港街の視察
翌日。セレーネは、港街の視察に来ていた。同行しているのはカノンとフィアンナだった。
「現在進められている港街の建設は、壁を挟んで街が広がるようになります。陸地側には新たに壁を建設し魔物対策をします」
「実質壁が二枚になる?」
「この場のみになりますが、その通りです。他の壁を越える方が楽だと思いますが、拠点確保するという面で攻められる可能性があります。ですか、防衛設備はしっかりと設置しますので、突破までの時間稼ぎは十分かと」
壁が二つあるため、敵の拠点としても利用される可能性があるが、それ以上に突破されるまでの足止めにも使えると判断されている。マリアナとしては、いざという時は街ごと吹き飛ばせるようにして、拠点として利用されないようにするのが一番なのではとも考えているが、具体的にどうするかはまだ決まっていない。
「まぁ、攻められないに越した事はないんだけどね。こっちの住人の募集もしてあるって話だよね?」
「はい。漁業を営んでいる移住希望者がいますので、そちらに紹介してあります。ナタリアが設計している船を見せたところ、かなり興奮していました。他の漁師にも話を繋げてくださるとのことでした。紹介して頂いた漁師の面接を行い、こちらに移住する事に適しているかどうかを判断するという形です」
「そこら辺は任せるよ。不利益というか、ちゃんと安全な人を選んでね」
「はい」
ここでも面接は欠かせない。最初に住む人はしっかりと選ぶ事になっていた。
さすがに全てが完璧な人間はいないが、なるべく問題を起こさない人を選ぶくらいならフィアンナ達でも出来る。その人の奥底に隠された暴力性が表に出てこない事を祈る事にはなるが。
「港街の範囲は当初の予定通りって話だけど、段差がある街になるのも予定通りで良いみたいだね」
「はい。業者の方々とも話し合い三段の街になる事になりました。坂道と階段が用意されますが、階段は傾斜が急になっている場所に作られます。傾斜が急では坂道としては不向きですので」
傾斜によって坂道か階段かを決める事になっている。ある程度以下の傾斜であれば、荷運びなどのために坂道とし、階段は主に人が使う事を想定していた。
急斜面に対して真っ直ぐと階段を作るのではなく折り返し状にして作られる。踊り場を広くして、海を眺められるスペースが作られる予定でもある。
踊り場を広くするのには他にも理由がある。階段を利用する際に詰まりを起こしにくくして、スムーズに上り下り出来るようにするためだ。
「なるほどね。そこら辺も計画通りではあるみたいだね。船着き場とかは?」
「街の建設と並行して進めています。埋め立てが必要になりますが、ある程度は魔術で形を作る事が出来ますので、問題はないかと。ある程度海に影響が出るかもしれませんので、今後の海水面の報告書や成分の報告書に異常が出る可能性を入れておいてください」
「うん」
海水を汚染する程の事が起こる訳では無いが、ある程度は異常が出る事を念頭に入れて置く必要がある。特にそれらの報告書を管理するセレーネは、これを頭に入れておかなくては、実際に異常が起きたのかと勘違いしてしまう可能性があるからだ。
「造船所は?」
「あちらです」
フィアンナは、造船所が作られている方向を手で指してからセレーネを案内する。港街から近いが少し歩く必要がある場所に造船所は建てられていた。
「ちょっと歩くね」
「一応、道は舗装する事になっています。あまり近いと音が響きますからね。それにかなり大きなものになりますので。予定では二隻同時に整備出来るようにする予定ですので」
「結局作るのは大型船だけ?」
「いえ、普通の漁船や調査船も作ります。一隻だけでは心許ないので。そのため港も少し大きくなりますが、当初の予定から既に大きなものでしたので、特には変わりません」
「そっか。住人の数は?」
「レッドブラッドの十分の一程度になる想定です」
レッドブラッド自体がかなり大きな街であるため、住人の数に大きな差が出来る。これは当然のことなので特に気にする事ではない。気にするべきは、住人の総数だ。
ここに出来る港街もセレーネの管轄内になる。つまり最初の住人達が落ち着くまでの間の食糧配給の問題が生じる。その時のためにある程度の数は把握しておきたいとセレーネは考えていた。
「そのくらいの人数なら、まだどうにかなりそうだね」
「はい。レッドブラッドもまだ全ての移住者が来たわけではありませんので、食料には余裕があるでしょう。農業区の拡大も始まっていますので、その辺りの心配はないと思います」
「それじゃあ、港街が稼働するのも時間の問題?」
「船の建造の問題がありますので、時間の問題と言ってもかなり長期的なものになるかと思われます」
「そっか。カノン、周辺の魔物の音は?」
街の開発状況を確認出来たセレーネは、周辺情報を確認するためにカノンの耳に頼る。カノンはしばらく耳に集中する。ユリーナには及ばないが、カノンの耳は通常の猫人族よりも良くなっているため、ある程度は把握できる。
「海の中は、はっきりとは分かりませんでしたが、一応周辺で魔物が暴れているような音はしません。冒険者達が定期的に狩りをしてくれている証拠だと思います」
「ベネット達の報告書でも、魔物は減ってきて安定し始めたってあったね。これで狩りが定期的に行われなくなったら、結構危ない?」
「はい。ですが、それはないでしょう。どうやら冒険者にとって、この辺りの魔物は良い収入源になるようですから。勝手に狩るよりもギルドで依頼を受けてからの方が遙かに稼げますので、マリアナがしっかりと調整しています」
「それは良かった。じゃあ、港街の視察はこれで十分かな。そうだ。ここから地下道までの道の舗装もお願いね」
「はい。ここからレッドブラッドまでの道も舗装予定です」
「よし。それじゃあ、今日は帰ろう」
港街の視察を終えたセレーネは、レッドブラッドに戻るためにカノンが運転する魔動車に乗り込んだ。視察が続くが、これも領主としての仕事。これさえ終えれば、再び研究をする事が出来る。セレーネがやる気を出すのには、それだけで十分だった。




