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先祖返りの吸血鬼は、気ままに研究がしたい  作者: 月輪林檎
領主

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決着

 時間は遡り、ユリーナから伝令を受けたナタリアは、前線の維持を騎士団の面々とユリーナに任せて、ベネットの元に飛ぶ。風魔術を自分で受けて吹っ飛ぶ形なので、自由自在とはいかないが、一気にベネットの元に行くには丁度良い移動方法だった。

 同時に空からいくつもの魔術を放って魔物の数を減らしていく。


「ベネット! 魔王は空! ドラゴンよ!」

「何!?」


 ベネットは飛び掛かってくるアッシュウルフの顔を裏拳で叩き潰しながら、ナタリアを振り返る。


「本当か!?」

「セレーネ様が鳥型ゴーレムで空を確認して発見したって」

「空は俺達にはどうしようも出来ないぞ。降りてくるまで待つしかないか」

「恐らく、セレーネ様が直接叩きに行くわ。現状で、空で満足に移動が出来るのは、セレーネ様くらいだもの。風魔術をぶつけて飛行する私には、ドラゴンの相手は荷が重いわ」


 ナタリアも、魔力量などから考えてセレーネが相手をするのが現実的だと考えていた。同時に、どうにかしてセレーネの邪魔にならないように援護する方法も考えていたが、その答えは出ない。


「俺達は地上の群れを殲滅する方針に転換か?」

「それが一番だと思う……いや……そうとも言ってられないかも」


 ナタリアはそう言って空を見る。そこからは、多くの鳥型の魔物の他にドラゴンが交ざっていた。


「群れの中に魔王以外のドラゴンもいるみたい。まぁ、ドラゴンの魔王なら、真っ先に群れに加えるのはドラゴンになるのも当然ね」

「こっちに降りてくるな」

「マリアさんが【雷霆世界】を使ったから、進路が変わったのとベネットが暴れたおかげで、こちらに脅威がいると認識させられたって感じね。私が数を減らす。ベネットはもっと暴れて脅威だという事を知らしめて」

「こっちに相手の戦力を誘導する訳だな。任せろ」


 ナタリアは、多種多様の魔術を空に向けて放ち、空の魔物達を次々に墜落させていく。その弾幕に敢えて隙を作る事で、魔物達に攻めるのは無理だという判断をしないように誘導していた。

 そして、地上で暴れ回るベネットが危険人物であるという事を認識させて、何が何でも倒さなければいけないという判断をさせる。

 多くの魔物を引き付けていると、空から世界を揺らすような咆哮が響き渡る。同時に雨を落としていた雨雲が飛び散っていった。


「何が……っ!」


 唐突な事に驚いていたナタリアだったが、ドラゴンの一部が勢いよく空に上がっていくのを見て、セレーネの危機を察した。そちらに集中して魔術を放ち、次々にドラゴンを落としていくが、一番速度が乗っていたドラゴンは、足などを落とすだけで仕留める事が出来なかった。


────────────────────


 セレーネの頭に痛いという情報が濁流の如く流れてくる。噛み付いているドラゴンは、ほとんど死にかけの状態だ。それが故に最後の力を振り絞り、確実にセレーネを殺そうとしていた。

 込み上げてくる血を垂れ流しにし、セレーネは手をドラゴンの鼻に当てる。

 そして、氷魔術【絶対零度ぜったいれいど】を発動する。これは触れた対象の体温を奪い尽くす魔術だ。体温はゼロを下回り、マイナスに突入する。分子の振動すら許されない温度にまで突入させる。

 この温度を奪う速度は魔術の使用者の技量による。セレーネの技量からすれば、この温度を奪う時間は二秒程となる。しかし、その速度で温度を奪えば、その分の熱を周囲に撒き散らす事になる。セレーネの身体を焼く程の熱が放出されるが、セレーネは気にしない。その程度の痛みは、既にどうでもよくなっていた。

 完全凍結させたドラゴンを砕き、セレーネは再び空中に放り出される。そこに魔王ドラゴンが大きく口を開いて突っ込んで来た。

 セレーネも魔王ドラゴンも互いに瀕死の状態。だが、それでも互いにここで死ぬ気は一切なかった。

 セレーネは魔王ドラゴンの移動速度が、かなりのものだと認識する。それを見て、セレーネに辿り着く直前に魔王ドラゴンが通れるような【空間接続】を広げる。魔王ドラゴンは急制動も掛けられず、【空間正続】を通り抜ける。直後地上から大きな質量が落ちたような音が響く。

 同時にセレーネは【空間転移】で、その音が響いた場所に移動する。


「痛……」


 身体に穴が空いた状態なので、セレーネもまともに立てない。だが、そこで背中を支えられる。


「セレーネ」

「お姉様……?」


 セレーネの背を支えたのは、テレサだった。幻覚でも夢でもない。真祖と眷属の繋がりが、セレーネにそれが本物であると告げている。


「大丈夫よ。ルリナ。セレーネをスピカの元に運びなさい」

「かしこまりました。セレーネ様。応急処置をしながらの移動になります。痛みが走るでしょうが、我慢を」

「うん。ありがとう。あっ、お姉様。まだあれ生きてる」

「ええ。でも」


 テレサはそこで言葉を切って、魔王ドラゴンを見る。セレーネも釣られてそちらを見ると、魔王ドラゴンの首を落ちた。切断面は綺麗に断ち切られたようになっており、セレーネの攻撃で落とされたわけではない事が分かる。


「もう終わったわ。セレーネが追い詰めてくれたおかげよ。今は、しっかりと休みなさい」

「はい」


 ルリナは、不慣れな魔術で痛みの緩和を最低限の止血を施しつつ、セレーネに自分の血を飲ませながら走ろうとする。

 だが、その前にユニコーンが駆けつけた。ルリナに対して乗れというように身体を屈める。ルリナは軽く混乱しそうになっていたが、ユニコーンがセレーネを心配そうに見るその目で、味方と判断し乗った。

 ユニコーンに乗って去っていくセレーネ達を尻目に、テレサは冷たい目を空に広がる魔物の群れに向ける。


「可愛い妹を可愛がってくれた分、しっかりとお返しさせてもらうわよ」


 その日。カルンスタイン領の空に、暴風が吹き荒れた。

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