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先祖返りの吸血鬼は、気ままに研究がしたい  作者: 月輪林檎
領主

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396/423

一段落

 セレーネが運ばれてくる事を感じ取ったカノンは、即座に迎える準備を整える。それは、魔王を倒した事に対する祝いなどではなく、治療のために迎える準備だ。スピカの護衛をマリアに任せ、こちらに走ってくるセレーネ達の援護に向かう。

 カノンの全速力は、魔動車にも負けない程の速度を出し、テレサの戦闘地点とは別方向から来ている魔物に向かって突っ込み、その身体を粉砕した。


「中でスピカが準備しています!」

「分かりました! 急げるかな?」


 ルリナは乗せてくれているユニコーンに問いかける。ユニコーンの本領などを知らないルリナからすれば、ユニコーンにどれだけの余力があるか分からない。そのために確認をするように訊いていた。

 ユニコーンはその声に応えるように速度を上げる。カノンは遠目にセレーネが吸血衝動に襲われている訳では無く、しっかりと自分の意思を持ってルリナから血を補給してるのを見て、内心安堵していた。

 髪の毛の一部が銀色になり始めているところから、重傷である事には変わりないと分かるが、それでもセレーネがしっかりとしているというところは安心できるポイントだった。


(テレサ様が空から来る魔物を倒してくれているから、私は地上を走る魔物を減らしていこう。レッドブラッドは、騎士団が完全に防御を固めて中でも治療中のお嬢様を守ってくれるようにお願いした。その分の戦力にならないと)


 マリアだけがスピカの護衛ではない。スピカが治療中で無防備になり、セレーネも動けないとなれば、騎士団が死守しに動くのは当然だった。

 セレーネを守るのは至極当然として、スピカは自分達の命を支える重要な人材だからだ。

 そうして守りに割く人員の代わりにカノンが動き回る。セレーネを傷つけられた事で怒りを覚えているのは、何もテレサだけではない。セレーネを慕うカルンスタイン領の全員がこの侵攻に対する怒りで燃えていた。

 それぞれが最大限のパフォーマンスを発揮した事に加えて、既に魔王が沈黙している事やこの戦線にクロやユニコーン達も加わった事で援軍が来る前にこの侵攻は終わりを迎えた。

 この戦いで血を浴びながらも角で魔物を串刺しにして回ったユニコーンを見た騎士団の面々は、聖獣という存在の頼もしさと恐ろしさを感じた。ユニコーンは敵に回さないように守ろうという意志が改めて生まれる結果となった。


 セレーネに関しては、最後まで意識を失う事もなく、スピカの治療を受けながらマリアとルリナから血を貰い完全回復した。

 だからといって、すぐに動き回る許可をスピカが出す訳もなく、セレーネはベッドで横になっていた。そこにお風呂で血を洗い流したカノンとテレサがやって来る。フェリシアは、セレーネの代わりに、ナタリアと指示だしなどを行っている。


「セレーネ」

「お姉様。ありがとう」

「良いのよ。姉として当然のことをしたまでだわ。魔王相手によく頑張ったわね。偉いわ」


 テレサは、セレーネの頭を撫でながら褒める。今回の事に関しては、魔王が相手という事もあって叱りよりも褒めが優先される。領主として領と領民を守った事。更にここで魔王を倒す事によって、国も守ったというように繋がるからだ。


「魔王の侵攻を初期段階で抑えられたのは、本当に良いことよ」

「初期段階?」

「ええ。魔力の増大。それに伴う肥大化。そして、将軍型であれば侵攻を始め、王型であれば統治を始める。これが初期段階と呼ばれるようになったわ。ここから身体が人型に近づいてくると凶悪さが増してくるわ。これは知能が人間に近づいてくる事を表しているのよ」

「だから凶悪さが増すって事なんだ」


 魔物の獣としての本能だけでなく、人間のような知性を持ち合わせる事で、魔王は更なる脅威を獲得する事になる。

 まだ進化の初期段階であったため、その知性を有する前に仕留められたという事だ。一番倒すべき時に倒せたという事が何よりも重要なものだった。


「それでもドラゴンが魔王化したというだけで、とんでもない災害になりかねないものだったわ。また国から褒賞が贈られるわね」

「えぇ……面倒くさい事にならない?」

「貰わない方が面倒くさいわ」

「そっか。マリアナ達も戻さないといけないんだけど、まだ安静にってスピカに言われちゃってるんだよね」

「当たり前じゃない。群れは掃討出来たけれど、まだここが安全になったかも分からないのよ。二日くらいは避難させたままが良いわ」

「テレサ様の言う通りです。現在、フェリシア様とナタリアが主導して周辺調査及び街の被害状況を調べています。そちらで安全が確認されるまでは避難させた状態が良いかと」

「そっか。私も一日安静にしていれば良さそうだし、その時に迎えに行けるかな。あっ、リンド様とかと会合の約束があって、フィアンナに伝令に行って貰ったの。もしかしたら、援軍を送ってくれるかもしれないから」

「安心しなさい。既にルージュ公爵領と王都に伝令を送ったわ。行き違いになる可能性はあるけれど、こればかりは仕方ないわね」


 セレーネが大怪我を負ったというのは、紛れもない事実であるため、この辺りの行き違いは仕方ないという判断になった。本来はそうなるのが普通だからだ。


「そもそも魔王の解体にも、もっと人員が欲しいところだから、援軍は援軍で有り難いのよね。ネコババしてくるのが出て来るかもしれないけれど」

「あっ、そっか。ダンジョンのモンスターじゃないから死体が残るもんね。大分潰しちゃったけど、ちゃんと使える素材があると良いな。あっ! 内臓とかも保管するように言ってくれる? 特に脳と心臓。分析して魔王の特徴をしっかりと調べたいから」

「分かったわ。フェリシアを連れて行って、冷凍庫に保存しておくわ。フェリシアなら細胞を壊さずに冷凍できるでしょう。カノン、後は頼むわね」

「はい。かしこまりました」


 セレーネのお願いを叶えるために、テレサは部屋を出て行った。

 魔王が率いる魔物の群れの掃討は終わり、被害状況の確認やその他脅威の確認など事後作業を残すだけとなった。

 突如現れた魔王による災害は、大きな被害を出す事もなく終わった。大きな被害がないだけで、セレーネをはじめとして、怪我人は多い。スピカがユニコーン達と一緒に治療して回っているため、死者は一人も出ずに終わる事が出来ていた。

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