本当の脅威
馬から降りたベネットは、襲い掛かってくるブラックベアに盾を叩き付けて頭を潰した。そして、左から襲い掛かってくるゴブリンの首を斬り落とし、右から襲い掛かってくるアッシュウルフに蹴りを当てて勢いよく吹っ飛ばし、その奥にいる他の魔物達を巻き込んだ。
(統率が取れているというのは、本当だな)
ベネットの視線の先には、アッシュウルフに乗って機動力を確保したゴブリンの姿があった。そのアッシュウルフに向かって、先程斬り落としたゴブリンの首を蹴り飛ばして、頭部に命中させる事で昏倒させ、乗っていたゴブリンを地面に転がす。
唐突にアッシュウルフから落とされたゴブリンは、ちょうどそこに向かって突っ込んでいたブラックボアに轢き殺された。咄嗟のブレーキも突然前に飛び出されては間に合わなかった。
若干勢いが削がれたブラックボアが、そのままベネットに突っ込んで来る。ベネットはブラックボアの左側に避けて、首に剣を突き刺し、下に向かって振り抜いた。
動脈と同時に頸椎にも傷が付けられ、ブラックボアは地面を削りながら転がっていく。そのブラックボアの転がりに巻き込まれて、多くの魔物が吹っ飛ぶ。
ベネットは、それを一切見ずに正面から突進を仕掛けてくるホーンカウの頭に盾を叩き付ける。ベネットの腕に衝撃が走るが、身体強化により身体を強化していたベネットにとっては、大した衝撃にならない。
逆にベネットの膂力が乗ったシールドバッシュにより、自身の力の反動も乗った衝撃がホーンカウの頭蓋を割る。
そうして横に倒れたホーンカウの身体を踏み台にして跳び上がったベネットは、空から襲いに来ていたブラッククロウの集団を一気に斬り裂く。
そして、着地の瞬間を狙ってくるゴブリンを踏みつけて、頭を叩き潰し、横から飛び掛かってくるアッシュウルフの首に盾を叩き付けて折る。
(だが、魔王の姿がない。ここまで見た魔物は既に存在する魔物ばかりだ。魔王に進化したという事は、ある程度姿が変わるはず。ここまで見つかっている魔王は全て、この法則に則っていたはずだ。ここに来てその法則から外れる魔王が生まれたか? 嬢ちゃんのゴーレムによる偵察からも逃れるって事は、そこまで巨大ではないだろうが……)
ベネットは魔物を倒しながら、周辺を見回す。しかし、そのどれもが既にベネットも見た事があるような魔物ばかりだった。
(どこにもいないな。もっと奥か……)
ベネットは、防衛のために背後に展開している部隊を見る。豪雨により視界が遮られて見えなくなっているが、魔術が飛んでいるのが分かるため、まだ前線を保っているという事が分かった。
(あの浄化が効いているな。これならナタリアがいれば問題ない。一気に進むか)
ユニコーンの骨による浄化により、魔王に率いられている魔物達は弱体化している。いかに統率がとれて数の暴力がであろうとも、そこに魔術に特化したナタリアがいれば、前線の維持は余裕で出来る。
更にベネット自身は、まだ物足りないと考えているが、カルンスタイン領でベネットに鍛えられた騎士達は、王都にいた頃よりも遙かに強くなっていた。
これらの事から、ベネットは一気に奥まで突っ込んでいき、本格的に魔王を捜しに向かう事にした。
「うおおおおおおおおおおおおお!!!」
雄叫びを上げながら盾を構え、ベネットは駆け出す。まるで、猛スピードを出している魔動車のように、正面にいる魔物達を轢き殺していく。
ブラックボアが対抗してきたが、ベネットはそれすらを押し返して突き進み続けた。
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そんなベネットの様子をセレーネ達は鳥型ゴーレムから送られてくる映像で見ていた。
「まるで魔動車だね」
「寧ろ魔動車すら止めそうよね。それより、この奥に魔王はいるのかしら?」
「ちょっと待ってね」
セレーネは鳥型ゴーレムに指示を出し、更に奥へと進ませる。そこから得られる映像には、多くの魔物が映っているが、姿が大きく変わっているような魔物は見当たらない。
「いないっぽい?」
「何か怖いわよね。見落としが……あっ、セレーネ、空はどうかしら?」
「空? そう言えば、ブラッククロウがベネットを襲ってたね。でも、それなら鳥型ゴーレムも襲われてそうだけど」
「もっと上空なのかもしれないわ。それこそ、セレーネの【空間探知】の外側にあるくらい。セレーネの【空間探知】は地上に沿って広げているでしょう?」
「そっか。一定の高さに以上には行かないようになってるから……でも、そんな上空に魔物がいるのかな?」
「分からないわ。でも、あり得ない話ではないでしょう?」
「だね」
セレーネは、鳥型ゴーレムを空に上げていきつつ、【空間探知】の設定を調整して空に特化させる。地形把握の必要がない分、空であればかなり遠くまで広げても処理に負荷が掛かりすぎない。
鳥型ゴーレムが雨雲に入り、上昇を続ける。すると、その中で大きな影が映し出された。直後、鳥型ゴーレムは大きな炎に呑まれて破壊される。
「…………」
「…………」
セレーネとフェリシアは、その姿に心当たりはなかった。だが、それがかなり大きな存在である事は認識出来た。
「カノン!」
セレーネは、周辺警戒をしているカノンを呼びつける。カノンが駆けつけてくる間に、先程映し出されていた映像を再生できるようにしていた。
「如何されましたか?」
「これ見て」
セレーネが再生した映像を見たカノンは、目を大きく開く。
「これは……ドラゴンと思われます。映像からでは、正確な大きさは分かりませんが、下手すれば通常のドラゴンよりも大きな個体になるかと」
「つまり、今回の魔王は……」
「ドラゴンである可能性があります。これは雲の中ですね。ユリーナを伝令として走らせます」
「お願い」
ユリーナをナタリア達への伝令として遣わせる。本当の脅威は地上ではなく空に存在した。しかも、視界が悪い雨雲の中に。




