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先祖返りの吸血鬼は、気ままに研究がしたい  作者: 月輪林檎
領主

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イリステラの見学

 翌日。ライルとイリステラがいる中ではあるが、セレーネ達は通常業務に戻っていた。一応、ミュゼルだけはイリステラの付き添いをする事になった。

 その中で、イリステラが見学に選んだのは、セレーネの作業だった。執務室での作業ではなく工場での設置作業だったため、これの許可はあっさりと降りる事になった。


「自分で作るのね」

「セ、セレーネちゃんしか、組み立てられないので……」

「そんなに特殊な機械なの?」

「い、いえ、細かい部品を全て正確な位置と角度で固定しないといけないのです……ある程度の誤差は許されるらしいのですが、ミスをしないようにセレーネちゃんが自分で組み立てるのが一番だそうです……一応、取扱説明書は作っているようですが……」


 ミュゼルは、セレーネから預かっている取扱説明書をイリステラに渡す。それを開き、中を見たイリステラは顔を顰める。部品一つ一つの接続方法から、その角度などが細かく書かれている上に、その複雑さなどが見て分かるからだ。


「これを見ずにあれを組み立てているのよね?」

「はい。セレーネちゃんは、全部頭に入っていますので……」

「その辺りを聞くと末恐ろしいわね」


 今後セレーネは、全盛期のまま永遠に生きる事になる。そう考えた時、セレーネが今後開発するものが、これ以上の規模になっていくとイリステラは考えていた。


「お父様が領地を与えた理由も分かるわね。この国であれば、基本的に使い潰す事はないけれど、それはお父様が統治しているから。だから、自身の死後も安定して暮らせるように国になくてはならない領地として成長させようとしたのね」

「で、でも……結局は国の土地なんじゃ……」

「でも、あの子以外にここを任せられる人材なんていないでしょう? 聖域の管理も含めて、あの子がここで自由にやればやるほど、あの子なしでは運営出来ない場所になっていくわ。学術都市が出来れば尚のことね」


 少なくともイリステラが国の統治者であれば、セレーネに何かを命ずる事はなく、このまま自分の思うままに開発を進めさせる。そうすれば、国のためにもなる。

 加えて、ここでの開発が防衛にも活かされるために、セレーネを外すという選択がそのまま愚かな選択になり得る。

 ここが十分に開発された後でも、セレーネはそのままにしておく事が一番なのだ。


「どうせ、お父様が引き継ぎの時の資料に常に載せるよう計らっているだろうから、あまり心配しなくても良いかもしれないけれどね。それにしても手際が良いわね。こういう人材が多く育つような環境が用意出来れば良いわね」

「う、うん……ユイちゃんが仕組みを作っているから大丈夫だと思う……」

「そういえば、ユイはアカデミーでそういう事を専攻して学んでいたんだったわね」


 イリステラは、改めてセレーネが作った取扱説明書を見る。


(かなり複雑だけど、細部が分かり易くなっているから、絶対誰にも理解出来ないとはならないわね。ただ、私はこの手の分野に精通していた事がないから、言葉の意味が分からない点は多いわ。

 つまりその手の知識がなければ、これを扱えないという事。さらに逆に言えば、その手の知識があれば扱えるという事。

 この取扱説明書を見ただけで、その手の人材を育成する大切さを理解出来る。私にそれが理解出来るのなら、もっと頭の良い人ならすぐに理解出来る)


 改めて見ても、イリステラには内容の半分も理解は出来ない。大事な点などはそういう事が大事なのかという理解は出来るが、細かい原理までは理解できなかった。

 だが、それはイリステラが魔術や魔術道具、その発展系である魔術機械などへの知識が不足しているからだと、すぐに分かる。

 仮にその手の知識がある程度あれば、しっかりと理解して組み立てる事が出来るだろうとも、イリステラはすぐに気付いた。その事から、自分以上の知識などがある大人達なら、セレーネが自由に研究できる環境とそれを理解できる者を育成出来る環境が、どれだけ大事なものかすぐに理解できるだろうと考えていた。


(学術都市というのが、この人材の育成場所と考えれば、おいそれとは手を出せなくなる。その管理を任される人材は、この程度は片手間で理解出来るだけの知能が必要になる。

 ナタリアもそういう点では適任だけれど、セレーネが一番適任というのは疑いようもない事実ね)


 ナタリアの能力の高さに関しても、イリステラは認知している。だが、それでも一番適任だと思うのはセレーネだった。

 この魔術機械を作ったのは、ナタリアではなくセレーネだからだ。

 学術都市の管理と聖域の管理。このどちらもこなす事ができる適任者はセレーネを除いて他に居ない。領地の運営が足を引っ張る可能性はあるが、そこの補佐としてマリアナを置いているため、現状でも一切問題はない。


(セレーネは、反乱の時も魔術を使って普通に戦っていたと聞くし、そもそもの能力が高いのよね。そう考えるとクリムソン家は、かなり優れた家系よね。ライル様は騎士として判断力と武力に優れている。ベネットには武力で負けるようだけど判断力の良さはライル様に軍配が上がる。

 姉のテレサは、噂で聞くくらいだけれど、風魔術のスペシャリスト。自由自在に風を操り、レール設営班と中継基地までの通話線接続班の身を守る事が出来ていると聞くわね。その腕を買って、お父様も護衛に選抜したらしいし。テレサにあてがわれた仕事量が終われば、こっちに戻ってこられるはずだし、ここの戦力はかなり増強されるわね。まぁ、辺境を守るための戦力と考えれば許容範囲内ね)


 イリステラがそんな事を考えていると、油で汚れたセレーネが現れる。それを見たイリステラは、少し驚いたような表情になる。


「どう見ても貴族令嬢の姿じゃないわね」

「セレーネちゃんですから……」


 昔ながらの貴族令嬢のイメージはセレーネにはない。今のセレーネは誰がどう見ても整備員のようにしか見えなかった。だが、その中でもセレーネは活き活きとしているようにイリステラからは見えていた。

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