牛型ゴーレム
実験室に入ったセレーネは、生産スライムが作り出している部品を確認する。
「問題なし。足の関節は【座標指定】で浮かす感じでいく。腿は身体に着ける。戦闘はしないから角はなし。背中には取り付け用の機構を組み込む。馬鍬は作らなくて良いんだよね?」
「はい。一般流通のものを用意していますので、そちらを利用できる形にしていただければ問題ありません」
「一応、設計した時に参考にしたから大丈夫なはず。ひとまず試作品を作ってからだね」
セレーネは、既に出来上がっている部品を手早く組み立てていく。少しずつ作業は進めていたため、後は組み上げるだけで良かった。生産スライムが作っていたのは、もしもの時のための予備部品だ。
そうして組み上がったのは、少し大柄な牛型ゴーレムだ。馬型ゴーレムを製造した経験が活きており、試作品の状態でも十分な出来栄えとなっていた。
「まぁまぁ良し。このくらいの大きさなら問題はないかな。カノン、馬鍬持ってきて」
「はい」
カノンが馬鍬を持ってくる間に、セレーネは軽く微調整を加えていく。
「ちゃんと稼働するから、魔力線は問題なし。部品の緩みもないね。この部屋を何周か歩いて」
セレーネの指示に従い、牛型ゴーレムは、実験室の中を歩いていく。その際障害物などをしっかりと避けながら歩いている。
このあたりは【思考演算】による判断が効いている。馬型ゴーレムも同じように障害物を認識する能力がある。これにより人を避ける行動が可能となる。意図的に機能を停止させない限り、自分から轢きに行くことはない。戦闘用の思考を入れていないので、その発想も中々出てこないようになっている。
「【思考演算】にも問題なし。後は畑起こしにどれだけ使えるかだね」
「お嬢様。お持ちしました」
「ありがとう、カノン。ここで止まって」
セレーネはカノンにお礼を言ってから牛型ゴーレムを止める。そして、その背中に馬鍬を繋げていく。
しっかりと固定具を繋げて、外れないようにしていく。
「ちょっと面倒くさいかな?」
「動物相手よりもマシかと。向こうの機嫌次第で蹴られるかもしれませんので」
「ああ、なるほどね」
生き物相手とゴーレム相手で大きく異なるのは、相手に機嫌があるかどうか。現時点ではゴーレムに反抗する意思はない。そのため牛相手よりも事故の発生率は格段に低くなると考えられる。牛相手でも事故が多発しているわけではないので、そこまで大きな問題ではないが、低くなる事に越したことはない。
固定するのに多少手間が要るが事故防止のためなので仕方ないとセレーネは割り切った。
「こんな感じ。ちゃんと着いてる?」
「はい。後は、これで畑を耕せるかです」
「じゃあ、庭で試そう」
セレーネは、牛型ゴーレムを【空間倉庫】に入れて、裏庭へと向かう。そこで牛型ゴーレムを出し、実際にカノンに使用して貰う。
「どう?」
「安定して耕せています。こちらの言う事も聞いてくれるので大きな問題もありません」
「速度はどう?」
「特には気になりませんが、耕す際はこのくらいの速度が良いと思います。あまり速すぎると雑になりかねませんので」
「そっか。まぁ、普段もそこまでの速度では走らないようにしてるし、一応このままにしておくかな。実際に農家の人が使った時に不満が出るようだったら改良する事にしよう」
これまでのゴーレム作りが活きており、試作品から十分に成功と言って良い出来となっていた。
そのためセレーネは自分で気になった箇所を細かく調整していく。基本的に魔術部分の調整だ。実際に組み立てた時に無駄になっている魔力線などの調整が主となる。
「こんなものかな。ナタリア呼んでくれる?」
「はい」
カノンがナタリアを呼んでいる間に、セレーネも試しに耕してみる事にした。
「おお……ちょっと難しいけど、あの鍬を振る動作がない分、人の身体に掛かる負担は軽減されるかな。それにしても……」
セレーネは牛型ゴーレムを止めて後ろを振り返る。そこには、しっかりと地面が耕されている庭があった。
「これどうしよう……」
「セレーネ?」
「あ、ユイ」
声に気付いてセレーネが上を見上げると、二階の窓からユイが顔を覗かせていた。ユイは、セレーネが牛型ゴーレムの試運転をしていたという事にすぐに気付いた。だが、それ以上、庭の土が耕されている光景を唖然として見ていた。
「それどうするの?」
「どうしよう? 実験で使うかな」
「なら、ちゃんと畑として区切って作りなさい。今のままだと庭か畑か分からないわよ」
「は~い」
ユイが顔を引っ込めると、入れ替わりでメイが顔を出した。
「セレーネ様。花壇にするのは如何でしょうか? 実験と一緒に花を育てられれば、部屋に飾る花などにも出来ますので」
「花壇ね。素材になる花とかも一緒に育てられるし良いかも。考えておくね」
「はい」
意見を出したメイは、ユイと同じく顔を引っ込め窓を閉めた。
それと同時にカノンがナタリアを連れて戻って来た。
「セレーネ様」
「ナタリア。これが牛型ゴーレム。どう?」
セレーネは牛型ゴーレムを動かしながら確認する。
「問題なく動いているようですね。畑起こしにも十分に使えそうです。こちらは水田などには使えますか?」
「使えると思う。膝の部分で【座標指定】を使ってるから、関節の詰まりとかはある程度避けられると思うし」
ナタリアは気になる事を聞きながら、牛型ゴーレムの確認を進めていく。
「魔力線の整理も終わっているようですね。稼働時間の方はどうなっていますか?」
「馬型ゴーレムと同じじゃないかな。今のところ、魔力切れが起きそうな気配はないし」
「なるほど。循環が上手くいっているのであれば、心配はなさそうですね。試作品ですが、このまま完成で良いと思います。セレーネ様は何か気になる点はありますか?」
「う~ん……今のところは……あっ、この馬鍬の取り付けなんだけどさ。結構固定が面倒くさいんだよね。かと言って、【座標指定】で指定しようとしたら、専用の馬鍬を用意しないと上手く稼働しないみたいな事になりそうだしで、ちょっと悩み中。割り切るしかないかなとは思ってる」
「なるほど」
ナタリアも馬鍬の取り付け部位を確認する。
「緩くなりにくい造りですから、この状態で良いと思います。一々外れる方が問題になりますので」
「そう? それじゃあ、ひとまずこれで完成かな。論文にして提出するね。設計図は出さなくても良いよね?」
「はい。使っている魔術などの概要のみで構いません」
「それじゃあ、書いてくる」
セレーネは、牛型ゴーレムを【空間倉庫】に仕舞う。屋敷に置いておくと問題が起こった時に困るからだ。
「そうだ。この耕した場所を花壇にして実験しつつ素材を育てたいから、必要なもの用意しておいて」
「それでしたら、私の方で整えておきます。セレーネ様は屋敷から出ないようにお願いします」
カノンに材料の用意を頼んだセレーネだったが、花壇として整えるくらいであれば、カノン一人でも出来るため、セレーネが論文を書いている間に作業する事になった。
その間、セレーネの元には居られないので、屋敷から出る事を禁止される。
「は~い。それじゃあ、明日か明後日に提出するね」
「はい。分かりました」
牛型ゴーレムが完成したため、ここからはマリアナにも話を通して、貸し出し用の決め事などを固めていく事になる。




