肥料の結果
それから一週間が経った。ユニコーンは、大分まともに歩けるようになり、少しだけ走るという姿も見られるようになった。ただし、すぐに息切れをしてしまうので、走る回数は少ない。
そんな中で、セレーネは肥料の実験結果をまとめていた。
「毒性はなし。植物への影響は栄養補給と生長促進……濃度が濃かったり、投与量が多かったりすると過剰生長っと。これはこれで使えそう」
「何に使うの?」
今日はマリアの当番のため、セレーネの隣にはマリアがいた。
「例えば花なんだけど、過剰成長した花は成分が通常のものよりも濃くなっているみたいなんだよね。ここから薬を作った時にどうなるのかが気になるところだね」
「へぇ~、薬を使って育てた植物って、そういうイメージなかったなぁ。成分に問題はないって話だったよね?」
「うん。肥料による毒性はないみたい。植物本来の成分が多くなってるだけだよ」
「つまり、植物が持つ本来の毒も濃くなってる?」
「今回は毒草を育ててないから、まだ分からないけど、多分毒も強くなるかな。そういうのも含めて、色々と薬に使えそうじゃない?」
「まぁ、確かに。その分扱いを気を付けないといけないけどね。もう少し育ててみようかな。このまま肥料を使い続けていたらどうなるのか気になるし。ひとまず、こっちの花でどんな魔術薬が作れるか調べてみよう」
「それじゃあ、こっちのプランターは片付けるね」
マリアは収穫を終えたプランターを片付けていく。まだ肥料をあげ続ける方のプランターは、元々置いていた場所へと戻す。
その間にセレーネは魔術薬を調合するための素材を用意していく。
「うん。良し」
セレーネはテキパキと治癒薬を調合し始める。手順は普段通りで変えない。対照実験としては、ここを変えてはいけない。
そうして調合したものは失敗作となった。
「失敗した」
「セレーネが? 珍しいね。治癒薬くらいなら失敗しなくなってなかったっけ?」
「むぅ……素材がいつも通りなら関係ないもん。これは成分が濃かったからだよ。そこで狂いが生じたんだと思う。こうなると、他の素材も同じように成分を増やす必要があるかな。いや、逆か。濃度が高いって考えれば、こっちを希釈して治癒薬を作る量を増やせるってなる」
「確かに。希釈する分量はちゃんと計算しないと駄目だよ」
「うん。分かってる」
セレーネは分析した成分の量などから希釈のために使う水の量を計算していく。そうして正確に分量を量り、希釈したもので治癒薬を調合していく。すると、いつも通りの効能を持つ治癒薬が出来上がった。
「出来た。見て、いつも通りの治癒薬だよ」
「本当だ。という事は、肥料を使って育てた方が多くの薬を作れるって事だね」
「希釈の手間があるから、ちょっと難易度は上がると思うけどね。どう思う?」
「う~ん……確かに、ただでさえ分量を間違えると即座に失敗になるのに、希釈の分量もしっかりとしないといけないってなったら、更にやる気が無くなる人が出て来てもおかしくないかもしれないね。でも、それ以上に魔術薬を作る人達からしたら、大歓迎だと思う」
セレーネが開発した肥料は、一つの薬草からこれまで以上に魔術薬を調合出来るようになる。つまり、その分薬を増やす事が出来るという事だ。安定供給をより確固としたものとなり、薬の値段も下がると考えられる。
それが結果的に人の命を守る事に繋がる。
「取り敢えず、肥料自体の効果は分かったし、後は野菜でどうなるかを調べてみないとね」
「ただの生長促進だけなら使えるけど、過剰生長でどうなるかが分からないしね。下の花壇の一部で野菜を育ててみるって話があるから、そこに使おうか」
「じゃあ、許可取りだね。今は皆どこにいるかな?」
「この時間だと、それぞれの仕事かな。畑に植えたいって言っていたのは……ウノだから、お風呂掃除かな」
「じゃあ、お風呂に行こう」
「うん。その前に片付けね」
マリアと一緒に実験室を片付けさせられたセレーネは、マリアとお風呂へと向かう。
「ウノ」
セレーネがお風呂場に声を掛けると、すぐに金髪ツインテールのウノという名のメイドが駆け寄って来た。マリアの一歳下なので、セレーネよりも年上だった。年上なのだが、セレーネに懐いた犬のように駆け寄っている。
「はい! セレーネ様!」
「ウノは野菜を育てるんだよね?」
「はい! セレーネ様の花壇をお借りして良いというお話でしたので、少し耕して広げました!」
耕したその日に許可を貰っていたウノは、自分で鍬を使い、花壇を少し広げていた。そのためセレーネの花を植える面積は変わっていない。
「その野菜に肥料を与えたいの。私が作った肥料なんだけど、量を多くすると過剰生長しちゃうんだ。それを野菜でやった時の変化をみたいんだけど……ウノの野菜の一部を使わせて貰う事って出来ないかな?」
辺境伯であるセレーネからのお願いという事は、使用人にとってはほとんど命令に近いものとなる。しかし、そこはセレーネなので、メイド達にとっては、拒否も出来るものとなっている。
ただし、よっぽどの事がなければ、拒否をする事はない。
「はい。構いませんよ。食べられるものになると良いですね」
「良いの? ウノも言った通り、台無しになるかもしれないよ?」
「ですが、セレーネ様には必要な事ですよね。セレーネ様の実験はかなり重要なものですし、これがレッドブラッドの食料生産量にも関わってくるでしょうから、私でお役に立てるのであれば協力します。正直、頭は良くないので、セレーネ様の実験はあまり理解出来ませんが」
「そっか。ありがとう、ウノ」
「はい。頑張って下さい」
ウノから許可を貰ったセレーネは、花壇へと向かい、一部の作物に肥料を与えて、それが分かりやすくなるように目印を立てた。これで後はどうなるのか経過を観察するだけだ。




