ライルとイリステラが帰る
それから一週間が経った。ひとまず、セレーネも仕事に戻る事ができたため、ライルとイリステラは王都へと帰る事になった。
「慌ただしくなってしまい申し訳ありませんでした」
セレーネは、途中からユニコーンに掛かりきりになってしまい、旅行どころではなくなってしまった事を謝罪する。これはライルへというよりもイリステラへの謝罪となっていた。
その事に気づいたイリステラは、セレーネの頭に拳骨を落とす。
「そんな事気にしない。この状況が分からない人間に見えるの? そこまで馬鹿でも自分勝手でもないわよ。あなたは、領主としてやるべき事をしていただけじゃない。誇る事はあっても謝る事はないわ。
それに、おかげでミュゼルがこっちでも上手くやっていけるどころか、しっかりと自分の役割を全うしているところも見られたしね。
新しい妹の頑張りも見られた事だし、旅行としても楽しかったわ。忙しい中歓迎してくれてありがとう」
イリステラは、セレーネを抱きしめながら頭を撫でる。それをフェリシア、ユイ、ミュゼルと続けていく。
「そうだ。最後にお父様からの伝言よ。偶には、四人揃って帰省しなさい」
「えっ……む、無茶じゃないかな……」
領主としてセレーネが管理している中で、四人揃って帰省するのは中々に厳しいのではとミュゼルは考えていた。特に街が機能し始め、学術都市も機能し始めれば、セレーネもさらに忙しくなる。
結婚式などならまだしも気軽に帰省するのは厳しいと考えられる。
「まぁ、ミュゼルの言う通りかもしれないけど、そのためにマリアナとフィアンナを雇ってるって面もあるんじゃない? それに帰省するなら、【空間転移】で行けるしね。ただ、後数年は厳しいとお伝えください。街と学術都市が軌道に乗ったら、帰省する時間もできると思いますので」
「ええ、そのつもりよ。さすがに、そこまで聞き分けが良くない国王じゃないから安心して」
セレーネもガンドルフがそこまで聞き分けのない人間だとは思っていない。なので、この辺りは理解していた。
「はい。後、お父様にも言っておいて」
「ああ、わかった。しばらくは父上も輸送会社の方で忙しくしているだろうからな。あまり言ってくる事はないだろう。つい最近まで王都で買い物をしていた時にも会っていただろうしな」
「そうだ。空間転移装置のことも考えないと。お父様にも伝えておいて。そろそろその話でそっち行くかもって」
「結局来るは来るんだな」
「仕事でね。長居はしないよ」
あくまでも、空間転移を使った輸送会社の社長と話すという事なので帰省と合わせる事はしない。この辺りの分別は、セレーネも付いていた。
「分かった。伝えておく。世話になったな。ユニコーンが早く良くなる事を祈る」
「あの子にもよろしく伝えておいて貰える?」
「はい。また機会があればお越しください。その時は、今回よりも歓迎出来ると思います。街も今回よりも発展していると思いますので」
「楽しみにしているわ」
ライルとイリステラは魔動車に乗り込んで王都に帰って行った。それを見送った後、セレーネは、リーナが世話をしてくれているユニコーンの元に向かう。
セレーネが部屋に入ると、ユニコーンがよたよた歩きで近づいてくる。まだ元気に走り回る事は出来ないが、こうしてただ歩く事だけは十分に出来るようになっていた。それからは基本的に立って過ごしている。そのため身体を冷やさないように馬着を着ていた。
「お出迎えありがとう。大分歩けるようになったね」
「ついさっき軽く駆け回る事も出来ていました。ただ体力的な面でも、まだ走り続ける事は厳しいようです。少しずつ歩きながら体力作りをしていく予定です」
「それが良いだろうね。ひとまず、これだけ歩けるようになったのは良かったかな」
セレーネは一頻りユニコーンを撫でると、部屋に設置している思考機からユニコーンの健康状態を確認していた。
「まぁ、すぐに筋肉は付かないから、体重の増加も緩やかだね。でも、内臓の動きとかは正常な状態になってると思う。まぁ、大人の馬の動きから子馬の状態を逆算して出した基準だから、ちゃんと合っているかは分からないけどね」
「牛乳も沢山飲んでくれるようになりましたし、後は動き回れるようになれば聖域に戻す事も出来そうですね」
「そうだね。もう少ししたら飼葉も購入しないといけないかな。牛型ゴーレムも作って畑起こしの効率を上げられるようにするべきかな。まぁ、すぐに飼葉が出来る訳でもないし、そこまで急ぐ必要はないかもしれないけど」
ユニコーンが後どれだけ滞在するかは、まだ分からない。だが、飼葉が出来上がるまでの間滞在する事はないだろうと、セレーネは考えていた。これは、ユニコーンの体調の変化を見ての判断だ。
「この調子なら、半年もせずに聖域に帰る事が出来るかもしれないしね」
セレーネがリーナと会話していると、ユニコーンがセレーネの傍に来て自分の健康状態が映し出された【投影結界】を見ていた。
「ん? これ? ユニコーンの健康状態だよ。今は……まぁ、そこそこ健康かもって感じかな」
セレーネがそう言いながら首を撫でるとユニコーンはセレーネに甘えるように頭を押し付ける。まだ先端が丸い角がセレーネの腰に刺さる。
「角は当てないようにね。若干痛いから」
セレーネは、しゃがみ込みながらユニコーンを抱きしめて撫でる。ユニコーンは嬉しそうにその場で軽く跳ねていた。だが、飛び上がる距離は一センチあるかないかだった。
「このあたりも元気になったら距離が伸びるかもね。毛並みも艶々だね。それじゃあ、今日も良い子でいてね」
ユニコーンを撫でたセレーネは、近づいて来たクロも撫でる。
「クロも良い子でね。ユニコーンの事よろしくね」
「にゃ~」
クロが元気に鳴いたところで、セレーネは部屋を出て実験室へと向かう。
「カノン、クロは大丈夫そう?」
「はい。ユニコーンを庇護対象と考えているようです。少し気を張っていますが、特に大きな問題はありません。睡眠もしっかりと行っているようです。元々眠りは浅いので、そこまで気にするような事でもありません」
「そっか。疲れてるように見えたから、ちょっと心配だったんだけど」
「それでしたら問題ありません。お嬢様を心配させるような事はクロもしませんので」
「そっか」
セレーネは、少し安堵しながら実験室に向かった。




