総動員
この緊急事態に、リーシアとミーシャも駆けつけた。カノンが呼びかけたためだ。
「セレーネ。大体のことはカノンさんから聞きました。ひとまず、魔術での補助は、もう少し弱めて良いかと。自発呼吸が戻ってきていますので」
軽く診断したリーシアは、ユニコーンの体内の様子などを確認して、過剰な補助は要らないと判断した。それを受けて、セレーネは、補助の魔術を少し弱める。
「虚弱な身体で産まれたようですが、病気というわけではありません。少しずつ健康になるように処置していけば、元の聖域にて暮らせるようになるでしょう。ただし、しっかりと自然での行動も覚えさせなければいけません。処置をして、後は親のユニコーンに任せるという事はないようにしましょう」
「定期的に様子を見に行く感じ?」
「それが良いでしょうね。取り敢えずは、しっかりと面倒を見ましょう。私は母乳の代わりとなる魔術薬を用意します。ミーシャは哺乳瓶を」
「かしこまりました」
「セレーネ、実験室を借ります」
「うん。ありがとう」
リーシアとミーシャは、赤ちゃんユニコーンに飲ませるための薬などを用意しに向かう。本来なら母乳の方が良いが、この場には無いため、代わりとなる薬を用意する。必要な栄養素などを考えれば、それが一番適していると判断したからだ。
これはセレーネにはできない事なため、リーシアに任せるしか無かった。
ナタリアは部屋の環境をより適した形に調えていた。
「ナタリア。人工呼吸器とかって、動物用のものある?」
「ありますが、基本的に獣医が扱うものですので、その手の病院がなければ置いていないかと。加えて、獣医の数はかなり少ないはずです。機材を持ってこちらに来ていただけるかどうかも分かりません」
「じゃあ、ユニコーンのためって事で開発しても問題はない?」
「そうですね。専用のものとするのであれば、特に問題はないかと。聖域の聖獣のためとなれば、陛下からも特別な許可を頂けると思います」
「魔術的な補助を目的とする開発……」
セレーネの片手が空中に文字を書き始めたため、カノンがクリップボードを持ってセレーネの側に座り、セレーネにペンを持たせてメモを出来るようにする。
【並列演算】を発動しているため、この状態でも魔術を正確に維持している。
そこにライルがやってきた。
「セレーネ。問題ないか?」
「お兄様。うん。今のところ、ちゃんと処置はできてるよ。リーシアちゃん達も来てくれたから、結構心強いしね。今は維持だけをしてるから、【高速演算】も切ってるよ」
「そうか。無理はするな。領主の仕事でやり残している事はないか?」
「う〜ん……今日からは、工場に機材を設置する予定だったから、今はないかも。何かあればマリアナかフィアンナが来ると思う」
「そうか。なら、俺でも代われそうな仕事なら、俺のところに寄越すよう伝えておく。セレーネは、こっちに集中しておけ。セレーネの手は必要だろう?」
当主となる上で必要になる事などはしっかりと学んでいるため、セレーネがやるような領主の仕事はライルでも代われる可能性がある。領が違うためにやり方が変わるかもしれないが、その辺りはマリアナやフィアンナから教えてもらえば良い。
「ありがとう。ごめんね。せっかくの旅行なのに」
「気にするな。妹が頑張っている中で、悠々と過ごしていられるかって話だ。イリステラの許可も貰っている」
「そっか。ありがとう」
「ああ。何か困ったことがあれば言え。俺で力になれる事なら、何でもやってやる」
「うん。頼りにしてるね」
ライルは、セレーネと話した事をマリアナにも共有するために、部屋から出ていった。
そのライルと入れ替わりにフェリシアがやってくる。
「セレーネ。手伝いに来たわよ」
「フェリシア、ありがとう。ナタリアと一緒に部屋の調節をお願い」
「分かったわ」
フェリシアは、ナタリアと合流して部屋に掛けている魔術陣を調整し始めた。
「温度は一定が良いのよね?」
「はい。ユニコーンの体温を下げ過ぎないために、なるべく一定が好ましいです」
「なら、この温度調節の方は任せて。ナタリアさんは他の魔術陣を頼むわ」
「ありがとうございます」
フェリシアも合流したことにより、ユニコーンを世話するための部屋の環境が調っていく。
「聖域と同等とはいきませんが、ある程度環境的には近づけられたと思います」
「うん。大分良いと思う。欲を言えば、聖域の泉の水を持ってきたいところだけど、ユニコーン達が許してくれるかな?」
「子供の為というのであれば許されるかと。ここまで連れてくることも許されていますので」
「まぁ、そうだよね。それじゃあ、私はユニコーン達に挨拶してくるから。カノン、スピカを起こして連れてきてくれる?」
「分かりました」
セレーネはナタリアと交代し、スピカが予備要員として部屋に来る。それを見届けてから、セレーネはカノンの運転で聖域へと向かった。
聖域内はセレーネだけで進んでいく。すると、すぐにユニコーン達が集まってくる。母親ユニコーンもしっかりとした足取りで近づいてきていた。
「大丈夫。ちゃんと看病してるよ。今のところ大きな問題はないけど、しばらくこっちで看病してあげないと危ないかもしれないんだ。心配だと思うけど、私達を信じてくれる?」
セレーネがそう言うと、ユニコーンはセレーネに頭を押し付ける。それを了承と受け取ったセレーネはユニコーンの首を撫でる。
「それで一つお願いしたいんだけど、あの子のために泉の水を汲んでいきたいんだけど、良いかな?」
セレーネの確認に、ユニコーン達は頷いて答える。あの子のためなら良いという事で良いかな。ユニコーン達と泉に行き、【空間倉庫】から空き瓶を取り出して泉の水を汲んでいく。
(これをリーシアちゃんに分析して貰って、あの子の食べ物とかに使えないか確認して……後は水を利用して環境を整えられないかの検証もかな。瓶十本分汲んで、必要になったら私とスピカで回収しに来るようにしよう)
聖域の泉から水を汲んだセレーネは、ユニコーン達を撫でて安心させてからカノンの元に戻っていった。
「カノン。水貰えた」
「それは良かったです。あの子の体調に影響してくれると良いですね」
「うん。帰ろう」
屋敷に帰ってきたセレーネは、リーシアに泉の水を渡し、分析してもらう事になった。これをユニコーンの赤ちゃんに飲ませて大丈夫かなどを調べるためだ。
分析が終わるまでの間、セレーネはお風呂に入り、早めに休む事になった。次の担当時間に備えるためだ。
全員で協力してユニコーンの赤ちゃんを看病していく。




