久しぶりの再会
それから一週間が経ち、冬の寒さが和らいで春の暖かさがやって来た。ユニコーンも常に立ちながら過ごせるようになり、時折元気に駆け回る姿も見られるようになった。体力的な面から、そこまで走る事は出来ないが、それ以外は元気になっている点から、経過は良好と考えられた。
牛型ゴーレムの利用も始まり、春の種蒔きに備えて畑起こしが急ピッチで進んでいった。まだ安全確認が全部済んでいないので、現状は貸し出し料金が安くなっている。おかげで、使用申請は多く来ていた。
フィアンナがしっかりと管理しているので、この辺りでのトラブルはない。
肥料の方は、まだ結果が出ていないために販売などはしていない。また、農業区の奥に新しく壁が出来上がり、そこで酪農をする事になった。新しく区域を作った方が多くの家畜を育てられるという農家からの嘆願書が届いたため、セレーネ達で話し合い決まった事だった。
地下道の方も半分以上が完成している。港街の建設も始まり、造船所も作られ始めていた。ナタリアが設計した大型漁船の製造も遅くとも来年には始まるだろうと考えられていた。
そんな中で、セレーネはカノンと共に着工した駅の視察に来ていた。
「セレーネちゃん」
視察に来たセレーネの元にジェニファーがやって来る。この駅の設計者兼責任者の立場として来ていた。
「ジェニファー。何度も設計やり直させてごめんね」
「ううん。素材の変更とかくらいだから問題ないよ。最後の仕上げは、セレーネちゃんがやってくれるって話だよね?」
「うん。【空間接続】を付けるからね。それ以外はそっち任せだけど」
「それが仕事だからね。全然気にしないで。一応工期は一年を予定しているけど、場合によってはもう少し延びるよ」
「分かった。延びる時は言ってね」
「うん」
これまでにないくらいに大型の駅となるため、工期の算出も少しだけ難しくなっていた。一年あれば完成するというように考えられているが、工期が変わる可能性も十分にあった。
セレーネとしては、工期が延びるのであれば、その分作業員達を支援するための物資が追加で必要になるため、事前に伝えて欲しいと考えていた。
この辺りは、マリアナとも相談して決めた事である。ある程度は支援のための物資を与える事で、作業員達の不満を減らすという考えだ。底まで大きな不満は出てこないと予想されるが、なるべく可能性を減らすという方針になっていた。
「そうだ。セレーネちゃんを驚かせようと思って内緒にしていた事があるんだ」
「ん? 何?」
首を傾げるセレーネの前にジェニファーが左手を見せる。その薬指には指輪が填められていた。
「あれ? 結婚したの?」
「うん。アカデミー時代からの友人とね。向こうは王都勤務だから一年くらい離れる事になっちゃったけど」
「あっ、新婚なの? ごめんね」
「ううん。向こうも理解してくれたから大丈夫。セレーネちゃんの事も噂とかで知っているしね」
「噂? 悪い噂とかじゃないよね?」
「うん。良い方の噂でね」
ジェニファーの言葉により悪い方の噂も存在すると知ったセレーネは、特に何も思うことはなかった。
「そっか。取り敢えず、おめでとう」
「ありがとう」
セレーネになりにジェニファーを祝福してから、一緒に全体を確認していく。
「ひとまず必要な資材の搬入とかは、着実に進んでるみたいだし、最初に躓くようなトラブルもなさそうだね」
「うん。その辺りも大丈夫。経過報告書は、マリアナさんかフィアンナさんに提出するって話だけど、それで合ってるかな?」
「うん。直接私に渡す手段はほぼないからね。研究もあって、この手の仕事は二人に任せてるから、二人に渡して。そうしたら、私のところにも報告が来るから」
「何だかセレーネちゃんも凄く偉くなった感じだね」
「まぁ、令嬢から普通に貴族になっちゃったわけだしね。色々とマリアナとかに丸投げしてるから、普通の貴族よりは楽できてると思うよ」
「まぁ、セレーネちゃんらしいと言えばらしいのかな」
変わらないセレーネにジェニファーは一安心していた。領主になろうと貴族になろうとセレーネはセレーネなのだ。
「もし、直接話す必要があるとジェニファーが思ったなら、どちらかに言ってくれたら繋いでくれるから。今は屋敷に招待も出来なくなっちゃったしね」
これはユニコーンという問題があるからなので、それが解決すればセレーネの友人として招待する事は出来る。あまりやり過ぎると、ジェニファーが別の意味で注目されてやりづらくなる可能性もあるので、セレーネとしても抑えめで招待しようと考えていた。
「それじゃあ、これからよろしくね。定期的に私の視察もあるから、そのつもりでいてね。事前に告知するとかはないから、私が来る時だけ真面目にやるとかは駄目だよ」
「さすがに大丈夫だよ。多分……」
ここで絶対とは言い切れないくらいには、作業員達を掌握出来ていない。ジェニファーとしては、セレーネを安心させるのと同時に信用を得て、更なる仕事を得られるようにしておきたいので、この辺りはしっかりとしたいと考えていた。
「まぁ、問題が起こったら、ちゃんと言ってね。それが人間の問題でもね」
「うん。何かあったらね」
国営ではあるが、カルンスタイン領に建てるものなので、セレーネ達にもある程度権利が存在する。建設の邪魔をするような作業員がいるのだとすれば、セレーネ達の方から外れるように命令を出す事も出来る。
それが通用しなくても直接建設会社の方に訴える事も出来る。ジェニファーで対応出来ないような問題になった際には、セレーネ達の方が適任となるのだった。
視察を終えたセレーネはジェニファーに手を振って、屋敷へと戻る。駅の建設が始まった事もあり、近い内に移住希望者達も一気に押し寄せるようになるだろう。その時のためにセレーネ達も準備を進めていく。




