輸送手段確保
それから一週間の間に、セレーネは工場を完成させた。魔術機械を組み立て、しっかりと稼働する事も確認済みである。更にそれらの部品の状態を確認するための思考機も設置し、管理人が管理しやすいように整えていた。
本格的な稼働には、管理人が必要である事と材料が足りていないという事もあり、まだ完成しただけだった。
今日はその材料を搬入するための空間転移装置の設置をする。そのために必要なのは、ラングリドへの確認なので、【空間転移】を使い、ラングリドをレッドブラッドに連れてきていた。
「ここら辺で良い?」
「それはセレーネに任せるが、王都に繋げるだけで良いのか?」
「うん。直接他の場所と繋げても良いけど、こっちの方が色々と都合が良いでしょ?」
「その分料金は掛かる事になる。それでも問題ないか?」
「私が作るものは人の仕事を奪うものばかりだから、ある程度はね」
「あまり気にしなくても良いと思うが……」
「それに一気に色々な場所と繋げると、空間転移装置が詰まるしね」
「まさにその問題は起こっているな。それでも輸送時間は大幅に短縮出来ているが」
転移するものが多くなればなる程、転移元での渋滞が発生する。転移出来る量などに限りを持たせており、安全確認などの機構も含まれているために、こういった事が起こってしまうが、それは仕方のない事だと割り切る必要がある。
ただそれでも魔動列車を使った輸送よりも大幅に時間を短縮出来ているのは事実だった。
「まぁ、仕方ないよね。それじゃあ、工場に近いこの場所に建てるかな。マリアナとも話し合ったし」
「そうか。なら、こっちに建設のための人員を派遣しよう。王都には既に建築が済んでいる場所がある。そこに設置してくれ」
「じゃあ、転移しようか」
セレーネはラングリドを連れて王都に転移し、王都に建築済みの空間転移装置の設置場所へと向かう。そこでセレーネはテキパキと組み立てていく。
その間にラングリドは、領主としてのセレーネの話を聞いていく。
「領地の開拓は順調か?」
「うん。基本的には、マリアナ達がやってくれるから問題ないよ。まぁ、私も色々としてるけど。どちらかと言うと、研究をする方が領地のためになるからね。まだ学術都市の方が建設に至ってないから、全然終わってはないんだけどね」
「目処は立っているのか?」
学術都市完成までの道筋が出来ているのかという確認をされたセレーネは、首を横に振る。
「まだ。規則的なものはユイが整えてくれてるけど、学術都市をどういう形で作るかどうかは、まだ全部は決まってないかな。まぁ、大体の区分くらいは出来てるけど」
「ライルから聞いてはいたが、しっかりと領主としての仕事はしているみたいだな」
ラングリドは安堵したような表情をしていた。それに対して、セレーネは若干不満げな表情になる。
「そりゃあね。それが仕事だもん。私がやらないといけない事はしっかりとやってるよ。それ以外は任せるけどね」
「私もそちらに行きたいところだが……」
当主ではなくなった今であれば、カルンスタイン領の開拓を手伝っても何ら問題ない。そう考えての提案だが、セレーネはジト目で返した。
「お父様は、こっちでやらないといけない仕事がいっぱいでしょ。お兄様に家督を譲ったとしても、こっちの仕事が多いんでしょ?」
実際、まだまだ仕事自体はある。立場的な問題はないが、まだまだ仕事的な問題は残っていた。
「把握しないといけない事が多いというものだがな。加えて、セレーネが作った連絡用魔術道具の通話機が繋がるようになったからな。余計に注文が殺到するようになっている」
王都から始まっている連絡用魔術道具の普及は、大分広がってきた。テレサの護衛などもあり、作業を中断される事が少ないため、普及の速度は当初の想定よりも遙かに早かった。
「ふ~ん……こっちには通ってないから分からないなぁ。便利?」
「ああ。便利ではある。情報の伝達時間も大幅に減らせるからな。他の街との連携がやりやすい。輸送の目録などの共有は、さすがに出来ないがな」
「まぁ、そこは仕方ないね。普通に輸送前に送って貰うしかないよ」
「ああ、そうしている。それでもトラブルは絶えないがな」
「そこら辺は空間転移装置のトラブルとかじゃなくて、人間トラブルだよね?」
「ああ。この辺りのトラブルはどうやっても消えないものだな。そっちも気を付けるように」
人為的ミスに関しては、どれだけ注意をしても消えるものではない。そのため対処しようにも当人の意識をどうにかするしかなかった。
「は~い。そういえば、お父様はもう王城での勤務はなくなったの?」
「いや、ライルに家督を譲って、ほとんどの仕事は引き継いだが、いくつのかの仕事はそのまま継続している。ライルがやるには仕事量が多くなるからな。王城勤務に慣れてきてから、引き継ぐ事になるな。まずは王城内での味方を増やしていく必要がある」
「わぁ……面倒くさい。辺境で良かった」
政治的なものになるべく巻き込まれたくないセレーネは、王都で貴族にならなくて良かったと本気で思っていた。そんなセレーネに対して、ラングリドは若干呆れたような表情になる。
「そっちはそっちで、王都に味方を増やしておいた方が良いのだがな。マリアナが少しずつやっているのか?」
「さぁ? フィアンナが来たから、色々と外に出る事が多くなったし、ある程度成果は出てるみたいだけど、マリアナ自身もどこまで信じて良いものかって感じ。信じられる味方って言ったら、ヒナタ様とかヒルデ様とかリンド様とかゲラルド様とかかな? 後、陛下」
「……思えば、セレーネは大きな味方を付けていたな」
「結婚したし、隣領にいる人達だし、色々と会合とかも持つようになったからね」
「そうか。ああ、帰る前に陛下への挨拶と別邸に顔を出しておくように」
「お母様はわかるけど、陛下に挨拶って出来るの? 私何も約束とかしてないけど」
「こちらで事前に伝えておいた。名前を出せば通されるだろう。直接報告しておく事も重要なものだぞ」
「は〜い」
その後、セレーネはガンドルフとミレーユに軽く挨拶をしてから、カルンスタイン領へと帰還した。




