骨による変化
屋敷に着いてセレーネが魔動車から降りると、珍しく慌てた様子のマリアナが駆け寄ってきた。
「セレーネ様。その……例の骨なのですが」
「問題?」
「問題というより……子供を看病していた部屋で勝手組み上がってしまい……」
「まぁ、予想通りではあるかな。部屋の様子は?」
「フェリシア様とナタリアが作った環境を聖域に近づける魔術が大きく変化しました」
「確認しよう」
魔術の変化と聞いて、セレーネの目つきが変わった。真剣な目付きから好奇心を強く刺激された子供の目つきだ。
マリアナとカノンを連れたセレーネは、ユニコーンを看病していた部屋に入る。
そこでは、ナタリアが魔術陣の分析を行っていた。
「どう?」
ナタリアは、セレーネの一言だけで何を聞きたいのか即座に察する。
「あまり見た事がない魔術陣です。教会で使われる魔術が変化して、独自のものとなっています」
「本当だ。中心にあるのは……維持系統かな? 環境の維持が主な魔術?」
「私も同意見です。具体的な環境の指定はこの部分清浄を司ると思わしき箇所で行われているのかと」
「確かに……複雑に絡み合っているけど、周辺の異物を排除……いや違う。これだと空気を綺麗にするだけだ。一定範囲内……ううん。範囲制限もない。距離減衰で勝手に範囲が決まるタイプだ。
それにしても汚い魔術陣。これ専用のものを変化させたわけじゃないから仕方ないけど。ある程度整えれば、またちゃんとした形も見えてくると思うけど。任せて貰っても良い?」
「はい。この手の分析はセレーネ様が適任ですので」
魔術陣の分析に関しては、セレーネ程優秀な人材はそうそういない。この魔術陣が安全なものであるのか。家の中にあっても良いものなのかは早急に調べなくてはいけないため、セレーネに任せるのが一番安定して早く調べられると考えられた。
「ナタリアは、あの子達の住む環境を整えてくれる? 今はフェリシアとスピカがやってくれてるんでしょ?」
「はい。危険が生じましたら、即座にここを離れるようにお願いします」
「了解」
ナタリアにユニコーン達が暮らす場所の環境を整えて貰い、自分は変化した魔術陣の分析に入る。【高速演算】と【並列演算】を駆使して、複数のアプローチで魔術陣の分析、最適化を図る。
「これは……無理矢理一つにまとめた魔術陣だ……うん。不安定ではないけど、効率が悪い。必要な部分をしっかりと考えて……」
魔術陣のどの部分にどのような内容が組み込まれているのかを分析し、それを壊さず効率を上げる方法を考えていく。セレーネの知らない箇所が複数あるため、その箇所と周辺を抜き出し、単体の魔術として成立する形を探す。
こうして新しい魔術を見つけつつ、最適化に相応しい形を見つけていく。
「大分複雑だなぁ。多重化させたいけど、ここに刻印する形にする以上は、一つにまとめないと機能しなくなるしなぁ。はぁ……」
綺麗に整えるという事で、多重化したくなってしまうセレーネだが、多重化した魔術陣を平面に刻むのは厳しい。なので、一枚の魔術陣として完成させる必要があった。
セレーネが集中して作業をしていると、カノンが肩を叩く。ちょうど【高速演算】に組み込まれた時間魔術のインターバルの区間を見極めて叩いているので、セレーネもすぐにカノンの方を振り向く。
「ん?」
「あちらにお客様です」
「ん?」
カノンが手を差し向ける方向をセレーネが見ると、母親ユニコーンと子供ユニコーンが部屋を覗きこんでいた。セレーネはカノンが用意した紙にある程度最適化をした魔術陣を転写する。
その紙をカノンが回収している間に、セレーネはユニコーンの元に向かう。
「ここまで来ちゃったの?」
子供ユニコーンが甘えてくるため、セレーネは子供ユニコーンを撫でる。母親ユニコーンは部屋の中に入って骨の周りを歩いてから、セレーネの元に戻ってくる。ユニコーンの行動をセレーネは骨の確認だと考えた。
「問題なし?」
セレーネがそう訊くと、母親ユニコーンは頷く。そして、そのまま外へと向かって行く。子供ユニコーンもその後に付いて行くが、セレーネが一緒に来ていない事に気付いて母親ユニコーンとセレーネを交互に見続けていた。
「先に行ってて。すぐに行くから」
セレーネがそう言うと、子供ユニコーンは母親ユニコーンを追っていった。それを見送ってから、セレーネはカノンの元に戻る。
「ユニコーン達のところに行くよ」
「はい。こちらの骨はこのまま自立したままなのでしょうか?」
「うん。ひとまず、外と内から鍵を掛けられるようにしておきたいな。ここに客人を通す事はないけど、一応ね。窓も外せる? 出来れば埋めておいて」
「はい。窓を変えるとなると魔術陣も崩れる可能性がありますが」
「そうなったら言って。張り直すから。その時には最適化も済むだろうし」
「分かりました」
ほとんど聖域となっている部屋に侵入出来る経路を減らすための指示をカノンに伝える。この屋敷を所有しているのはセレーネだが、セレーネが直接改良などをする訳ではないので、カノンを経由する事になる。なので、カノンに言うのが一番だった。
セレーネは、カノンを連れて厩舎に向かう。その傍に藁が広く敷かれている。そこに子供ユニコーンが寝そべっていた。完全にリラックスしている子供ユニコーンの傍で大人のユニコーン達が警戒していた。
「まぁ、初めて来る場所だから、ある程度警戒はするよね。クロは何故か馴染んでるけど……」
セレーネの視線の先ではクロが子供ユニコーンの横で丸くなっていた。藁の中に大きな黒い球体があるので分かり易い状態だった。
「子供から聞いて信用したのではないでしょうか?」
「ああ、なるほどね。取り敢えず、皆を安心させるところからかな。メイドの皆を集めてくれる?」
「はい」
これから長く接していく事になるメイド達を紹介し、ある程度警戒を解いて良い人間を教えていく。それがこの場所で暮らすために必要な事の第一歩だった。




