肥料の成果
一週間後。諸々の視察を終えて、順調に進んでいる事が分かったセレーネは、庭の花壇にある野菜の様子を確認しに来ていた。
「おぉ……生長が早いのは良いね。でも、過剰生長はただ大きくなるだけっぽい?」
野菜はかなり大きくなっているが、大きな変化があるようには見えなかった。ここからは、まず分析に掛けて毒性がない事を確認し、食用に適しているかどうかを実食して確かめる事になる。
「ウノ。収穫して良い?」
セレーネは隣で一緒に見ている野菜の持ち主に確認する。
「はい。構いませんが、もう少し様子を見ないのですか?」
「全部は収穫しないよ。一個ずつ収穫して分析して食べる感じ」
「なるほど。では、こちらもお願いします。少なからず肥料の影響を受けているみたいですので」
普通に育てていた野菜も肥料を与えた土に近い場所で育っていたためか、通常よりも早く育っていた。ただし、これは適切な濃度の肥料を与えた時と同じ状態なので、過剰生長まではいかない。
それでも少なからず影響を受けているのは確かなため、食用にするにあたり、こちらも分析に掛けておく必要があった。
「分かった。じゃあ、実験室に行こうか」
セレーネが収穫した野菜をカノンが持ち、ウノが収穫した野菜はウノが持って実験室へと向かった。そこで野菜の分析を細かく行っていく。
「野菜も成分的には問題ないかな。ちょっとだけ多くなってる感じ。取り敢えず、私達に有害な毒はないよ。焼けば問題なし」
「承知しました。では、こちらで軽い食事を作ってきますね」
「よろしく」
ウノに残りの野菜を渡したセレーネは、分析結果をまとめていく。肥料の論文に記す必要があるので、丁寧にまとめる必要があった。セレーネが開発する魔術と異なり、この肥料は特に記載を制限する必要はない。下手すれば、毒性が強まるという危険性を悪用される可能性はあるが、そんな事を言えば、戦闘魔術の論文は一つも出せないという事になりかねない。
危険性があるのなら、その危険性を記載して周知させる事で犯罪に利用した際に利用したものの候補としてあげられるようにしておくのが一番だった。
空間魔術などの論文に関しては悪用されると、悪用された事は分かっても利用者が特定出来ない問題が生じるため、詳しい記載はされない。犯人特定に至る事が出来ない問題が生じれば、犯罪し放題という事になりかねない。こういった事は避ける必要があった。
「肥料の方は、適切な量を投与をすれば、普通に収穫までの期間を短縮出来るね。土の方の栄養とかもちゃんと補給できるし、土を休める必要がない……って言って良いのかな?」
「その辺りは農家に任せるのが一番良いかと」
「じゃあ、注意文で書いておこうか」
セレーネは記載する内容を整えていき、論文の下書きをしていると、ウノが二種類の野菜炒めを持って戻って来た。過剰生長をさせているものそうでないものの違いだ。
「簡単なものですが。ただ……ちょっと問題が」
「ん? 問題?」
セレーネが首を傾げるのと、カノンが毒味をするのはほぼ同時だった。二種類の野菜炒めを味わったカノンは、途中で眉を顰めた。
「大分大味になっているようです」
「野菜の風味とかが薄い?」
「はい。味付けをしっかりとすれば気になりませんが、美味しい野菜とは言えないでしょう」
「ふ~ん……」
カノンの毒味が終わり、特に問題がないとわかったため、セレーネも野菜炒めを食べ比べる。
「う~ん……確かにいつもの方が美味しいかも。味付けとかは大体同じだよね?」
「はい」
「過剰生長させないものは普通に美味しいもんね。過剰生長させるのは、食料が不足した時に少しだけ足しに出来るくらいのものって考えるのが良いかな。これならやっぱり適量で使用するのが一番良いね。野菜に関しては、そっちをメインにするように書いておこう」
花など魔術薬の素材とするものに関しては、過剰生長させる方が魔術薬の調合量を増やす事が出来るので適しているが、野菜に関しては美味しく食べるために適量での使用が望ましいという事が分かった。
「まぁ、これなら普通に売り出しても問題ないかな。ウノ、協力してくれてありがとうね」
「いえ。お役に立てたようで良かったです。では、私は通常業務に戻ります」
「うん。お願い」
食器を回収したウノは、普段の業務に戻っていった。それを見送って、セレーネはナタリアに提出する論文の下書きを書いていく。ある程度まとめ終えたところで、セレーネは立ち上がった。
「さてと、ナタリアのところに行こうか」
「はい」
カノンと共に屋敷を出て、ナタリアがいる総合研究室研究棟へと向かう。その途中で庭で遊んでいたユニコーンとクロを撫でる。満足したユニコーンとクロが再び追いかけっこを始めたのを見てから改めてナタリアの元に向かう。
受付のユリーナに案内して貰って研究棟を進んで行く。ナタリアは、総合研究室研究棟にある自分の研究室で作業していた。
「ナタリア。セレーネ様がいらっしゃったよ」
「ありがとう、ユリーナ。こちらまでお越しになったという事は、論文の提出でしょうか?」
「下書きが出来たから確認して貰いに来たの。これ」
セレーネは下書きをナタリアに渡す。その題名を見て、肥料に関する論文だと分かったナタリアは、手早く確認していく。
「なるほど。毒の成分も過剰生長で増える可能性があり、その点だけが危険という事ですね。ひとまず売り出す際に説明書を必ず付けるようにして適量を守らせるのが良さそうですね。この辺りは徹底しましょう。肥料自体に毒性を与えるような効果がない事がほぼ確定したので、売りに出す事は出来かと思われます。マリアナと相談してから決めるのが良いかと」
「うん。そのつもり。スノーホワイト公爵領とグリーン公爵領にも卸す事になってるから」
「それでしたら、先行で卸すのが良いと思います。恐らくマリアナからも提案されると思いますが」
「分かった。それじゃあ、しっかりと清書したら提出するね」
「はい」
ナタリアへの報告を終え、セレーネはマリアナの元に向かい、今後の肥料の扱いなどについて話し合っていく。注意事項などの作成なども含めて、どの流通経路に流すかなども決まり、後は大量生産するだけの話となった。




