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先祖返りの吸血鬼は、気ままに研究がしたい  作者: 月輪林檎
領主

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対抗するためには

 魔王の正体が分かり、ユリーナがナタリアの元に伝令に走り出した後、【空間探知】により空から直接こちらに向かって来る一団を感知する。


「魔物が空から来る! 全員迎撃準備!!」


 セレーネの指示に狼狽える事もなく、騎士団は迎撃のために空を見上げ、遠距離武器持ちと魔術使いが攻撃の準備をする。近接武器持ちは、その前に陣取り、魔物が急降下で攻撃してきても対応出来るようにしている。


「スピカ、結界。カノンは、スピカの護衛。フェリシアはここから攻撃。マリアは、先制で攻撃してこの雨なら空に雷が広がるはず」


 セレーネの指示で即座にそれぞれが行動する。

 マリアは空を見上げて手を掲げる。マリアは深呼吸をしてから魔術を発動する。

 【雷霆世界らいていせかい】。フェリシアの研究を参考にして、空間魔術の【座標指定】と雷魔術を組み合わせた魔術であり、【座標指定】で指定した空間を雷撃で満たすというものだ。当初は結界で場所を区切る事にしていたが、結界よりも空間魔術の方が合っていると考えて現在の形になった。

 雨雲の中に広がった【雷霆世界】は、その内部にいた鳥型の魔物達を感電死させていく。かなりの広範囲に魔術を展開しているが、眷属となり定期的に血を吸って魔力を増やしているマリアからすれば、全く問題ない。

 そんな【雷霆世界】を避けて降下した鳥型の魔物を次々に魔術が襲う。その中には、【凍結結界】を発動し、氷魔術の発動時間を短縮したフェリシアの【氷弾】による弾幕も含まれていた。

 スピカは、地上まで来た魔物に対する防御のためにいつでも結界を晴れるように準備していた。スピカは、この防衛の要になるためカノンが護衛に付き倒れないようにする。

 セレーネもその傍にいるので、カノンとしても安心して護衛が出来るというものだった。

 その中でセレーネは、新しい鳥型ゴーレムを【空間倉庫】から出して空に飛ばした。今度は雨雲の中ではなく、更に上に向かって飛ばす。


「これで雨雲の中にいる魔王を見られると良いんだけど……あっ……」


 雨雲の上に出た鳥型ゴーレムを追って魔王だと思われるドラゴンが現れる。その姿はかなり大きく、鱗は真っ赤だった。鋭い爪に牙を持ち、黄色い瞳からは、鋭い眼光が見られる。

 口の中が赤熱し、そこから空を覆うような炎が吐かれる。鳥型ゴーレムは、最大速度を出して炎の範囲内から逃れた。


「あっぶな……ドラゴンって、何か弱点あるの?」

「鱗は剣をも弾く硬度となっています。そんな硬度のもので覆われているため、魔術も効きにくいはずです。鱗の色は、そのドラゴンが持つ特色を表します。赤は火。あの鱗は特に火に対しての耐性を持ちます。戦うのであれば、火以外の魔術を用いる方がマシでしょう」

「そうなんだ。あの大きさがこっちに来るとマズいかも……スピカの結界で、どのくらい防げる?」

「ドラゴンの攻撃に関して言えば、一分でも持たせられれば良い方だと思います」

「それなら空での決着が望ましいか……でも、ここに空を飛べる人って居ないよね?」

「残念ながら」


 そうして状況を確認していったセレーネは一つの決断を下す。


「それじゃあ、私が戦ってくる」

「お嬢様」

「【空間転移】に【空間接続】がある私なら、空でもある程度マシに戦えるよ。他にもある程度方法はあるし。この中だったら、適任は私でしょ? 今、領主がどうたらこうたらって言ってる場合じゃない。

 私がいないと戦えない程軟弱な騎士はいないし、これが最適だよ。【風地】があっても、カノンがあそこで戦うのは現実的じゃないし。これが一番だって、分かってくれるよね?」


 セレーネの考えは、カノンでも納得してしまう程のものだった。確かに、これが最適解となる。自由自在に空間を繋いで移動するセレーネであれば、あの巨体から繰り出される攻撃を避ける事も容易だ。

 それなら自分も連れて行って欲しいとはカノンも言わない。セレーネが【空間転移】などで動く以上、誰か一人でも満足に避ける事が出来ない味方がいれば足手纏いにしかならないのは目に見えていたからだ。


「分かりました」


 セレーネが考えを改める事はないと察し、カノンは了承した。


「セレーネ様。空で戦うのであれば、この三つの魔術を常時起動してください」


 カノンは、セレーネの前に三つの魔術陣を出す。【適温維持】【適圧維持】【酸素濃度維持】の三つの魔術である。【適圧維持】と【酸素濃度維持】は高所作業をするために最近開発された魔術である。

 【適温維持】の論文から、着想を得て開発されたものであり、ごく最近論文が発表された。それをセレーネも一度読んでいたため、その内容は即座に理解した。


「空の上だからだよね? これだけで大丈夫かな?」

「正直、大丈夫ではないと思います。ですが、そこは真祖の再生力を信じます」


 星から離れれば離れる程、人が暮らすような環境ではなくなる。そのため、スピカとしても、この三つだけで雲の上に出ても大丈夫かと訊かれると分からないとしか言いようがない。それも良い方向に考えての話なので、基本的には何かしらの問題があるだろうと言えた。

 だが、今回空の上に行くのは、普通の人ではない。不老不死不死身である吸血鬼族の真祖だ。その再生力によって、起こるかもしれない問題を乗り越えられるかもしれないという希望的考えにスピカは縋る。


「そっか。まぁ、大丈夫でしょ。皆の真祖だってところを見せてあげる」


 セレーネは、胸を張りながらそう言い、スピカに言われた魔術を三つ組み合わせて一つの魔術にし発動した。三つそれぞれを発動するよりも魔力の消費を抑えられるためだ。

 その場で新しい魔術に昇華したのを見て、スピカは苦笑いしてしまう。


「それじゃあ、行ってきます」

「はい。ご無事のお帰りをお祈りしています」

「どうか、ご無事で」


 セレーネは二人に微笑んでから、鳥型ゴーレムがいる場所まで【空間転移】で飛んだ。

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