかあった?」
「いえ。事が事ですので、こちらの民も一丸となって迎えさせて頂きました」
「そっか。ありがとう。それじゃあ、皆を送るから、また今度ね」
「はい。お元気で」
サマンサと別れたセレーネ達は、すぐに街の広場に向かった。広場には多くの天幕が張られており、そこにカルンスタイン領の領民達が集まっているのがセレーネも分かった。
「セレーネ様だ」
「セレーネ様が来たぞ!」
「おお!」
「まさか、もう魔王を退治して下さったのか!?」
「さすがはセレーネ様!」
セレーネを見つけたカルンスタイン領とクリムソン領の領民達が口々に称賛の声を上げる。そんな声の中を突っ切って、ミュゼルがセレーネ飛びつき抱きしめる。
「セレーネちゃん! 怖かったよ!」
「ああ、ごめんね。眷属になって初めて死にかけたもんね。でも、身体に穴が空いたくらいで、全然吸血衝動にも襲われてないから安心して」
「それは安心出来る事なの?」
ユイは呆れながら、セレーネの頭を撫でる。話の内容から考えて、安心材料にはならないだろうとユイは思っていた。
「ね、カノン」
「安心出来る材料にはなりませんね」
「……まぁ、魔王は倒して安全も確保したから、皆を迎えに来たの」
「そうなのね。この短期間で魔王を倒したというのも驚きだけど。それじゃあ、私は屋敷にお礼を言いに行って来るわ。先に領民の皆を帰してあげて」
「あっ、わ、私も行く……」
「そう? じゃあ、皆を帰したらそっちに行くね」
セレーネは二人が屋敷の方に向かったのを見送ってから、領民達を集める。
「皆集まったね? それじゃあ、向こうに行ったらお姉様とかの指示に従ってね」
セレーネはそう言ってから、全員をレッドブラッドの近くの平原に転移させる。漏れがない事を確認してから、カノンを伴って屋敷へと戻る。
すると、お礼の挨拶を終えたユイとミュゼルがタイミング良く屋敷から出て来た。
「もう大丈夫?」
「ええ」
「う、うん……」
「それじゃあ、転移させるね。私は王都に行ってから戻るから。お姉様が向こうで私の代わりをしてくれてるから、補佐してあげて」
「もう仕事は終わったのね」
ユイは、テレサがカルンスタイン領に来たという事を歓迎していた。テレサがいた方が、セレーネが嬉しそうにするからだ。
さらに言えば、マリアナの他にセレーネの業務を代わりに行える人材が増えたとも考えられる。その分セレーネが楽を出来るのなら、歓迎しない訳がない。
「多分そうじゃない? そうじゃないと、こっちまで来ないだろうし。それじゃあ、また後でね」
「ええ」
「う、うん……また」
二人をレッドブラッドに転移させた後、セレーネはカノンを伴って王都の別邸に転移する。




