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先祖返りの吸血鬼は、気ままに研究がしたい  作者: 月輪林檎
領主

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善戦

 自分の周囲の環境を地上と同じ状態にしているセレーネは、雲の上という高高度に来ても、問題は生じなかった。【並列演算】を常時発動し、環境を維持しながら足元を飛んでいる鳥型ゴーレムに着地する。


(良し。意外と維持出来る)


 鳥型ゴーレムに乗れる事を確認したセレーネは、真っ直ぐ魔王ドラゴンを見る。魔王ドラゴンは、突如現れたセレーネを訝しみ、警戒していた。

 だが、すぐに思考を攻撃に切り替える。赤熱した口から空を覆うような炎を噴き出す。セレーネは、鳥型ゴーレムごと【空間転移】で魔王ドラゴンの背後に移動した。

 そして、【空間圧縮】を起動して魔王ドラゴンを圧力で潰そうとする。しかし空間に歪みが生じる直前、異変に気付いた魔王ドラゴンは口を閉じてその場から前に向かって勢いよく飛ぶ。


「圧縮までの時間が長くて無理か……」


 魔王ドラゴンの身体を丸ごと覆うような【空間圧縮】では、圧縮速度よりも魔王ドラゴンの飛ぶ速度の方が速いという事が判明する。決まれば強い攻撃だが、この辺りにまだ隙があった。


「圧縮速度を早める……いや、私が贅沢過ぎたって考えよう。やるなら、小さくこまめに」


 セレーネの【空間圧縮】でセレーネを危険な相手と認めた魔王ドラゴンは、優先して倒すべき対象とも考えた。

 再び息吹でセレーネを焼き尽くそうとする。セレーネは再び【空間転移】で魔王ドラゴンの背後に移動する。

 それを読んでいた魔王ドラゴンは、尻尾を振る。セレーネは【空間接続】を使って、尻尾の軌道と魔王ドラゴンの顔近くの空間を接続する。

 尻尾は【空間接続】を通って、魔王ドラゴンの顔面を叩く。自分自身の攻撃により、魔王ドラゴンは軽く蹌踉めく。

 その瞬間を狙ってセレーネは魔王ドラゴンの首の内部に対して、【空間圧縮】を使う。【座標指定】によって場所を指定出来るので、内部でも大きな問題はない。ただし見えない座標であるため、首のどの箇所を指定するかは、細かく指定出来ない。

 それでも、大ダメージになる事には変わりない。即座に圧縮し、喉の一部を潰す。


『ガアアアアアアアアアア!!』


 魔王ドラゴンは絶叫と共に吐血する。そこにセレーネは【暗氷槍】を飛ばしていく。対して、魔王ドラゴンは即座に息吹で対抗する。少しは拮抗するところもあったが、相手の熱量に負けて【暗氷槍】が消える。


「無理か。でも、局所的な【空間圧縮】なら使える。行くよ」


 セレーネは、魔王ドラゴンの周囲に【空間接続】の魔術陣をいくつも出す。そこに【暗氷槍】をいくつも飛ばす。【空間接続】の魔術陣はある程度角度を付けているので、破壊されない限り、魔王ドラゴンの周囲を飛び交い続ける事になる。

 行動を制限するような【暗氷槍】の動きに、魔王ドラゴンは苛立ちを覚えながら腕を振るい【暗氷槍】を砕く。その瞬間、魔王ドラゴンの時間が凍結した。

 セレーネは【暗氷結】の中に【時間停止】を仕込んでいたのだ。動きの止まった魔王ドラゴンの体内にいくつもの【空間圧縮】を仕込む。【時間停止】により凍結している対象は、この状態で攻撃しても影響が出ない。そのためこの状態で【空間圧縮】で潰そうとしても、魔王ドラゴンは圧力が掛からなくなる。

 そのため即座に潰せる大きさの【空間圧縮】で魔王ドラゴンの身体を覆っていく。そして、【時間停止】の効果が切れるタイミングで、圧縮し身体のあちこちを消滅させていく。


『ガアアアアアアアアア!!』


 再び魔王ドラゴンの絶叫が響き渡る。骨や肉などを失った左腕、右脚が千切れて地上に落ちていく。それでも魔王ドラゴンは死んでおらず、その瞳に怒りを滲ませながらセレーネを睨んでいた。


(思ったより頑丈……身体の大きさ的に全身隈無く覆う事が出来なかったのが痛いかな……それに首を落とせなかった。大分削ったけど、直前で大部分を避けられた……【時間停止】を受けたから、不用意に【暗氷槍】を砕く事はない。次はどう攻める……)


 セレーネは、これでトドメを刺すために、首と心臓があるであろう箇所、そして脳を狙って【空間圧縮】を広げていた。しかし、ドラゴンの体内構造などを詳しく知っている訳では無いセレーネでは正確に潰す事は出来ていなかった。加えて、圧縮直前、時間が動き始めた直後に反射的に即死に至る部分への攻撃を避けられていた。

 ドラゴンとしての本能が一度食らった魔術を避けさせていた。だが、それでも大きなダメージを受けているという点は変わらない。即死に至らないだけで、千切れた箇所からの大量出血に加えて、いくつかの内臓が機能しなくなっている。死は近い。だが、それはセレーネにとっては遠い時間だった。


『ガアアアアアアア!!』


 魔王ドラゴンの咆哮が空に響き渡る。その咆哮により雨雲が吹き飛んでいく。それほどまでの圧を周囲に撒き散らしていた。

 その圧は、セレーネにも襲い掛かってくる。セレーネ自身は問題なかったが、足場にしていた鳥型ゴーレムが機能を停止した。


「うぇ!? 壊れた!?」


 足場を失ったセレーネ目掛けて、魔王ドラゴンは息吹を吐く。セレーネはこれまでと同じく背後に転移する。すると、魔王ドラゴンは、火を吹きながら身体を反転させた。

 セレーネは火に呑まれるが、重力に引っ張られている状態のため、下から抜け出した。


「あっつぅ……」


 軽く焦げながら抜け出したセレーネに向かって、魔王ドラゴンの爪が迫っていた。セレーネはギリギリで【空間転移】を使い、魔王ドラゴンの遙か上に避けた。

 そのセレーネの身体を背後から鋭い牙が貫く。


「うっ……ぐ……?」


 セレーネが背後を見ると、そこにはもう一体のドラゴンがいた。

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